2022年11月27日日曜日

人減先進国・濃密生活対応産業とは何か?

人減先進国の向かうべき産業分野として、①人口容量維持産業、②情報深化推進産業、③濃密生活対応産業の3つを挙げてきました。

前回の「情報深化推進産業」に続き、今回は「濃密生活対応産業」、いわゆる「コンデンシング対応産業」を考えてみます。

人口減少が少なくとも7080年は続く以上、人口増加を前提に、生活民一人当たりの物質的な需要のみを成長・拡大させ、生活市場を拡大させるというような産業対応は、もはや通用しません。

人口は減っても、述べたように、人口容量が維持されていけば、生活民一人一人に与えられた個人容量は増えていきますから、それらを精神面や生きがい面など、内面的な濃密性の充足に対応させることで、消費量を倍増させるような、新たな生活産業が必要になってきます。

いかなる産業なのか、この件については、筆者の別のブログ【生活学マーケティング】で詳細に述べていますので、その要旨を紹介しておきます。

●人口減少時代の生活様式は、上昇志向、物的拡大、自己顕示といった人口増加時代の様式を超えて、足元志向、心的充実、自己充足などをめざすものとなる。一言でいえば、濃密な生活、つまりコンデンシング・ライフ(Condensing Lifeこそ、新たな生活様式になる(コンデンシング・ライフを求めて!)。

生活民の生活構造は、【これが生活体だ!】【「生活民」の生活構造とは・・・】【「生活体」から「生活球」へ】などで述べているように、3つの軸から構成されている。

縦軸感覚(体感・無意識・象徴)と言語(理性・観念・記号)を両極とする。

横軸個人(自給・愛着・効用)と社会(交換・同調・価値)を両極とする。

前後軸では真実(儀礼・学習・訓練)と虚構(遊戯・怠慢・弛緩)を両極とする。

3つの軸が交わる中心として、「日常・平常」な生活が位置づけられる

●このような構造を前提にすると、従来の膨張型生活(Expanding Lifeから、今後の濃密型生活(Condensing Lifeでは、次のようなトレンドが強まってくる。

❶社会(交換・同調・価値)より個人(自給・愛着・効用)を重視する。果実でいえば、売れるか否かよりも、自分の好みや馴染みを重視する。・・・基本は差延化!

❷言語(理性・観念・記号)より感覚(体感・無意識・象徴)を重視する。衣類でいえば、デザインやブランドよりも、着心地や保温を重視する。・・・下降型生活行動へ向かって!

❸真実(儀礼・学習・訓練)と虚構(遊戯・怠慢・弛緩)の、両方の密度を高める。勉強の中身を深めるととともに、遊びの中身も濃くしていく。・・・虚実濃密行動とは何か?

3軸が交わる「日常・平常」な生活は、肥大化よりも濃縮化へ向かう。暮らしの規模は、量的な拡大よりも、質的な充実をめざす。・・・差別化の本質が変わる!


以上で述べた4トレンドの濃厚化に対し、人口容量維持産業情報深化推進産業がいかに的確に対応していくか、それこそが人減時代産業育成の中心的な課題となるでしょう。

2022年11月16日水曜日

人減先進国・情報深化推進産業とは何か?

人減先進国の向かうべき産業分野として、①人口容量維持産業、②情報深化推進産業、③濃密生活対応産業の3つを挙げてきました。

前回の「人口容量維持産業」に続き、今回は「情報深化推進産業」、いわゆる「IT応用深化産業」を考えてみます。

今、世界が向かいつつある人口減少社会では、増加時代の物量的拡大とは異なり、情報的充実の時代になっていきます。

増加時代の時代識知は、人口容量の増加をめざして物質的な拡大を推進してきましたが、容量が満杯に近づき、人口が減少し始めると、量よりも質を追い求めるようになるからです。

1980年代以降、急速に進んできたITInformation Technologyという現象自体が、科学技術によって物的拡大を推進する時代が終わりに近づき、質的充実へと転換したことを示しています。

それゆえ、モダン社会も最終段階の「ラストモダン」へと向かいつつあります。

ラストモダンでは、これまでの科学技術という時代識知への、さまざまな反省が試みられ、次の時代を創り出す、新たな時代識知(多分、新版科学技術)への模索、つまり「ル・ルネサンス」が展開される、と予想できます。

こうしたトレンドに乗って、情報産業もまた、新たな次元へと突入してきます。

昨今「4次産業革命」などと表現されている段階ですが、それは第1次(水力や蒸気機関による工場の機械化)、第2次(電力による大量生産)、第3次(電子工学や情報技術によるオートメーション化)に続く第4次(IoT、ビッグデータ、AIによる生産革命)という位置づけです。

しかし、人口波動という、より長期の視点に立つと「第5次情報化」ともよぶべき時代です。第1次の石器前波末期(石器の用具から情具へ!)、第2次の石器後波末期(縄文文明も用具から情具へ!) 、第3次の農業前波末期( 3情報化の時代 、第4次の農業後波末期(4次情報化の時代)に続く、第5次の工業現波末期という位置づけになるからです。

