2020年11月28日土曜日

ポスト黒死病=ラストミドルは社会的混乱の時代!

ポスト黒死病の時代特性を、ラストミドルのヨーロッパをモデルとして、社会的混乱革新的動向の、2つの面から眺めています。

今回はまず社会的混乱


①教会大分裂(13781417年)

黒死病(134751年)が蔓延する前の1309年から、ローマ教皇クレメンス5世はフランスのアヴィニヨンに幽囚されて、神聖ローマ帝国に侵略されたローマには帰れない状態が続いていました。

黒死病の蔓延で幽囚が膠着しましたが、ようやく終息した後の1377年、教皇グレゴリウス11世はローマへ戻りました。

しかし、翌年没したため、13781417年の間、ローマ教会にはアヴィニヨンとローマに教皇が並び立つという大分裂となって、その権威は次第に失墜しました。

②英仏百年戦争(13391453年)

14世紀初頭から地球の平均気温低下、つまり小氷期が始まり、19世紀半ばまで続きました。寒冷化の影響で、ヨーロッパでは飢饉が頻繁し、131517年に150万人もの餓死者が出ています。

飢饉が進む中で、1339年、イギリス王家フランス王家が領土問題や国王継承権などを巡って抗争を始め、黒死病が収まった後の1360年に一旦は講和が成立しました。

しかし、1369年から再び戦乱が始まり、休戦、再戦を繰り返して、1453年の終結まで、ほぼ百年の間、戦争を続けました。

要因の一つは、①で述べたように、王侯間の調停役を務めていたローマ教皇が、アヴィニヨン幽囚や教会大分裂で、まったく介入できなかったためです。

③英・仏農民反乱(1358年、1381年)

百年戦争による社会的混乱に加え、黒死病の流行によって、農民人口が激減すると、労働力不足に悩んだ領主層は農民の移動の自由を奪って、再び農奴制を強化しようとしました。

そこで、農民層は農奴解放による自由を求めて、フランスでは1358年にジャックリーの乱イギリスでは1381年にワット=タイラーの乱など、農民反乱を勃発させました。

二つの反乱は間もなく鎮圧されましたが、この動きが農民一揆として長期的に継続するにつれて、農奴から解放され、自由を獲得した自営農民層が次第に増えていきます。

それとともに、貨幣所得の上昇に促されて、農村から都市へと移動する農民層も増加し、中世的な村落共同体は次第に解体されていきます。

以上で見てきたように、黒死病の大流行によって、すでに綻びの目立ち始めていた、農業後波のヨーロッパ社会は、その限界をいみじくも露呈させたといえるでしょう。

2020年11月18日水曜日

ポスト・コロナをラストミドルで展望する!

ポスト黒死病の時代をモデルとして、ポストコロナ時代を予測しています。

14世紀の黒死病ショックで、世界人口がピークを超えて、その後およそ6080年の間、減少を続けた時代は、農業後波下降期と位置づけられます。

当時の世界人口で1720%を占め、農業後波を主導してきたヨーロッパについては、歴史学者が「中世後期(Late Middle Ages」と名づけていますが、筆者はさらに略して「ラストミドル(Last Middle」とよんでいます(所以はのちほど述べます)。

ヨーロッパエリアは、次に始まる工業現波もまたリードする主導エリアですので、この点に注目しつつ、下降期の主な変化構造を整理してみると、下図のようになります。


13001450年の間に変化が発生した、特に大きな背景は、次の3つに集約できると思います。

基本的な背景

農業後波の世界人口容量(自然環境×集約農業文明=45000万人)が限界に達した要因において、この地域が大きな比重を占めていることです。

黒死病の背景と影響を考える!】で詳しく述べているように、このエリアでは、11世紀以降の大開拓時代が終わったため、中世の農業革命の成果も一応出尽くし、人口容量が飽和へと向かっていたのです。

自然環境

1300年ころに始まった寒冷化、いわゆる小氷期の開始により、集約農業の基本である農業牧畜に多大な影響が及び、とりわけヨーロッパ諸国では大飢饉が続いています。

当時のヨーロッパでは、農地が条件の悪い土地にまで広がって、食糧生産力も飽和状態に近づいていましたから、気候条件が少し悪化しただけで、直ちに凶作と飢饉が現れるという状態だったのです。

国際環境

13世紀から続いてきたモンゴル帝国によるユーラシア大陸支配、いわゆる「パクス・モンゴリカ」が終わり、1350年代以降は大陸各地で紛争の続く「ポスト・モンゴリカ」の時代に向かっていました。

黒死病・・・人口急減の引き金を引いた!】で述べたように、13世紀にユーラシア大陸を覆っていたモンゴル帝国の支配が弱体化するにつれて、アジア各地では西アジアのオスマン帝国(1299)、中国の明王朝(1368)、中央アジアのティムール朝(1369)など、新しい国家が次々に誕生しました。

こうした変化が、ヨーロッパ諸国にも危機意識を高めさせ、それまでの封建領主制から絶対王政への意識転換を促したといえるでしょう。

6080年間にわたるこの時代を、人口容量の限界化によって起こった社会的混乱と、その中から新たに生まれてきた革新的動向の、二つの面から眺めていきましょう。

2020年11月9日月曜日

2つのパンデミックを比較する!

