2018年11月26日月曜日

気候変動はどこまで人口に影響するのか?

先学諸賢の研究では、過去の人口変動について、3~5回の急増期やサイクルが指摘されており、その背景として気候変動や文明革新などの影響が挙げられています。

超長期的な人口推移には波があり、それは地球環境や技術革新によって、その人口容量が何度か増加した、ということです。

これらの諸説を参考にしつつ、「人口波動説」でも、先に述べた3つの公準の3番めで「人口容量の規模は、文化や文明による自然環境の利用形態によって決定される」を定律しています。

この定義によれば、「人口容量」は次のように定式化できます。

   V(人口容量)=N(自然容量)×C(文明)

これを世界の人口容量に準用してみると、

   世界の人口容量=地球の自然容量×文明

という式になります。

先学諸賢の考察では、人口波動の要因について自然環境の変化を指摘する意見も少なくありません。

そこで、自然環境の中で最も影響が大きいと思われる気候変動の影響を考えてみましょう。

下図は「グリーンランドの氷床コアから復元された過去15万年間の気候変動」であり、地球の温度差によって氷河・氷床の量が変化した結果を示しています。


寒くなると氷床は拡大し、熱くなると縮小しますので、グラフの上下によって気温の上下がわかります。

この図の10万年前からの推移を、現在値を100として0~110に換算したうえで、横軸:逆対数のグラフに描き出してみると、下図の上のようになります。

 


これを人口波動図(横軸:逆対数、縦軸:正対数)と比べてみると、次のような指摘ができます。

40000年前ろからの気温上昇に伴って、第1の波は徐々に上昇しています。

15000年前ころからの気温急上昇にのって、第2の波が浮上した可能性が指摘できます。


10000年以降は現在とほぼ同じ水準が続いていますが、それにもかかわらず、第3、第4、第5の波が生まれています。

このことから、気温変化の影響は原始的な社会の人口容量には大きく影響したものの、その後の社会にはあまり影響しなかった、といえるのではないでしょうか。


逆にいえば、 第3~5波温暖な地球環境の中で、順番に拡大を繰り返してきた、ともいえるでしょう。

つまり、【世界の人口容量=地球の自然容量×文明】の数式において、人類増加の初期段階では前者の「自然容量」が大きく影響していましたが、その後は次第に後者の「文明」の方が力を増してきた、ということです。

2018年11月15日木曜日

人口波動の先行的な研究を探る!

世界人口の5つの波はなぜ生まれたのでしょうか。

実をいえば、「世界人口の長期推移には幾度かの急増期がある」という指摘は、20世紀の後半から、欧米の人口学者の間で始まっており、その背景についてもさまざまに議論されてきました。代表的な事例を挙げておきましょう。
E.ディーベイEdward S. Deevey, Jr.:アメリカの生態学者)は、「人類史には人口の急増期が3度あった」と指摘し、その時期と背景について、次のように述べています(The human population,1960)。

1度めはB.C.100万年前の道具(石器)の発明によるもの

2度めはB.C.8000~B.C.4000年の農業と都市の開始によるもの

3度めは18世紀からの科学と産業の開始によるもの

C.マッケブディ(Colin McEvedy:アメリカの人口学者)とR.ジョーンズ(Richard M. Jones;同)も、「人口史には3つのサイクルがある」と指摘し、その内容を次のように説明しています(Atlas of World Population History,1978)。


 第1はB.C.1万年前からA.D.500年ころに至る「原始サイクル」で、前5000年ころの「鉄器の発明」と「農業革命」によって達成されたもの

第2は、500年ころから1400年ころまでの「中世サイクル」で、ヨーロッパの封建制や中国王朝の隆盛化のもとで達成されたもの

第3は、1400年ころから現代を経て2200年ころまで続く「現代サイクル」で、「産業革命」によって達成されたもの

J-N.ビラバン(Jean-Noel Biraben:フランスの人口学者)も、先に述べたように、B.C.5万年以降の世界人口の推移を推定したうえで、「少なくとも5回の急増期があった」と指摘しています(Essai sur l`Évolution du Nombre des Hommes,1979)。

5つの急増期があった。

1.B.C.35000~3000年ころから

2.B.C.8800年ころから

3.B.C.800年ころから

4.A.D.500年ころから

5.A.D.1400年ころから

これらの背景として、1では気候温暖化と旧石器文化、2でも同じく気候温暖化と新石器文化、3、4、5では気候変動、主要国の領地拡大、文化的変化などが考えられる。

これらの諸説はかなり独創的、あるいは革新的なものといえますが、幾つかの点で次のような疑問が残ります。

E.ディーベイの説は、B.C.100万年前()の道具()の発明、B.C.8000~B.C.4000年()の農業と都市()の開始、18世紀()からの科学と産業の開始、などあまりにも大まかすぎます。

