2021年7月23日金曜日

K.ポランニーの複合社会論を応用する!

工業後波の社会構造を展望するため、.ポランニーの4制度説を、当ブログの人口波動説の視点から改めて振り返っています。

ポランニーの難解な論旨を筆者なりに理解すると、今後の生産・分配制度は、肥大化した市場交換を抑制しつつ、再配分、互酬、家政の諸制度をほどよくバランスさせた「合社会(complex society」へ徐々に進んでいくべきだ、ということでしょう。

この視点を前回紹介した【家政・互酬・再配分・交換の比重は変わる!】の歴史的推移に当てはめてみると、とりあえず生産・分配制度の新たな目標が見えてきます。

つまり、工業後波における生産・分配制度は、前波における福祉国家と市場経済制度への過度の比重を緩和して、4つの制度がバランスを回復する方向へ進む、ということです。

企業や資本家だけが闊歩する市場交換制度、社会主義国家や福祉国家のような再配分至上制度、家族や集落の相互扶助だけに頼る互酬中心制度、個人や家族内だけで生産・使用する家政主導制度の、いずれの1つに偏るのではなく、4つの制度を4つとも存続させながら、それぞれのバランスをとっていくという方向です。

あるいは、移りゆく時代の変化に応じて、その組み合わせの比重を変えたり、あるいはそれぞれの内容を微妙に変換していくこと、といってもいいでしょう。

こうした方向の具体的なイメージについては、筆者の別のブログ(生活学マーケティング)で展開している生活構成論(生活学)の立場から、すでに【複合社会へ向かって!】において詳細に検討していますので、今一度確認しておきます。

つまり、次の工業後波において、市場交換、互酬、再配分、家政の諸制度がほどよくバランスした「複合社会」に向かって行くべきだとすれば、3つの調整が必要になってきます。

  1. 市場交換の縮小に比例して、適度に他の3領域を広げること
  2. 再配分の適正化に応じて、税金や社会保障などとの関係を見直すこと
  3. 互酬制の拡大に応じて、贈答、贈与、寄与などの生活行動と一体化をめざすこと(詳細は【互酬性を再建する!】参照)


昨今ではポストコロナ時代の経済制度改革として、コモンズ再生ポスト資本主義などが囁かれ始めていますが、それらを実現していくには、4つの制度のバランス化が必要なのだ、ということです。

以上のように、工業後波という新たな波動では、より複合化の進んだ生産・分配制度が期待されるのですが、果たして実現は可能なのでしょうか? あるいは、さらに実現性の高い代替案はあるのでしょうか?

2021年7月16日金曜日

K.ポランニーを人口波動で読み直す!

工業後波の社会構造を展望しようとしています。

さまざまな目標が見込まれると思いますが、一つの展望としては、すでに6年前、ウィーン出身の経済人類学者、.ポランニーの所説(『大転換』『人間の経済』『経済の文明史』など)を引用しつつ、さまざまな検討をしてきました。

その折の主な論点を、改めて振り返っておきましょう。

生産・交換制度の未来を読む!】(2015914日)では、市場経済社会のゆくえ、つまり新たな生産・分配制度について、次のような展望しています。

.ポランニーによると、人類が歴史的に創り出してきた生産・分配制度には、家政、互酬、再配分、交換の四つがあります。

家政(house holding・・・「自らの使用のための生産」であり、「閉鎖集団」内の構成員の「欲求を満足させるための生産と貯蔵という原理」に基づいている。

互酬(reciprocity)・・・「義務としての贈与関係や相互扶助の関係」であり、「主に社会の血縁的組織、すなわち家族および血縁関係に関わって機能する」制度として、「対称的な集団間の相対する点の間の(財の)移動」をいう。

再配分(redistribution)・・・「権力の中心に対する義務的な支払いと中心からの払い戻し」であり、「主に共通の首長の下にある人々すべてに関して効力をもち、従って、地縁的な性格」の制度となる。

交換(exchange)・・・「市場における財の移動」であり、「システムにおけるすべての分散した任意の2つの点の間の運動」となる制度である。

これら4つの制度の歴史的推移について、ポランニーは常に同じ比重で存在してきたのではなく、時代とともに変化してきたのだ、と述べています。

つまり、「西ヨーロッパで封建制が終焉を迎えるまでに、既知の経済システムは、すべて互酬、再配分、家政、ないしは、この3つの原理の何らかの組み合わせに基づいて組織されていた」が、16世紀以降、重商主義システムの下に、初めて「市場」という、新たな交換システムが参入しました。この交換システムは、19世紀に入ると、貨幣を交換手段とする市場経済へと発展しました。

市場経済は、従来の〝付属物〟的な「市場」とは根本的に異なる「市場交換システム」として拡大しましたので、経済制度の中心は互酬、再分配、家政から交換へと移行しました。

