2021年4月24日土曜日

ル・ルネサンスは集約的科学技術文明をめざす!

これまで・ルネサンスの進むべき3大要件を考えてきました。

工業波動は変わらない。

工業前波から工業後波へ。

工業後波は農業後波の時代識知を利用する。

まず❶の要件について考えてみましょう。

現在の工業現波の後に来る人口波動は、石器、農業、科学技術の次に来る新文明を応用した波動ではなく、あくまでも科学技術文明の延長線上に現れる波動ということです。

37,000続いた石器文明、約5,000続いた農業文明の後、現在の科学技術文明は未だ約600しか続いていません。

コロナ禍の影響で現在の波動が一旦は終わるとしても、間もなく新たな科学技術文明が台頭し、少なくとも1,0002,000ほど続いていくのではないでしょうか。 

この件については、12年ほど前に出した『日本人はどこまで減るか』の中で、筆者は次のように述べています。

長くなりますので、要点を抜き書きしておきます。 

新たな文明とはどのようなものになるのか。…と尋ねられても、現在の時点で明確に答えるのはまず無理でしょう。なぜなら、縄文時代に生きた人々が弥生時代の暮らしを予測したり、平安時代の人間が江戸の社会を展望するのに等しいからです。一つ先の文明の中味やそれが作りだす社会を事前に語るのは、まさに雲をつかむような話です。

この本で述べてきた「文明」という言葉には、二つの次元があります。石器文明、農業文明といった次元と、旧石器文明、新石器文明、粗放農業文明、集約農業文明といった次元です。これでは混乱しますから、前者を「基盤文明」、後者を「資源文明」と名づけますと、下表のように整理できます。 


基盤文明とは、二つずつペアになっている人口波動が共に基盤にしている、もっとも基礎的な文明のことです。

この本では文明という言葉を「言語能力を発展させた抽象化能力を持つ人類が、周囲の自然環境に新たに働きかけて、人口容量を拡大したり、より大きな人口容量を作りだす働きかけ」という意味で使ってきました。

この定義を最大限に拡大して、人間の生息環境全体に適用しますと、文明とは「人類が生きていくためのエネルギー獲得法」ということになります。つまり、地球上に降り注ぐ、膨大な太陽エネルギーをいかにして獲得し、人類が生きていくための生命エネルギーにどのような形で変換しているか、ということです。

アメリカの著作家J・ギーバーたちが、人口容量とは「人間が利用可能なエネルギー量およびそのエネルギーがどのように用いられているかを調査すること」に尽きる、といっているとおりです(Beyond Oil)。

これこそ「基盤文明」とよべる次元です。人類の文明史の最も基盤にある石器文明、農業文明、工業文明をさしていますが、それぞれの特性は次のように整理できます。

石器文明とは「太陽エネルギーが短期的に蓄積された動植物を石器によって採集し消費する」もの。さまざまな動植物の体内に蓄積された太陽エネルギーを、石器を開発して利用することで、人間のエネルギーに変換する。

農業文明とは「太陽エネルギーが短期的に蓄積された動植物を育成して消費する」もの。地上に降り注ぐ太陽エネルギーを、農耕や牧畜によって意図的にさまざまな動植物の体内に蓄積させ、そのうえで人間のエネルギーに変換する。

工業文明とは「太陽エネルギーなどが長期的に蓄積された化石燃料などを採集して消費する」もの。地球の内部に蓄積された太陽エネルギーや宇宙エネルギーを、科学技術によって発掘し高度に利用することで、人間向けのエネルギーに変換する。

これらの延長線上で大胆に考えれば、工業文明の次にくる未来文明はおそらく「太陽エネルギーや宇宙エネルギーを育成して消費する」ものになるでしょう。

石器文明から農業文明への移行が、短期蓄積エネルギーの「採集・消費」から「育成・消費」への転換に裏付けられていたように、工業文明から未来文明への移行もまた、長期蓄積エネルギーの「採集・消費」から「育成・消費」への転換によって、初めて開始されるのではないか、と思うのです。

それは多分、過去の蓄積を単に発掘して消費するだけでなく、人間の知恵や知識を応用して、太陽のエネルギーやその背後にある宇宙エネルギーまでも巧みに蓄積し、効率的に増幅する文明になっていくでしょう。

