2020年2月22日土曜日

仏教の原点を考える!

時代識知としての“宗教”の特性を考えていきますが、最初は仏教!

周知のとおり、仏教はBC500年頃、北インドでゴータマ・シッダールタ(釈迦)が創始し、教団を組織化した宗教です。

初期仏教では、どのような視点で環境世界を捉えていたのでしょうか。


筆者所蔵の諸文献の中から、日本の仏教学仏教哲学を代表される先生方の見解を引用しつつ、その教義を推測してみましょう。


  
 高崎 直道 先生
仏教の教理の基本は,しばしば〈諸行無常:しよぎようむじよう)〈一切皆苦:いつさいかいく〉〈諸法無我:しよほうむが〉〈涅槃寂静:ねはんじやくじよう〉の四句に要約される。これを一般に四法印と呼ぶ。ときには〈一切皆苦〉を除いて三法印という。
(「仏教」:CD-ROM版・世界大百科事典 第2版 ベーシック版:1998)

 山崎 正一 先生
当時のインド思想界では、バラモン系統の有力な思想として、現実の世界の根源を「アートマン(永遠の魂―筆者注)」であるとする説があり、これに対してゴータマ仏陀は、この現実の世界を無常の世界であり苦の世界であるとする(「一切皆苦」)。そこに常住不変のアートマンのような精神的実体があるわけでもなく、また地水火風のような常住不変の物質的実体があるわけでもない。常住不変のものがあると思い、それに固執することによって多くの煩悩が生じる。しかし真実には常住不変なるものはない(「諸法無我一切は無常である:諸行無常」)。このありのままの心理を体得することにより、一切の苦を減しつくすことができよう(「涅槃寂静」)。そこに大いなる慈悲の世界が開かれてくる。現実の生命の世界は、真実を求める知性により浄化されて、広く豊かな生命の世界として救い上げられ恢復され開かれてくるのである。
(「仏教」:現代哲学事典:講談社現代新書:1970)

 三枝 充悳 先生
ブッダは「現実は苦である」との探究から出発し、それの解決を求めて修行し、苦からの解脱(げだつ)を覚って仏教を樹立した。苦とは、自己の欲するとおりにならない、願いがかなえられないことをいい、それを深く探究していくと、自己の外(そと)のものが思うようにならないというよりも、むしろ自己の内(うち)なるものが自己に背く、逆にいえば、たとえば、生(しょう)・病・老・死からの解放というような、自己にかなわないものを、自己が欲する、そのようなところに苦の本質があって、いわば自己矛盾ないし自己否定ということになる。(中略)それらの底にある執着(とくに我執)を排すべきことが「無我」と説かれる。これらの現実のありのままを明らかにして、覚りが開かれ、解脱が完成したところに、なにものにも乱されない槃の寂静が実現する。
(「仏教」:日本大百科全書(ニッポニカ):1994)

 中村 元 先生

仏教の教えというものは、この上に輝く日月のようなものである。太陽や月があらゆる人を照らすように、仏教の教える真理というものは、あらゆる人に明らかなものであり、あらゆる人を照らす。(中略)およそこの世のもので、いつまでも破れないで存続し続けるものは何もない。いつかは破れ消えうせるものである。(中略)この変転常ない世の中では、まず自分に頼るべきである。自分に頼るとはどういうことであるか。自分はこの場合にどうすべきかということを、その場合その場合において考えることでしょう。その場合 何を判断決定の基準にするのか。それは「人間としての道」「」、インドの言葉で言うと「ダルマ」と呼ばれるものです。これを「法」と訳しますが、この人間の理法というもの、これに頼ること「自己に頼れ、法に頼れ」。これが釈尊の最後の教えでありました。
(仏教の本質:NHK:2009/07/18)

以上のように見てくると、初期仏教の教義は、環境世界と人間の関わり方というより、個人としての人間の生き方を中心的なテーマにしているようです。

しかし、時代が下り、多くの人々を教団化するにつれて、より集団的、社会的な視点を加えるようになり、人間集団を動かす「時代識知」へと変化していきます。

2020年2月13日木曜日

宗教の定義を識知化する!