つまり、今後の人減社会で急速に進んでいく情報化やAI化とは、工業現波末期=ラストモダンを象徴する「5次情報化」を意味しているのです。
とすれば、情報深化推進産業とは、生産や経済構造の進化を担うという次元を超えて、科学技術という時代識知を見直すという目標をめざすことになるでしょう。

その方向とはいかなるものでしょうか。3つの次元で大まかに展望してみましょう。



電子情報活用産業

IoTInternet of Things)、AIArtificial Intelligence)、Metaverseなど、急速に進展する電子情報化を、生産・流通・サービスなどに能動的に応用して、後述する濃密型生活態様に対応する、新たな産業や斬新な供給形態を柔軟に創造していく。

認識転換推進産業

電子情報化の浸透に伴って、私たちの感覚次元では、仮想空間の中で感じる視覚・聴覚の変化、ハプティクス(Haptics:触覚操作)が加わった触覚や空間知覚の変動など、感覚的な認知行動に大きな変化が生じる。そうなると、これらの変化に影響されて、私たちの理知的な識知行動にも、かなりの変化が生まれてくる。こうした世界環境に対する認識行動に変化に積極的に対応する、新たな産業の創造が期待される。

ル・ルネサンス推進産業

新たな認知・識知行動によって、環境世界の捉え方が変革されてくると、それに対応して時代識知の変革が進んで行く。ラストモダンの第5次情報化が進むとともに、工業前波の次に来るべき工業後波を生み出す時代識知が形成されていく。それは、ラストミドルのルネサンスが生み出した「科学」という時代識知を超えて、ラストモダンのル・ルネサンスが育て上げる新たな知性、「新科学」ともよぶべき時代識知なのである。こうした識知の形成に対応して、それらを応用する新産業が生み出される。

以上のように、情報深化推進産業では、従来の電子情報の進展を促進するばかりか、その範疇を大きく超えて、「新科学」という新たな時代識知の育成を助長するような、さまざまな産業が期待されます。

2022年11月7日月曜日

人減先進国・人口容量維持産業とは何か?

人減先進国の向かうべき産業分野として、①人口容量維持産業、②情報深化推進産業、③濃密生活対応産業の3つを挙げてきました。

最初に「人口容量維持産業」、いわゆる「サステナブル対応産業」とはいかなるものか、を考えてみましょう。

人口容量12800万人の基本である生活資源の規模を維持していくには、図に示したように、扶養量と許容量の両面への対応が必要であり、両方を確保していくには、国内での生産と国外からの調達の両方向があります。 





扶養量対応産業

扶養量対応では、生活資源(食糧・衣料・住居など)や生活素材(熱源・移動・通信など)といった、生活基礎物質を確保する産業の維持が求められます。

従来の人口増加社会では、これらの資源や素材の大半を国外からの輸入に頼ってきました。しかし、ラストモダンに突入した、今後の世界では、需給環境が極めて不安定化する可能性が高まっており、自給率を高めていかなければなりません。

それゆえ、食糧はもとより衣料素材や建築材料などについても、国内での生産量を増やし、可能な限り自給していくような産業の振興がまずは必要となります。

それでも、国内では調達できない資源や素材については、国外からの調達がどうしても必要ですから、それらの輸入対価を得られるほどの輸出製品を生産する、さまざまな産業の振興もまた振興していかなければなりません。

その時、新たな輸出商品として求められるのは、従来の成長・拡大型商品ではなく、後述するような濃密生活対応商品となるでしょう。そうした商品の開発する産業こそ、国内需要を超えて、人減社会の新たな産業構造をリードしていくことになるでしょう。

 

➁許容量対応産業

許容量対応では、人口密度(過密・過疎など)の居住限界や廃棄物(生活・産業廃棄物・排出ガスなど)の処理限界といった、さまざまな制約を緩和する産業が求められます。

過密・過疎など居住環境の限界を調和する、土木・建築などの生活環境改善産業では、成長・拡大型の新規事業を抑えて、既存の国土・都市環境をいかにして保存・改善していくか、という飽和・濃密型需要への対応が、新たな産業目標となってきます。

一方、大気汚染・水質汚染・廃棄物増加などへの環境改善産業では、国内での対応はもとより、国際的な環境保全需要に対応する、さまざまな産業の育成が求められます。その意味では、国際連合の提唱するSDGs17目標のうち、地球環境対応の5目標に連動するともいえるでしょう(それ以外の12対策については当ブログのSDGs)

以上のように、見てくると、両方の産業はともに、人口容量の拡大をめざすのではなく、既存の人口容量をいかにして維持していくか、を目標にしています。

その意味において、人口容量維持産業とは、広義の「Sustainability(サステナビリティ)」を実現する産業ともいえるでしょう。