こうした未来文明へ向かって、次の階段を一気に駆け上るという可能性もないわけではありません。だが、そうなるにはまだまだ課題が山積しています。

第一に、現代の工業文明はなお未熟な段階にあり、さらに進展する余地があります。第二に、現在の工業文明に代わるよう未来文明を創造するには、世界的な次元でかなりの時間が必要です。そして第三に、次の未来文明を生みだすには、現代の工業文明から〝橋渡し〟の役割をする、もう一段高い次元の工業文明が必要と思われるからです。

          ――『日本人はどこまで減るかX章:新たな波動に向かって

以上のような視点に立てば、ル・ルネサンスが挑戦すべき目標は、現在の科学技術文明をデコンストラクト(解体・再構築)し、もう一次元上の科学技術文明をめざすことになるでしょう。

石器文明が旧石器から新石器へ、農業文明が粗放農業から集約農業へと進展したように、科学技術文明もまた、粗放段階から集約段階へと進化していくのではないでしょうか。

2021年4月17日土曜日

ポストコロナで何を変えるべきなのか?

ポストコロナはいかなる時代になるのでしょうか?

700年前のポストペスト(黒死病)で始まった「ルネサンス」のように、再度のルネサンス、つまり「・ルネサンス」が始まるのではないか、と推測しています。

そこでまず、・ルネサンスの基本構造を展望しようと、前回までは世界の人口波動の推移に準拠しつつ、3大条件を探してきました。

それらをベースに、いよいよル・ルネサンスの時代像を展望しようと思いますが、その前にもう一度、この投稿の目指しているテーマを確かめておきましょう。

●人口容量の限界化!

現代の世界は今や人口容量の限界に達しているのではないか、という視点です。

人口容量とは「どれだけの人口が生きられるのか」を示す指標です。

先に述べたように【人口容量=(自然環境×文明)÷1人当たり生息水準】で決まってきますので、まずはいかなる文明で自然を活用しているか、が問われます。

この視点で人類の歴史が辿ってきた、5つの人口波動を振り返ってみると、石器前波では旧石器文明、石器後波では新石器文明、農業前波では粗放農業文明、農業後波では集約農業文明、工業現波では科学技術文明が、それぞれの人口容量を作り出してきたと思われます。

そして、過去の4つの波動では、容量の上限が近づくにつれ、いずれも人口抑制装置が作動して人口総量を抑え始め、ついには減少させています。

今回のコロナ禍にも、こうした背景が潜んでいるのではないでしょうか。

●パンデミックは社会変革の契機!

14世紀のペスト(黒死病)ショックは、農業後波の人口容量の限界を露呈させ、その後6080年にわたって、人口を減少させただけでなく、それまでの中世社会の悪弊を根本から変えようとするルネサンスを生み出しました。

これを先例とすると、今回のコロナショックは工業現波の人口容量の限界を露呈させ、今後数十年にわたって、人口を減少させるだけでなく、これまでの近代社会の諸矛盾を根本から変えようとする・ルネサンスを生み出す可能性があります。

●新たな目標を創り出す!

ルネサンスが再生させたのは、神格尊重と人間自立のバランス化だった、と思われます。

いいかえれば、一つ前の農業波(BC3500AD400年頃)の時代識知を見直すことで、限界に至った農業波(AD4001400年頃)の社会構造を突破する道を模索した、ともいえるでしょう。

とすれば、・ルネサンスが再生目標としているのは、一つ前の農業後の時代識知を見直すことで、限界に至った工業現波(AD14002070?年頃)の社会構造を突破する道を模索する運動、ということになるでしょう。

過去の4波動においては、前波と後波の間に「分散から統合へ」という流れがありますから、現在の工業現波を「工業波」、次の波動を「工業波」とすれば、前波の「分散」から後波の「統合」へ、という可能性が高まってくると思われます。

以上のように、ポストコロナの時代をル・ルネサンスとして活かしていくためには、形骸化する民主主義、格差拡大する経済制度、過剰分業・分散化する国際社会、そしてそれらの背後にある分断的科学技術など、現代社会のさまざまな諸矛盾を包括的に改革する、新たな時代識知の樹立をめざすことが期待されるのです

2021年4月10日土曜日

ル・ルネサンスの3大要件

・ルネサンスはいかなる時代になるのでしょうか。

それを予測するため、石器・農業・工業波動の成立構造の推移旧石器と新石器、粗放農業と集約農業の発展推移農業後波における下降期の変容推移、の3つの要件を調べてきました。