「宗教」の最も基本的な特性を3つ絞ってきましたが、これには四大宗教以前の特性も含まれており、時代識知と考える場合には適しているとは思われません。

そこで、より精密な宗教の定義を定めるため、下記の3特性からそれ以前の時代識知を差し引いていきます

【宗教の3特性】

原初的、無意識的、生得的な無限感覚という識知行動

超自然的な力や存在を認め、信仰する識知行動

③超自然的現象を理解する教義、儀礼、組織、制度などの社会的装置

【宗教以前の識知】

アニマティズム=ディナミズム(dynamism:動体生命観)・・・ 自他・昼夜・天地などを「動」「不動」に分節し、起因は「生命力」

アニミズム=インモータリズム(immortalism:生死超越観)・・・ 生命力のあるものは「意思」を持つ主体、生死を超えて継続する、目に見えない存在

ミソロジー=リレーショナズム(relationalism:万物関係観)・・・ 無意識・心像・神話を、文章共有で集団化し、農耕・牧畜などを継続的実施

【宗教の3特性】から【宗教以前の識知】を差し引く、図に示したように、【識知としての宗教】の特性が浮かび上がってきます。





識知としての宗教

開祖等による記号的観念体系の提唱・・・独創的な開祖(創始者)等が提起した、超自然的な現象を理解する態度や教義などを、宗教以前の“象徴”言語次元を超えて、より具象的な“記号”言語次元の観念体系として提唱する識知構造です。

観念信仰の集団幻想化・・・教義や儀礼など信仰を共有する集団を、宗教以前の限定的集団(同族集団、地縁集団など)を大きく超えて、より広く多様な広義的集団(民族集団、広域集団、国家集団など)にまで拡大しています。

組織・制度の社会的装置化・・・信仰を共有する共同体を維持・継承するため、組織や制度などを整備充実させ、治世方式、生産方式、国家体制など、新たな社会制度に拡大していきます。

このような3点こそ、時代識知として考える場合、宗教”という観念の明確な特性といえるでしょう。

2020年2月3日月曜日

宗教の定義・・・3つの識知的特徴

宗教の定義については、前回述べたように諸説紛々たる状況ですが、「時代識知」という視点から整理すると、極めて単純化でき、以下のように3つの特性が浮かんできます。

原初的、無意識的、生得的な無限感覚という識知行動

●人間の原初的、無意識的、生得的な無限感覚(C.P.ティーレ)

●存在の一般的秩序に関する概念の体系化(C.ギアツ)


●無限なるものを認知する心の能力(M.ミュラー)

超自然的な力や存在を認め、信仰する識知行動

●超自然的な力や存在に対する信仰(『百科事典マイペディア』)

●人間の力や自然の力を超えた存在を認める観念的行動(『世界宗教事典』)


●超自然的な存在に関わる事柄を自明なものに変換する識知行動(『知恵蔵』)


●証明不可能な秩序を神あるいは法則という象徴を媒介として理解する識知行動(『日本大百科全書』)


●証明不可能な秩序を根拠に、人間の生活の目標とそれを取り巻く状況の意味と価値が普遍的、永続的に説明できるという信念の体系(『日本大百科全書』)

③超自然的現象を理解する教義、儀礼、組織、制度などの社会的装置
●信仰に伴う教義、儀礼、組織、制度など(『百科事典マイペディア』)

●聖なる事物に関する信仰と行事との連帯的体系(E.デュルケーム)


●信仰体系に帰依する者を教会という同一の道徳的共同社会に結合させるもの(E.デュルケーム)


●観念体系に基づく教義、儀礼、施設、組織などを備えた社会集団(『世界宗教事典』)


●超自然的な現象を自明なものとし、人々をそのように振る舞わせる社会的装置(『知恵蔵』)

この3つが「宗教」の最も基本的な特性のようですが、①や②の内容には、四大宗教以前のアニマティズムアニミズムはもとより、シャーマニズムトーテミズムミソロジーなどの特性も含まれており、時代識知と考える場合には適しているとは思われません。



より精密な宗教の定義を定めるため、上記の3特性からそれ以前の時代識知を差し引いていきたい思います。