2022年2月23日水曜日

ディナミズムが旧石器文明を生み出した!

人類史を人口波動という視点から見直しています。

人口波動を生み出したのは、人類が環境世界へどのように対応したかという手段、つまり石器、農業、工業などの文明です。

さらにその背後を探ると、いかなる認識力で環境を理解したか、つまり「時代識知」が潜んでいる、と思います。

このブログで繰り返し述べてきたように、石器前波はディナミズムdynamism:汎力説)が、石器後波はアニミズムAnimism:汎霊説)が、農業前波はミソロジーMythology:神話)が、農業後波はリリジョンReligion:宗教)が、工業現波はサイエンス(Science:科学)が、というように、5つの時代識知がそれぞれの文明をリードしてきたのです。

当ブログでは、それぞれプロセスを詳しく述べてきましたので、今一度、識知と文明の関係を整理しておきましょう。

最初は石器前波を創り出したディナミズム(dynamism:汎力説)

ディナミズムとは【ディナミズム=動体生命観が石器前波を創った!】で述べたように、動いている物体の全てに対し「活力」や「生命」を感じる、という時代識知でした。

提唱者のR.R.マレットによると、「人間、事物、動植物、諸現象の作用や活動とは、活力、威力、生命力、呪力、超自然力である、と感じる心理や態度である」と考えて、「活力や生命力という観念が、歴史的にも心理的にも霊魂や精霊という観念に先行している」と述べています(Pre-animistic Religion1900)

要約すれば、環境空間の中で動いたり変化している、あらゆる物の中に「動力」や「活力」を認め、その延長上にそれらを生み出す「生命力」を想定する、ということでしょう。

この発想と旧石器文明の間には、次のような展開があります。

識知次元

ディナミズムとは、人類が感覚で「身分け」した「動くもの」を、「識分け」によって「動力」や「活力」とみなす行為であり、識知界の底部において捉えられたモノコトである。

道具次元

「動く力」を人類の暮らしに採り入れるために、[動かない石]と[動く腕力]を[合節化]することで[動く石器]を作り出した。岩石を打ち砕いた打製石器により、石礫、石矢、石斧、石刃、尖頭器などを製作し、環境世界への働きかけを可能にした。

文明次元

[動く石器」の使用によって、「動く諸物」の「動力」や「活力」を獲得し、自らの暮らしに[合節化]する仕組みを創り上げた。これにより、さまざまな動植物の体内に蓄積された太陽エネルギーを、石器を利用して採集し、人間のエネルギーに変換するという文明が形成された。

以上のようなディナミズムを、生活の上に位置付ければ、下図のようになります。



こうしてみると、ディナミズムとは、旧石器時代の人々の行った、さまざまな「合節化」行為を積み重ねて、「狩猟・漁猟・採集」文明を形成し、石器前波の「人口容量」を生み出した時代識知だった、といえるでしょう。

2022年2月15日火曜日

精神史が示すエネルギー観とは・・・

人類の精神史を「時代識知」という視点から、振り返っています。

人類が環境世界をどのように理解するかによって、生き延びるために、最も基礎的なエネルギー源を獲得するプロセス、その推移が推定できると思います。

前回、工業現波の「科学識知」では、宇宙エネルギーを蓄積した諸物を、多角的に利用しようとする「分散型・無機・有機エネルギー観」であった、と述べてきました。

このエネルギー観は、科学という識知の、最も基本的な態度である「分析(analysis)」、つまり「細かく分けて理解する」という態度と、かなり密接に連携していると思いますから、「アナリティクシズム(analyticism)=分析分担主義」とでも名付けることにします。

そのうえで、【宗教が農業後波を創った!】で整理した「動力譜」(Energy Flow:言語や観念などに潜むエネルギーの動き)に組み込んでみると、下図のようになります。


5つの波動を動かすエネルギー源が全て現れましたので、ここでもう一度、人類の動力譜を整理しておきましょう。

①石器前波の「ディナミズム(dynamism)=動体生命観」とは、時間の推移とともに動いたり変化する、あらゆる物の中に「動力」や「活力」を認め、その延長上にそれらを生み出す「生命力」を想定することです。

②石器後波の「インモータリズム(immortalism)=生死超越観」とは、生命力のあるものはすべて意志や感情という「意思」を持つ主体であり、その主体は生死を超えて循環する、目には見えない存在である、という新たな観念です。

③農業前波の「リレーショナズム(relationalism)=万物関係観」とは、宇宙エネルギーを無意識、心像、神話などのシンボルで、人間集団と自然環境の関係として相関的に捉えることによって、農耕・牧畜という、継続的な生産形態を可能にする識知です。

