2022年9月20日火曜日

生産・分配制度を見直せ!

人減先進国の社会構造を展望しています。

最も基本となる生産・分配制度、つまり政治・経済制度は、どのように変えていくべきでしょうか。

この課題については、すでに【生産・交換制度の未来を読む!】で詳細に検討していますので、以下では要点を提示しておきます。

経済人類学者の.ポランニー1886~1964によると、人類が歴史的に創り出してきた生産・分配制度、つまり社会・経済のしくみには、家政、互酬、再配分、交換の4つがあります。

現代風にいいなおせば、「家政」とは個々人とその家族だけの自給自足制度、「互酬」とは家族や親族、さらには継続的な地縁・友縁などによる生活扶助制度、「再配分」とは国家による生活維持・保障制度、「交換」とは市場を通じて形成される生活構築制度ということになるでしょう。

4つの歴史を当ブログ、人口波動説の視点で振り返ると、【家政・互酬・再配分・交換の比重は変わる!】で述べたように、下図になります


この図によると、私たちが生きている工業現波では、家政と互酬を合わせた比重が20%以下に落ち、再配分と交換を合わせた比重が80を超えるようになっています。

再配分では、いわゆる福祉国家による税収・年金負担と生活保護・年金給付などが拡大し、また交換では、地域や国家を超えた市場経済の拡大で、生活者の暮らしの半分以上を占めるようになっています。

しかし、工業現波が下降期に入った現代社会では、再配分(福祉国家)と交換(市場経済)の限界もまた露呈し始めています。

過剰な福祉を標榜する国家の財政破綻や、自由競争を標榜する資本主義の分配破綻など、再配分と交換の2制度についても、見直しが求められるようなっています。

とすれば、人減先進国として、人減定着に見合った日本を創り上げていくには、2制度の過剰化についてもまた、忌憚のない見直しが必要になるでしょう。

互酬性の再建・・・【互酬性を再建する!

一方では破壊された共同体の再建、他方では新しい共同体の構築が求められるでしょう。

市場経済制度の修正・・・【集約工業文明とは何か

グローバル市場主義を超えて、国際性と国内性の調和、市場性と象徴性の調和、そして価値と効能(私的有用性)のバランスなどに配慮した、より「柔らかな」体制をめざすこと、いわば、粗放市場経済から集約市場経済への移行といえるでしょう。

2つの修正が的確に行われれば、アンバランス化した社会制度は、再バランス化した生産・分配制度へ向かって、もう一度歩き出すことが可能になります。

工業現波の下降期にふさわしい人減先進社会を創り出していくには、まずはこのような生産・分配制度の修正が求められるでしょう。

2022年9月6日火曜日

空き家活用は人減先進国のモデル

人減先進国の方向を経済的容量の規模で検討しています。

その一つのモデルとして、日本経済新聞(9月4日)がトップに掲げた「家余り問題」を考えておきます。

余剰住宅と人口減少の関係は、ある意味では、人口容量と人口推移の関係を明確に示唆している、といえるからです。

日経新聞の記事「家余り1000万戸時代へ」では、この関係を次のように述べています(要旨)

①総務省の住宅・土地統計調査によると、日本の住宅総数2018年時点で6241万戸であり、23年には最大6546万戸へ増える(野村総合研究所)と見込まれる。

➁国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の世帯数2023年に5419でピークを迎え、以後は減少が始まる。人口が減っても長寿化や生涯未婚率の上昇で一人暮らしが広がり、世帯数は増えてきたが、転機が訪れる。

③このため、2023年を境に空き家も急増し始め、除却水準が低下した場合、15年後の38年には約2303万戸に達する(野村総合研究所)と見込まれる。

④政府の住生活基本計画(2021年)によれば、18年時点で居住世帯がある住宅5360万戸、うち700万戸が耐震性不足し、3450万戸が省エネルギー基準未達である。

対応策として、ひとつは既存住宅の有効活用が、もうひとつは解体支援事業の拡大税制の改正が必要である。

⑤国家レベルで住宅リストラに取り組まなければ、余剰住宅は空き家のまま朽ちていく。

住宅は生活民が生きていくための基本的条件の一つですから、人口容量の主要部分を構成しています。

ほぼ10年間、人口が減り続けているにもかかわらず、2023に住宅がなお6500万戸、耐震性不足を除いても5800万戸が保持されているのは、住宅容量が継続的に維持されている、ということです。

2023年に世帯数が5400万でピークを越えると、それ以降は400万戸以上の余剰が出てくることになります。

これこそ、人口減少に伴う人口容量の余剰であり、否定的に言えば「無駄」であり、肯定的に言えば「余裕」です。

いいかえれば、人口減少や世帯減少によって、住宅容量には「ゆとり」が出てくるのです。

とすれば、このゆとりを最小限の努力によって維持しつつ、いかにして活用していくか、が問われることになるでしょう。

例えば、すでに進みつつある2地域居住・多地域居住、子育てや長寿化に対応する住み替え居住、ギークワーカー等の地方移住など、マルチハウジング(多住宅居住)へ向かって、柔軟に対応することが可能になってきます。

1970年代に北欧で「Double-housing」、80年代に英語圏で「Multi-habitation」と言われていた居住スタイルです。

住宅は1戸だけというライフスタイルが終り、複数戸を持つことが可能なる、ということです。

つまり、人口減少に伴う人口容量の余剰に対しては、ライフスタイルそのものを、成長・拡大型から飽和・濃縮型へ、つまり「コンデンシング・ライフ(Condensing Life」へと切り替えて、逆説的に対応していくことが求められるのです。

そうなると、産業対応住宅政策などについても、根本的な次元からの見直しが必要になってくると思います。