2017年3月19日日曜日

フランスの出産支援策は日本では効果がない!

これまで見てきたように、ヨーロッパ主要国の人口動向は、合計特殊出生率の高低によって、2つのグループに明確に分かれています。

その背景を推定してみますと、次のような事情が浮かんできます。

①2つのグループが生まれるのは、人口容量のピークを経験しているか否かの違いです。容量のピークを超えたドイツ、スペイン、イタリアは低出生率国となり、ピークをまだ超えていないスウェーデン、フランス、イギリスは高出生率国となっています。

②いいかえれば、低グループでは出生率が低いがゆえに、人口ピークの到来、つまり、人口容量の上限が早く現れ、逆に高グループでは、未だ口容量の上限が見えていないから出生率が高い、ともいえるでしょう。

③人口容量の高低が生まれるのは、【国土×加工貿易文明】で生み出される上限が、低出生率国ではグローバル化の限界化で早く現れ、高出生率国では未だ現れていないためです。

④迫り来る人口容量の上限に対して、低出生率国がいち早く対応したのは、過去の歴史上、人口波動(修正ロジスティック曲線)の中間あたりの変曲点に対して、ナショナリズムや覇権主義で対応したことへのトラウマの故、と推定されます。この対応が引き起こした悲惨な結末が、各国民の潜在的な無意識となって、人口抑制装置を速やかに作動させたものと思われます。

⑤高出生率国においても、まもなく人口容量の上限に達することが予想されますが、対応未経験の国では、やはりナショナリズムや覇権主義などに陥る危険性が高い、と予想されます。昨今のアメリカやヨーロッパ諸国における「右傾化」の動向は、もしかしたら、その前兆とも考えられます。

⑥このように考えると、高出生率国であるスウェーデンやフランスなどの出産支援策を、ドイツやイタリアなどの低出生率国へ、単純に導入したとしても、さほどの効果は期待できないでしょう。まして自然環境も国際環境も異なる、アジア地域の日本へ導入するのはほとんど無意味といえるでしょう。

下図を見れば一目でわかりますが、日本という国は、国土面積の比較からみても、人口増減の推移からみても、まったく特異なトレンドを辿っている国家です。




肯定的に言えば、近代工業文明を受容し、急速に工業化と人口増加を達成したものの、その限界を真っ先に味わって、人口減少・飽和濃密型の社会へ向かおうとしている先例、ともいえるでしょう。

以上に述べたことは、いうまでもなく、一つの仮説にすぎません。今後、より詳細に検証していくことが必要だと思います。

しかし、「あらゆる理論は仮説にすぎません。絶対の真理など存在しないのです。もし一つの仮説で行き詰まったとしたら、別の仮説を求めればいい。仮説と仮説の論争の中から、より望ましい方向を求めていけばいい。仮説は仮説を産み、その連鎖がパラダイムを変えていくことになるでしょう」(拙著『日本人はどこまで減るか』P.248)。 

2017年3月10日金曜日

変曲点への対応が違った!

日本は、食糧の国内自給の上限7200~7500万人が次第に迫ってきた1910~40年代にはナショナリズム覇権主義を強めました。

同じ時期に、ドイツ、イギリス、フランスなど、ヨーロッパ主要国の人口も、図に示したように停滞を経験しています。


この40年間は、第1次世界大戦から第2次世界大戦に至る時期であり、その影響がさまざまな形で各国の人口に及びました。

一定の人口容量のもとで増加していく人口は、
修正ロジスティック曲線を辿りますが、その真ん中あたりで急増から漸増へと移行する変曲点を通過します。

科学技術と国際化を基盤とする「加工貿易文明」によって、それぞれの人口を増やしてきた、ヨーロッパの先進諸国もまた、この時期に変曲点に差し掛かりました。

その時、イギリスやフランスなどはいち早く植民地の拡大に邁進し、加工貿易体制による人口容量拡大路線を維持しました。
だが、体制作りにやや遅れたドイツ、イタリア、スペインなどは、領土や植民地などの再分割を求めざるをえませんでした。その衝突が2つの大戦を引き起こしたのです。

日本もまた、この変曲点を海外進出によって曲がりきろうとしました。

ただスウェーデンだけは、未だ変曲点に到らず、両大戦を中立国として躱しました。

このように考えると、2つの戦争とは、産業革命による工業化によって人口容量を増やしてきたうえ、素材や食糧を海外で調達できる体制をいち早く作り上げた国家群と、それに乗り遅れた国家群の間で起こった軋轢や摩擦が、やむなくも行き着いた結果だったのです。

いいかえれば、第1~2次大戦とは、それぞれの人口容量に対応する、各国の戦略の差異が衝突した、不幸な結果だった、といえるでしょう。

2017年3月3日金曜日

容量オーバー時の対応経験で分かれる!

ヨーロッパ諸国では、人口容量のピークを経験しているか否かによって、合計特殊出生率の高い国と低い国の2グループが生まれているようです。

容量のピークを超えたドイツ、スペイン、イタリアは低出生率国となり、ピークをまだ超えていないスウェーデン、フランス、イギリスは高出生率国だ、ということです。

下に掲げた2つのグラフを改めて比較してみると、このことが容易にわかります。

 


人口容量のピークの前後が、なぜ出生率に影響するのでしょうか。

低出生率国に入った国々を見て、すぐに気がつくのは、ドイツ、イタリアおよび、同じような推移を辿っている日本が、いずれも第2次世界大戦の開始国であり敗戦国であることです。スペインもまた、同じ時期にフランコ政権によるファシスト体制を経験しています。

こうした経験がなぜ出生率に影響しているのか、さまざまな推測できますが、「人口波動説」から考えると、人口容量オーバーへの対応経験の差ではないか、と思います。

さまざまな動物の世界では、それぞれの個体数が
キャリング・キャパシティー(Carrying Capacity;個体数容量)を超えてしまうと、大量死や集団離脱など、かなりラディカルな対応によって容量の内側へ戻る、という事例が数多く報告されています。

人間の場合も、形は変わりますが、同じような現象が現れる可能性が十分にあります。

低出生率国である日本の推移を振り返ってみると、食糧の国内自給の上限であった7200万人に達した1930年代、海外移民から海外派兵まで、軍事力による対応を強め、その結果として敗戦と大量死という悲惨な結果を味わっています。

その後は加工貿易体制に切り替えることで、ほぼ倍近い容量を作り出すことにとりあえず成功しましたが、それでも容量への対応を誤ると、再び大量死に至るという体験は、国民の潜在的無意識の次元にまで染み透り、幾重にも蓄積されています。

このトラウマが、再び容量のピークに差し掛かった時、個人から社会までさまざまな局面に出現して、人口増加を抑え込むのではないでしょうか。

ヨーロッパの国々でも、同じような経験が出生率を抑え込んでいるのでは、と推測できます。