黒死病が壊した農業後波の「生産・社会・識知構造」を先例に、コロナ禍が今や壊そうとしている業現波の「生産・社会・識知構造」を推測してきました。

コロナ禍が壊していくのは何か?2020725日】で予告しましたように、人口波動上の相似点巨視的変化の相似点時代識知の相似点を長々と述べてきましたので、3つの次元の比較を改めて確認しておきましょう。

人口波動上の相似点

黒死病とコロナ禍という、2つのパンデミックは、飽和期から下降期へと移行する、人類史の大きな転換点を示している点で、共通の構造を孕んでいる。








巨視的変化の相似点

2つのパンデミックの共通点として、①気候変動の拡大、②国際紛争の激化、③国際的主導国の消滅、④感染症などの大流行、の4つが指摘できる。

時代識知の相似点

黒死病はキリスト教をベースとする時代識知(三位一体エネルギー観、神地二国論、教団組織化など)の破綻を示し、コロナ禍は科学的理性をベースとする時代識知(分散型無機エネルギー観、要素還元主義、数理思考など)の限界化を示している。 



要するに、黒死病(Black Deathキリスト教識知観、三圃制農業、集団生産制、純粋荘園制、封建制、教会・王権並立制などを破壊し、コロナ禍(COVID-19)科学的識知観、化石・核燃料制、企業・工場制、市場経済制、民主主義、国家連合制などに衝撃を与えたといえるでしょう。

およそ700年離れた、2つの時代に以上のような相似点があるとすれば、これから始まるポストコロナ時代にも、おそらく似たような現象が現れるのではないでしょうか。

そこで、ポスト黒死病の時代をモデルとしつつ、ポストコロナ時代を大胆に予測していきましょう。

2020年11月3日火曜日

コロナ禍が暴露した近代社会の限界

黒死病が壊した農業後波の「生産・社会・識知構造」を先例に、コロナ禍が今や壊そうとしている工業現波の「生産・社会・識知構造」を推測してきました。

生産構造社会構造識知構造と順番に考えてきましたので、相互の関連を整理しておきましょう。



一番基底にある「科学」という時代識知は、分散型無機エネルギー観要素還元主義数理思考の、3つを主要構成要素としつつ、生産構造や社会構造にさまざまな影響を与えています。

分散型無機エネルギー観は、宇宙エネルギーを蓄積した鉱物を物理学的、多角的に利用しようとするエネルギー観ですが、「生産構造」の化石・核燃料や工業技術を支えている基本基盤となっています。

要素還元主義は、細かく「分析」することで全体が明らかになるという思考方法ですが、分析結果を「統合」するという視点を忘れたまま、「生産構造」の工業技術や資本・労働・消費制を生み出し、さらには「社会構造」の民主主義制や国家連合制などの制度構造にも及んでいます。

数理思考は、数学や統計学的な思考方法こそ唯一の科学的態度だという思い込みですが、主に「生産構造」の工業技術資本・労働・消費制、さらには「社会構造」の市場経済制などでも、基底的な思考法となっています。また資本・労働・消費制を通じて、「社会構造」の資本主義管理通貨制などにも及び、市場経済制を支えています。

以上のように、工業現波の生み出した近代社会は、「科学」的理性という識知観であれば、環境・世界の全てが認識できるだろう、という集団幻想によって支えられています。

いいかえれば、私たちの世界を動かす基本エネルギーを分散型無機エネルギーに依存しつつ、生産や社会を動かす理性もまた、数理思考や要素還元主義に基づく発想に基づいて、分析・分散型の構造を創り上げていく、というものです。

その結果、理性を追求する学問の構造もまた、自然科学、社会科学、人文科学に大別されたうえ、それぞれの内部をさらに細分化し、さまざまな学群・学類などに分けられてしまいました。

しかし、このような構造では、個別・分断化された知識を一つ一つ深めることはできたとしても、それらを全体的に統合して、実際に具現化するという思考行動については、ほとんど不可能なようです。

現実の世界を見ると、化石燃料系は大気汚染を引き起こし、核燃料系は高濃度放射能を拡散させ、巨大化した資本では寡占化や横暴化が進み、所得格差の慢性的拡大、大量生産-大量消費の害毒化物質的拡大限界化で情報化の台頭などが始まるとともに、ポピュリズムの拡大による民主制の危機コニュミズムの倒錯による全体主義の拡大中央統治機構の弱体化、そして国際機関の空洞化など、工業現波による国際的人口容量の限界化が際立ってきています。

これらの課題に対応していくには、経済学、社会学、法律学、行政学などの専門諸学はもとより、応用数学、システム科学、情報科学などの数理諸学といえども、細かく分離された学問ではもはや不可能でしょう。より統合化され、集中化された、もっと新たな思考行動が求められているのです。

私たちは現代社会の科学的思考法を唯一無二の理性だと思いがちですが、少し視点を広げて、4~5万年単位で振り返れば、せいぜい600年ほどの時代識知にすぎません。環境-世界を眺める識知は、時代とともに大きく変わってきているのです。

このように考える時、今回のコロナ禍によって、いみじくも露呈したのは、科学的理性をベースとして分野別に分離させられた、私たちの思考行動の破綻、そのものだったのではないでしょうか。