しかし、それでもなお互酬、再分配、家政の役割は消滅したわけではなく、とりわけ再分配の比重は高まる傾向にある、とも述べています(『大転換』)。

以上のような生産・分配制度の推移を、5つの人口波動のうえでおおまかにイメージ化してみると、下図のように想定されます(家政・互酬・再配分・交換の比重は変わる!)。


この図では4つの制度の構成を次のように推定しています。

石器前波・・・家政(家族集団が自ら使用するのための生産)の比重がおそらく7080に達し、続いて互酬(家族や血縁者間での贈与や相互扶助)や物々交換(異なる家族集団間での交換)が1020、残りが再配分(村落共同体による集約と分配)であったと推定される。

石器後波・・・物々交換(異なる家族集団間での交換)の比重はあまり変わらないが、家政はやや低下し、代わって互酬や再配分(古代王権国家による集約と分配)の比重がやや高まったと推定される。

農業前波・・・家政の比重はおそらく半分以下に落ち、互酬はさほど変わらないものの、再配分と交換の比重が上昇する。再配分ではいわゆる封建国家による収奪と分配が進行し、また交換では「市場(いちば)」や「もの売り」など初期的な商業交換が広がっていたと思われる。

農業後波・・・家政の比重は多分20%程度に落ち、互酬はある程度維持されたが、再配分と交換の比重が急上昇して、両方で6070%に達するようになった。再配分では初期的な国民国家による税収と保障が開始され、また交換では広域的な商業市場の成立に伴って商業交換が拡大したものと推定される。

工業現波・・・家政と互酬を合わせた比重は20%以下に落ち、再配分と交換を合わせた比重が80を超えるようになった。再配分では、いわゆる福祉国家による税収・年金負担と生活保護・年金給付などで拡大し、また交換では、地域や国家を超えた市場の拡大で、いわゆる市場経済が広がって、生活者の暮らしの半分以上を占めるようになった。

以上のようなポランニーの所説に基づくトレンドを前提にすると、次の人口波動、つまり工業後波を支える社会・経済構造もまた大まかに浮かんできます。その方向を改めて考えていきましょう。

2021年7月5日月曜日

ポストコロナが新たにめざす社会構造とは・・・

ル・ルネサンスの準備すべき事項として、政治、経済、社会などの社会知(社会識知)の改革が必要だ、と述べてきました。

今回のコロナ禍でいみじくも露呈した、グロ―バル化、民主主義制、市場経済制などの欠陥をどのように是正していけばいいのか、という、深刻な課題です。

とりあえずは、時代識知の視点から、「分節化から合節化へ」「数値絶対化から数値相対化へ」「システム化からストラクチャー化へ」という、3つの方向を提案してきましたが、これらをより具現化していくためには、さらに鳥瞰的な視点からの検討が必要です。

そこで、社会構造の歴史的な推移として、人間社会全体がいかにして運営されてきたかという、統合的な視点から振り返ってみたいと思います。

具体的に言えば、過去の5つの人口波動の、それぞれの人口容量の中で、一人一人の人間の命がどのように扱われてきたかという共同体の構造を、次のような事象によって明らかにすることです。

生活資源の生産をどのように分担してきたか・・・生業

②生産された生活資源をどのように分配してきたか・・・分配

③個々人の自己実現をどこまで可能にしてきたか・・・共同体

3つの視点から、5つの波動における社会構造の推移をざっと確認しておきましょう。

主な事象は以下のとおりです。

❶石器前波では、狩猟や植物採集を生業としつつ、自給・自足によって自己や血族などの生活必要財を確保・分配するような、血縁・地縁による共同体を作られていました。

❷石器後波では、狩猟・採集・耕作を生業として、自己と血族内での自給地縁内部での互酬による分配を行うような、地縁や集落による共同体が形成されていました。

❸農業前波では、農耕や牧畜を生業としつつ、血族や近隣共同体の内部における互酬や仕分けによって分配を行うような、村落や町衆などの共同体が生まれていました。

❹農業後波では、集約的な農業や手工業などを生業としつつ、一定地域における市場を形成してより地縁的な分配を可能とし、それらを保障する村落や都市、さらには国家という共同体を形成されていました。

❺工業前波では、工業を中核とする産業分業体制でグローバルな次元においても生業を実現し、国家規模の市場経済体制で生活民全体の分配を図れるように、企業という生産集団やそれらを統御する都市や国家を実現してきました。

過去の5つの波動が生み出した社会構造は、およそ以上のようなものですが、これらは前後でどのように関わりどのように変化してきたのでしょうか。

さらには、これらの延長線上で、工業後波の社会構造はどのように生み出されていくのでしょうか。