2017年2月22日水曜日

人口ピークも2極化していた・・・ヨーロッパ

ヨーロッパ諸国の合計特殊出生率は2極化しており、その背景については、出産支援策の得失から国民性による選択に到るまで、さまざまな見解が展開されています。

しかし、これらの見解から外れている事象も幾つか指摘されており、単純には説明できないようです。本当の要因は一体どこにあるのでしょうか?

そこで、筆者は「人口容量」という、まったく別の視点から説明してみたいと思います。

まずヨーロッパ主要国の人口の推移と予測を、1970年を基準にして、2100年まで展望してみると、下図のように描けます。




一目でわかるのは人口のピーク時点です。ドイツは2005年前後、スペインは2010年前後、イタリアは2015年前後、そして参考までに加えた日本も2010年前後であり、いずれも21世紀初頭にピークを迎えています。

一方、スウェーデン、フランス、イギリスはなお伸び続けており、ピークに到るのは22世紀以降となる模様です。

人口ピークとは、人口容量の上限を意味していますから、ドイツ、スペイン、イタリアはすでに容量の上限に達した国であり、スウェーデン、フランス、イギリスは未だ容量の上限に達していない国ということになります。

繰り返しますが、
人口容量とは【自然環境×文明】ですから、特定の時代の一国の人口容量は【国土の自然環境×現在の文明】で決まってきます。

自然条件や国土環境が類似したヨーロッパの国々であっても、それぞれの自然条件・国土面積・伝統的文化・国民感情など広義の自然条件と、物質的・経済的・社会制度的な広義の文明の組み合わせによって、それぞれの人口容量は自ら異なってきます。

その結果、人口容量の上限に早く達する国と、上限に遅れて達する国が生まれたようです。ドイツ、スペイン、イタリアはすでに容量の上限を経験した国、スウェーデン、フランス、イギリスは未経験の国ということです。

この2極化こそ、合計特殊出生率の2極化の真因ではないでしょうか。

先にあげた「
合計特殊出生率で2つに分かれる」のグラフと、上記のグラフを比べてみれば、人口ピークの2グループと合計特殊出生率の2グループがぴったり一致していることがわかります。

とすれば、「合計特殊出生率の2極化の要因は、人口ピーク前後の2極化にある」とも考えられます。人口ピークを経験した国では出生率が低く、未経験の国では出生率が高いのです。

では、なぜ人口ピークの経験の有無が合計特殊出生率の偏差を生み出すのでしょか。次回以降で考えてみましょう。

2017年2月18日土曜日

合計特殊出生率で2極化するヨーロッパ主要国

少子化対策の是非が議論される昨今、フランスやスウェーデンなど、ヨーロッパ先進国の成功事例を、わが国にも導入すべきだ、との意見が高っています。

本当にそうなのでしょうか。

ヨーロッパ主要国の合計特殊出生率の推移を眺めてみると、2つのグループに分かれています。


フランス、スウェーデン、イギリスの高グループと、ドイツ、イタリア、スペインの低グループです。日本の出生率も低グループと同じです。

なぜ2つに分かれるのでしょうか。

フランスやスウェーデンでは、現金給付と現物給付の両立支援」が成功し、ドイツでは現金給付が中心で成果が出なかったため、とか、イタリアやドイツでは伝統的家族観」が強く、良妻賢母が貴ばれているせいだ、などと説明されています。

しかし、現金給付が中心のイギリスも高グループに入っており、地縁共同体が
強いゆえにスペインは低グループに留まっている、との指摘もあります。

スウェーデンでは、1980年代に両立支援を強化して、90年前後に出生率を一気に高めはしましたが、その後の財政破綻で支援を弱めると、5年ほどで急低下させました。


この経緯については、筆者は17年前、「中央公論」(2000年12月号)に「スウェーデン・モデルの失敗」と題して寄稿しています。もっとも、2000年以降は順調に回復させ、今では高グループに入っています。

このように、高低両グループの要因は、支援策の有効性から伝統的な国民性に到るまで、極めて多岐にわたっており、単純には説明できないようです

本当の要因は一体どこにあるのでしょうか?