C.マッケブディとR.ジョーンズの説には、B.C.1万年前~A.D.500年ころの「原始サイクル」はB.C.5000年ころの「鉄器の発明」と「農業革命」による(2つを一緒にするのは)、500年~1400年までの「中世サイクル」はヨーロッパの封建制や中国王朝の隆盛化による(物的文明と政治体制の混乱)、1400年~2200年の「現代サイクル」は、「産業革命」による(スタート時期)などの疑問が残ります。

J-N.ビラバンの説は、筆者の「人口波動説」の主要なデータ源となっているものですが、人口爆発の始動時期についてはやや見直しが必要ではないでしょうか。

そこで、筆者はこれらの諸研究の成果を継承しつつも、5つの波動の継続時期と発生要因について、新たな検討を試みてみました。

2018年11月6日火曜日

経済学の循環論とは大きく異なる!

「横軸:逆対数×縦軸:正対数」による人口波動(多段階人口波動曲線)は、歴史観パラダイムの転換を意味するものだ、と述べてきました。

この件については、某研究会に招かれて、統計学の先生方と議論したことがあります。

「人口“波動”」説という筆者の提起に対して、多くの先生方から、経済学で提唱されている「景気循環」論と同じようなものではないか、というご指摘やご批判がありました。

根本的に異なる」と筆者はお答えしましたが、その理由は以下のようなものです。

そもそも「景気循環(Business cycle)とは、経済活動の変化を示す「景気(business conditions)」について、循環的(あるいは周期的)に発生する変動のことで、「景気変動」とか「景気の波」ともよばれているものです。

この波が一定の原因によって、決まった周期で恒常的・法則的に循環する、と主張する理論が「景気循環論」です。

伝統的な景気循環論としては、キチン循環(Kitchin cycles)、ジュグラー循環(Juglar cycles)、クズネッツ循環(Kuznets cycles)、コンドラチェフ循環(Kuznets cycles)の4つが有名で、それぞれ発見者、主張者の名前にちなんで名づけられた波動です。

キチン循環は、主に企業の在庫変動によって発生する、約40か月周期の比較的短いもので、「小循環」とか「短期波動」ともよばれています。

ジュグラー循環は、企業の設備投資に起因する約10年周期の波で、「主循環」とか「中期波動」ともよばれています。

クズネッツ循環は、住宅や商工業施設の建て替えなどが生み出す、約20年周期の波で、「建設循環」ともよばれています。

コンドラチェフ循環は、技術革新によって発生する、約50年の周期の波で、「大循環」とか「長期波動」ともよばれています。

 
これらの「景気循環論」と、筆者の主張する「人口波動説」とはどこが異なるのでしょうか。人口波動説からいえば、根本的な違いは以下の3つでしょう。

①説明変数を「時間的尺度」でなく「文明の転換」においている。

説明変数とは、波動や循環の発生する尺度を意味していますが、「景気循環論」では、いずれの循環も「一定の時間」という時間的尺度によって変化する、とされています。

これに対し、「人口波動説」では、いずれの循環も時間的尺度によるものではなく、新たな文明によって生起するもの、と考えています。

②サイクル、循環の期間は一定ではない。

「景気循環論」では、約40か月、約10年、約20年、約50年と、いずれの循環においてもそれぞれの時間的長さが「一定の時間」として定まっています。

これに対し、「人口波動説」では、さまざまな波動の時間的長さは、超長期から短期まで、それぞれの波動によって独自の長さ持っています。

③一つ一つの進行過程は同型ではなく、独自の進行パターンを持っている。

「景気循環論」では、約40か月、約10年、約20年、約50年と、いずれの循環においてもそれぞれの進行パターンが「一定の形態」を持っています。

これに対し、「人口波動説」では、5つの波動の進行過程がそれぞれ異なっています

このように「人口波動」史観は、従来の「景気循環」史観とはまったく異なるものです。

それは、さまざまな社会・経済予測などで提唱されている、25年周期説、40年周期説、70~80年周期説、400年周期説、1600年周期説などの「時間的周期説」とも、根本的に異なることも意味しています。

「人口波動」説とは、時間・空間を大きく超越した人類史観を意味しているのです。