2020年9月2日水曜日

コロナ禍が民主主義を脅かす?

黒死病が壊した農業後波の「生産・社会・識知構造」を先例にして、コロナ禍が今や脅かそうとしている工業現波の「生産・社会・識知構造」を推測しています。

2番めは「社会構造」で、それを支える国家連合制、民主主義制、市場経済制の3つを順番に考えていきます。

今回は「民主主義制」で、その歴史をざっと振り返ります。



民主主義とは、その英語democracyがギリシア語のdemos(人民)kratia(権力)が結合したdemocratiaに由来しているように、国民の多数意志による政策決定を保障する政治制度や統治方式を意味しています。 


その意味で、Monarchy(君主政)、Aristocracy(貴族制)、Theocracy(神政政治)、Oligarchy(寡頭制)、Dictatorship(独裁制)、Totalitarianism(全体主義)などを大きく超えて、国民主権を実現する政治制度です。

民主主義の原型は、古代ギリシアの都市国家に求められますが、現代的な民主主義の形成は、17~18世紀の市民革命で専制的な絶対君主制が打倒された後のことです。

この時期に、国民主権、基本的人権の尊重、法の支配、民主的政治制度など民主主義的な思想や制度の原型が形成されています。

その後、19世紀中葉以降には、民主主義の課題は、経済的不平等の是正、社会的弱者の救済という方向に重点を移していきます。

第二次世界大戦後になると、ほとんどの国が、成年男女に普通・平等選挙権を認める民主主義国家となりました。しかし、社会主義を標榜する国家の中には、現在でも全体主義を続けているものもあります。


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以上のような民主主義制度を実質的に支えているのは、①間接民主制度②統治機構だと思われますので、まずは「間接民主制」の歴史と現況を確かめておきましょう。

民主制度には、国民が自ら政治に携わる「直接民主制」と、国民が選出した代表者に一定期間権力を委ねて政治を行う「間接民主制」がありますが、近代国家ではほとんどの国で後者が採用されています。

直接民主制が行われていたのは、B.C.5世紀ころの古代ギリシア、アテナイでのエクレシア(民会)でした。古代ローマの共和制ローマ(B.C.509~B.C.27年)になると、貴族による元老院と、平民による民会が行われ、それぞれ現在の上院、下院の起源となっています。

近代に入ると、18世紀のフランス革命で立法議会、国民公会などの議会が開設されると、1792年世界初の男子普通選挙が実施されています。

19世紀から20世紀にかけて、多くの国々で制限選挙から男子普通選挙への移行が進み、更に女性参政権も認められるようになりました。



フランスでは、1848年の第二共和政で再び男子普通選挙が導入され、1871年のパリ・コミューンで世界初の女性参政権が開始され、1945年に女子(21歳以上)の選挙権が認められました。 

ドイツでは、1867年に北ドイツ連邦で男子普通選挙が実施され、1919年にドイツ共和政で世界初の男女による完全普通選挙が実施されました。 

アメリカ合衆国では、1870年には全ての人種の成人男子に対する選挙権が付与され、また1920年女性参政権が認められました 

イギリスでは、1918年に男子普通選挙が実施され、1928年に女子(21歳以上)に選挙権が認められ、1948年に至って居住地以外に財産を保有する者の複数選挙権制度が廃止されて、完全な普通選挙権制度が成立しています。 

日本でも、1928年の衆議院選挙で25歳以上の男子による普通選挙が実施され、1945年から男女20歳以上よる普通選挙が行われています。 

以上のように、選挙による間接民主制は、今や世界中の国々に定着していますが、理想的な制度というには今一歩で、幾つかの問題点を顕在化させています。


●現在の間接民主制では、投票者のさまざまな要求を整合的に纏める仕組みが未熟なため、無力感や不信感が高まって、政治的無関心者が増加し、とりわけ若者の間で増えている。

●投票者は立候補者および政党に対して投票を行うが、個別の政策への投票ではないため、政策毎に争点が異なる場合には、自らの意見を反映することができない

●投票者は選挙時のみ政策的判断へ関与し、実際の政策実施は次期選挙まで代議員に委託してしまうため、当事者意識や責任感が希薄となって、政治的無関心に陥りやすい。

●当事者意識の高い投票者であっても、行政情報へのアクセス権限や政治課題の調査能力などでは職業的政治家や公務員などと圧倒的な差があるため、政策内容や実施状況の検証や理解が困難である。

●選挙活動には多額の資金が必要なため、利益誘導を約束した献金や投票誘導などの不正が行われやすく、政策の公平性に問題が生じている。 

以上のように、巨大化、複雑化した現代社会では、国民の多種多様な意見を、少数の政党を通じて政治へ反映させることが、次第に困難となりつつあります。

コロナ禍はこうした間接民主制の現状にどのようなインパクトを与えるでしょうか。

ともすれば高まってくる全体主義への誘惑を、いかにして振り払うことができるのでしょうか。

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