④農業後波の「インテグレーショニズム(integrationism)=万物統合」とは、宇宙エネルギーを直接的に応用するため、集落や村落などで、太陽神を中心とするツリー状の社会構造を成立させ、個々人の役割、倫理、責任などの関係性を改めて統合(integrateすることで、農業・牧畜業を担う間集団を形成する識知です。

⑤工業現波の「アナリティクシズム(analyticism)=分析分担主義」とは、宇宙エネルギーを蓄積した、有機、無機のさまざまな物質を、「科学(science)」という分析・分割的対応によって把握し、多角的に利用することで、工業や工業的農林漁業などの生産を実現する識知です。

以上のように「動力譜」という識知から人類史を見直してみると、宇宙のエネルギーを人類がどのように使用してきたか、という大局的な推移がくっきりと浮かび上ってきます。

2022年2月4日金曜日

科学識知が分散型エネルギー観を生み出した

「科学」という時代識知観が、工業現波を創った基盤である、と述べてきました。

基盤となったエネルギー観については、【コロナ禍が壊す生産構造とは・・・】や【ロナ禍に手も足も出せない分散型無機エネルギー観】などで、すでに検討していますので、その内容をひとまず要約しておきましょう。

●工業現波のエネルギー観は、「要素還元主義」に基づく「分散型エネルギー観」とでもいうべきものです。

モノを動かす力を「エネルギー」とみなす発想は、15世紀イタリア・ルネサンスの巨匠、レオナルド・ダ・ビンチの梃や滑車の活用研究に始まり、1617世紀のドイツのJ.ケプラー、イタリアのG.ガリレイ、フランスのR.デカルト、18世紀のフランスのR.ダランベールらの研究を経て、19世紀初頭、イギリスのT.ヤングにより「エネルギー:Energy」という名称で確定されました。

●こうした理論展開に裏付けられ、19世紀に産業革命がヨーロッパ全体に広がると、蒸気機関の普及と鉄道の発達が、エネルギー転換装置の典型として認知され、熱力学が成立します。さらに化学や生物学でもエネルギー転換に関心が高まり、電磁気学の成立で「エネルギー保存の法則」も生まれました。かくして19世紀中葉に物理学で確立されたエネルギー概念は、力学的エネルギー、熱エネルギー、電磁気的エネルギーなどを統一的にとらえるようになりました。

●初期の蒸気機関では、熱源として薪や石炭が用いられましたが、19世紀後半にアメリカで石油が発見され、精製技術が発達すると 徐々に石油や天然ガスの比重が高まってきました。

20世紀に入って、エネルギー概念が普遍的かつ基本的な自然法則として維持されるようになると、より直接的に熱エネルギーを力学的エネルギーへ変換する内燃機関(エンジンなど)が発達し、さらに蒸気機関や電気動力(モーターなど)も急速に発展しました。

20世紀中葉に至ると、核分裂エネルギーが登場しました。化学物質の燃焼である蒸気機関や内燃機関に対し、核分裂反応を利用して莫大なエネルギーを取り出すもので、原子力発電として拡大しました。1980年代になると、核分裂よりも大きなエネルギーが得られる核融合が研究され、核分裂よりもリスクが少ないため、核融合炉などによる発電用途に向けて、実用化の研究開発が進められています。

●ところが、1970年代以降、化石燃料系は大気汚染を引き起こし、また核燃料系は高濃度放射能を拡散させるなど、地球環境や生活環境を破壊する恐れが高まり、それぞれの限界が現れてきました。また石油や天然ガスも21世紀中に枯渇に向かい始め、石炭も22世紀には供給量がピークとなるなど、22世紀には化石燃料の資源枯渇が予想されています。

●このため、風力、太陽光など自然系エネルギーに再び注目が集まりました。二酸化炭素などの環境汚染物質をほとんど出さず、継続的に利用可能であることから再生可能エネルギーとよばれています。さらに地熱、波力、海洋温度差などの無機系エネルギーに、バイオマス燃料や家庭の生ごみ、外食産業の食品残菜、飼料・たい肥、木質系廃棄物などを利用する有機系エネルギーを加えて、さまざまな研究開発が進められていますが、未だ開発途上といえるでしょう。

以上のように、工業現波の世界では、物理学がリードする諸科学に基づいて、さまざまな無機エネルギーが利用され、さらに最近では有機系エネルギーも加わっています。

科学という識知が把握した世界像、つまり太陽を初めとする宇宙のエネルギー源を、人類の手で工学的に把握し、多様な熱源として利用しようとする発想といえるでしょう。

とすれば、工業現波を支えているエネルギーの基本は、宇宙エネルギーを蓄積した諸物を、多角的に利用しようとする「分散型・無機・有機エネルギー観」ではないでしょうか。