2019年1月25日金曜日

人口波動で未来を読む!

人口波動説のオリジナリティー、第9は波動における6時期別の社会的特性をアナロジーとして応用し、未来予測手法「人口波動法」を提唱したことです(『人口波動で未来を読む』1996)。

この予測手法は、未来予測の諸研究で循環法とよばれてきた予測方法の一つです。

未来予測では従来から、基本的な方法として、外挿法(Extrapolation)規範法(Normative Forecasting循環法(Cyclic Forecasting)という3つの方法が行われてきました。


3つの手法の内容は次のようなものです。

外挿法・・・過去のトレンドの延長線上に未来を展望しようとするもので、一般的には統計的予測、計量経済モデルシステム・ダイナミックスなど、コンピューターを駆使した定量的(数量的)予測として実施されています。

具体例としては、多くの企業が行う商品の需要予測、政府やシンクタンクが行う毎年の経済見通し、国際的な研究集団のローマクラブが行った、21世紀の世界を展望する「ワールド3」モデル(1992)などがあります。

こうした方法では、過去の統計推移数量的変化を材料に、時間や関連項目との関係を説明する方程式を作り、この式を使って未来の事象を予測していきます。


言い換えれば、さまざまな事象の過去の動きや事象間の因果関係を調べ、それらを構造化したうえで、その構造が将来にも続いていくという仮定のもとに、未来の事象を予測していくものです。

過去のトレンドが未来にも続いていく、という考え方が基本になっていますから、過去を未来に“外挿”するという名前がつけられています。

規範法・・・先に一定の目標を設定し、その目標を実現するための、さまざまな要素を選んで関連をつけ、要素ごとの実現性を検討することで目標の実現可能性を推定していこうとするものです。

実際には、最も直観的なデルファイ法(例・ガンの特効薬が発明される時期の予想)などを基にして、それぞれの関連性を整理したクロスインパクト・マトリックス法(例・ガン特効薬の発明に関わる諸条件を整理した上で、それぞれの実現可能性から目標の実現度を予想する)や関連樹木法(例・ガン特効薬の発明に関わる諸手段をツリー上に整理したうえで、それぞれの実現可能性から最終目標の実現度を予想する)といった方法が行われています。

未来の事象が最初に目標として設定され、そこに至るさまざまな要素の“規範”となっていることから、この名で呼ばれています。

循環法・・・経済学者や社会学者の間で特に使われている方法で、例えば経済学では、キチン・サイクルジュグラー・サイクル建築循環コンドラチェフ長波といった手法で、景気の循環が予測されています【
経済学の循環論:2018年11月6日:参照】。

また社会学でも、コンドラチェフ長波の50~60年サイクルを応用して、社会予測をする学者が増えています。

循環法とは、時代の流れの中に波動を見つけ出して、その動きを追うことで未来を読み取ろうとするものです。


この方法は古くからありましたが、最近特に注目されているのは、社会や経済の変化があまりにも大きくなって、過去の推移や経験を前提にした方法が通用しなくなっているからです

外挿法や規範法は、過去からのトレンドが今後も続いていくということを大前提にしていますが、最近の社会状勢は過去からのトレンドそのものを大きく超えて動きだそうとしています。そうなると、単純なトレンドや直観では不十分ですから、世の中には一定の波がある、という視点から、改めて予測をしようということになったのです。


          以上は拙著『人口減少・日本はこう変わる』(2003)による

以上に挙げた、3つの予測手法のうち、筆者が新たに提唱した人口波動法は概ね、3番めの循環法に相当します。

概ねというのは、【
経済学の循環論とは大きく異なる!:2018年11月6日】で述べた通り、次の点で大きく異なっているからです。

①説明変数を「時間的尺度」でなく「文明の転換」においている。

②サイクル、循環の期間は一定の時間ではない。

③一つ一つの進行過程は同型ではなく、独自の進行パターンを持っている。

どのように違っているのか、もう少し考えていきましょう。

2019年1月15日火曜日

6時期別の社会的特性を読む!