2017年2月10日金曜日

少子化対策の本質と限界

少子化対策といわれる結婚・出産促進策で、人口容量の限界で作動した人口抑制装置を覆すことができるのでしょうか

人口抑制装置とは、幾度も述べてきたように、あらゆる生物に生得的に組み込まれた個体数調整のしくみです。

キャリング・キャパシティー(生存容量)が満杯に近づくにつれて、その範囲内に収まるように、さまざまな種はそれぞれの数を抑え込んでいきます。

もし個体数が容量を超えてしまえば、やがて大量死をもたらすことになりますから、予めそれを抑えようとするのは、危機的状況を避けるための、生得的な“知恵”ともいえるでしょう。

つまり、個体数抑制装置とは、一定容量下に生息する生物集団にとって、破滅的打撃を避けるための遺伝的なしくみなのです。


人間の場合も、こうした装置は当然、生理的次元に組み込まれていますが、さらに文化的(人為的)次元でも作動しています。要するに、人間では生理的抑制と文化的抑制の二重の装置が働いているのです。

この人口抑制装置には、すでに【
人為的抑制装置には3つの次元がある!】で述べたように、出産や転入などを抑える増加抑制装置と、死亡や転出などを促す減少促進装置の両面があります。

一方、昨今喧伝されている少子化対策は、この増加抑制装置の作動を抑えようとするものです

人口減少は社会的混乱を招くおそれがあるから、これまで続いてきた社会構造をなんとか維持するために、人口を保持・増加しようとするものです。

極論すれば、現代の日本人が長期的・無意識的次元で選んでいる人口増加抑制行動を、短期的・意識的(意図的)な次元でひっくり返そうとする人口再増加行動ともいえるでしょう。

それゆえに、少子化対策はほとんど効果を上げられません。




図に示したように、そのほとんど全ては間接的抑制装置の作動に向けられており、それがもし成功したとしても、その効果が限られたものなのです。

というより、近視眼的・部分的視点で立案された対応策では、ほとんど効果は上げられないともいえるでしょう。

人口抑制装置の作動とは、それほど単純に抑えられるものではないのです




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2017年2月4日土曜日

少子化対策で出産は増えるのか?


昨今のわが国では、出生数が減り続けているため、さまざまな出産奨励策が展開されます。

その中核となる、政府の「少子化社会対策大綱(2015年3月20日閣議決定)では、次のような重点課題が立てられ、それぞれに対応する政策が計画されています。

子育て支援施策の一層の充実・・・子ども・子育て支援新制度の円滑な実施、待機児童の解消、「小1の壁」の打破 

若い年齢での結婚・出産の希望が実現できる環境の整備・・・経済的基盤の安定、結婚に対する取組支援 

多子世帯への一層の配慮で3人以上子供が持てる環境の整備・・・子育て・保育・教育・住居など様々な面での負担軽減、社会の全ての構成員による多子世帯への配慮の促進 

男女の働き方改革の推進・・・男性の意識・行動改革、「ワーク・ライフ・バランス」・「女性の活躍」の推進 

地域の実情に即した取り組みの強化・・・地域の強みを活かした取組支援、「 地方創生」と連携した取組の推進


これまで述べてきた人口抑制装置の視点で考えると、これらの対策は果たして効果があるのでしょうか。
 



① 「
出産適齢女性人口の減少」は、一定の人口容量の中で人口集団が増加・停滞・減少という過程を辿る場合、年齢構成が徐々に上昇していくという生理的装置の結果であり、大綱の諸対策では如何ともしがたい

② 晩婚化・非婚化が拡大する一因が、
「遭遇機会減少という社会的環境」や「結婚資金不足という経済的環境」などの社会的条件の変化であるとすれば、大綱の諸対策はそれなりの効果が期待できる

③ もう一つの要因が
「自由度の維持」や「不必要性」などの個人的願望の変貌である以上、大綱の諸対策の効果はほとんど期待できない

④ 結婚・出産の外部環境で
「大都市という居住環境」や「人口容量の伸び悩み」という抑制装置が暗黙のうちに作動している以上、大綱の諸対策の効果はほとんど期待できない

⑤ 結婚・出産の個人条件で、個々人の「自我肥大度」は高まるものの「期待肥大値」は減少するため、
自己保守意識が拡大している以上、大綱の諸対策では如何ともしがたい

⑥ 少子・無子化が拡大する一因が、
「夫婦の人生観・生活意識と子どもに対する費用対効果の比較」であるとすれば、大綱の諸対策それなりに効果が期待できる

⑦ もう一つの要因が
「夫婦の自我肥大度」と「子どもの期待肥大値」の比較である以上、大綱の諸対策の効果はほとんど期待できない

以上のように、少子化社会対策大綱の諸対策では、一部の効果は予想されるものの、人口抑制装置の本質的な作動に対抗することはほとんど不可能であり、結婚の促進も出産の増加もともに期待できないといえるでしょう。





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