個別波動の6つの時期に現れる基本的な特性の上に、世界や日本の過去の変動を重ね合わせると、各時期の社会的な特性がより詳しく設定できます。

詳細は拙著『平成享保・その先を読む』の中で述べていますが、要約すると、各時期には次のような傾向が浮かんできます。









主な特性を描き出してみましょう。

始動期・・・新文明の開発や導入で、それまで人口を抑えていた、さまざまな人口抑制装置が緩み、同時に新たな社会・経済構造が助走し始める。それに伴って、古い社会を担っていた旧勢力と新しい社会を作ろうとする新勢力の間で摩擦が強まり、社会全体に保革対立混沌や混乱期待や展望といったムードが高まる。

離陸期・・・主導文明の選別や浸透によって、人口抑制装置が解除され、同時に社会・経済の拡大が開始される。それに伴って、新旧激突の後、社会勢力の統一が達成され、新しい時代精神の下で統一・統合のムードが高まる。

上昇期・・・主導文明の定着・主導化で諸制約が解消されるにつれて、社会・経済は急拡大に移る。その結果、政治的には中心勢力への集中や集権化が進み、社会全体に成長や発展新規や清新などのムードが高まる。

高揚期・・・主導文明の更新・再生で人口容量が拡大するにつれて、社会・経済の拡大は絶頂に達する。それとともに、中心勢力の権力もまた絶頂に達し、社会全体に拡大や膨張豊満や過剰などのムードが高まる。

飽和期・・・主導文明の飽和・停滞化に伴って、さまざまな人口抑制装置が作動し始め、社会・経済の拡大も鈍化し始める。そうなると、中心勢力にも動揺が起こり、社会全体に飽和や閉塞破局や動揺など、先行きへの不安ムードが広がる。

下降期・・・主導文明の限界化で人口抑制が完全作動し、同時に社会・経済の停滞勢力の分散化や形式化が進行する。これに伴って、社会全体に知足や耐乏の気分が高まり、爛熟・頽廃ムードも広がっていくが、他方では新文明への模索も進み始める。

以上のように、6つの時期の社会は、自然環境と文明の相関関係によって、それぞれ独自の特性を示します。

となると、何度か繰り返される人口波動において、始動期には始動期の、上昇期には上昇期の、下降期には下降期の、それぞれの特性が現れますから、同じような事象が何度か発生する可能性が高まります。


言い換えれば、いずれの個別波動においても、それぞれの時期毎に相似関係がなりたつということです。

いうまでもなく、歴史は1回限りのものですから、全く同じことが再び起こることはありえません。

とはいえ、個々の事象の背後に潜む基本的な構造に、それぞれ相似性がある以上、似たような事象が何度か起こることは十分考えられます。


これこそ「歴史は繰り返す」という言葉の真意だと思います。

2019年1月6日日曜日

個別波動は6過程を進む!

オリジナリティーの第8は、多段階人口波動曲線を構成する、個々の波動、つまり1段階の個別波動の進行プロセスには、始動―離陸―上昇―高揚―飽和―下降の6があり、それぞれの時期別特性を明らかにしたことです。

人口波動は、一つ一つの個別波動とそれらが連続する長期波動によって構成されています。このうち、個別波動における増加~減少というプロセスは、それぞれの時期に相当する社会構造と密接な関係を持っています。

この関係を前提にすると、「人口波動の進行過程に伴って、各過程の社会もまた特定の様相を呈する」という仮説がなりたちます。

具体的に説明すると、個別波動の進行過程は、図に示したように、始動期、離陸期、上昇期、高揚期、飽和期、下降期の6つに分けることができます。




6つの時期については、人口波動そのものの特性、つまり自然環境と文明の相関関係や人間の出生・死亡状況といった基本的な特性が、およそ次のように設定できると思います。

始動期・・・新しい文明によって自然環境の新たな利用が可能になるという期待の下に、出生数が微増し、死亡数が微減する。

離陸期・・・新しい文明が自然環境の利用を開始するにつれて、出生数が上昇し始め、死亡数が低下し始める。

上昇期・・・新しい文明が自然環境の利用を本格化するに伴って、出生数が急増し、死亡数が急減する。

高揚期・・・一つの文明が自然環境の利用を拡大する速度がやや落ちて、出生数が微減し、死亡数が微増し始める。

飽和期・・・一つの文明による自然環境の利用が飽和するにつれて、出生数が停滞し、死亡数が増加し始める。

下降期・・・一つの文明による自然環境利用の限界化に伴って、出生数が急減し、死亡数が急増する。

こうした特性が基礎となって、さらにさまざまな社会的な特性を生み出していきます。