要約してみますと、

①人口史上の3大波動は、石器波動、農業波動、工業波動であり、それぞれの背景には石器、農業、工業などの生産基盤と、それらを可能にした時代識知の変化が読み取れます。

3大波動のうち、石器波動には石器波と石器波、農業波動には農業波と農業波の、2つの波動が含まれています。

これらの4波動を作り出した基本構造をみると、石器前波では旧石器による狩猟・採集が、石器後波では新石器や土器による狩猟・採集が、農業前波では単純な農具や金属器による耕作が、農業後波では灌漑や輪作などによる集約農業技術が、それぞれ主導しています。

さらに基本構造を支える時代識知として、石器前波では「Dynamism:生命力」が、石器後波では「Animism:霊魂力」が、農業前波では「Mythology:神話」が、農業後波では「Religion:宗教」が、各々浮かんできます。

③農業後波における下降期の変容推移を振り返ると、ルネサンスが再興したのは農業前波の時代識知、つまりミソロジー的精神だったと推定されます。

ここでいうミソロジーとは、「統一的・集団的拘束的」な観念体系を一旦脱し、「分散的・個別的拡散性」を認めようとする精神だった、と思われます。 


以上のような要件を前提に、工業現波の下降期(ラストモダン)に起こる社会改革の動き、つまり・ルネサンスの進むべき要件を考えてみましょう。 

工業波動は変わらない。

前回のルネサンスでは農業波動から工業波動への根本的な転換を模索しましたが、今回のル・ルネサンスにそこまでの展望は難しく、あくまでも工業波動の延長線上での変化を模索することになるでしょう。

工業前波から工業後波へ。

石器波動が石器前波と石器後波に、農業波動が農業前波と農業後波に分かれている以上、現在の工業波動もまた前波と後波に分かれると思われます。

とすれば、ル・ルネサンスが模索する波動は、現在の工業現波(工業前波)に続く工業後波ということになるでしょう。

工業後波は新たなリリジョンをめざす。

前回のルネサンスが再興したのが、一つ前の農業波の時代識知であったとすれば、今回の・ルネサンスの再興目標もまた、一つ前の農業波の時代識知ということになるでしょう。

つまり、前回はミソロジー、今回はリリジョンということですが、過去の4波動においては、前波と後波の間に「分散から統合へ」という流れがありますから、ここでいうリリジョンとは、工業前波の「分散」から工業後波の「統合」へ、ということかもしれません(のちほど詳述します) 

以上のような要件を前提にして、・ルネサンスが取り組むべき工業後波の可能性を改めて考えていきましょう。

2021年4月3日土曜日

ル・ルネサンスの要件・・・ラストミドルがモデルになる!

・ルネサンスがいかなる時代になるのか、3つの予測要件から推察しています。

3番めは、③一つ前の個別波動における下降期の変容推移です。

現在検討している工業現波(=工業前波)でいえば、一つ前の農業後波における下降期の変容推移ということになります。

農業後波はAD4001400年の波動であり、その下降期とは【ル・ルネサンスのモデルとなる時代を求めて】で述べたように、13501400年のラストミドル(Last middle ageに相当し、農耕文明から工業文明への橋渡しを模索した時代、いわゆる「ルネサンス」の時期に当たります。

この時代に、人類はどのような手続きで工業文明の準備をしたのでしょうか。

一般的な定説によると、ルネサンス(文芸復興)とはフランス語の「再生」を意味し、古代のギリシア・ローマ精神の再興によって、中世のキリスト教的人間観・世界観から解放をめざし、人間と世界と関係の再発見を求めたもの、とされています。

確かに歴史を振り返れば、古代ギリシアの精神のうち、プラトン主義は東ローマ文化へ、新プラトン主義はローマ・カトリック文化へ、アリストテレスの自然科学論は南アラブ文化へとそれぞれ継承され、数学、化学、天文学、医学といった“科学”をリードさせました。一方、古代ローマギリシア神話を引き継いで、カトリック文化を興隆させています。

とすれば、ギリシア・ローマ精神の再興とは、単なる科学志向を超えて、より高次元の精神復興だったのではないでしょうか。 

この件については、すでに【ポストコロナ・・・ルネサンスは何をめざしたのか?】で触れていますが、一言でいえば、農業前波の上昇期(BC3500AD200年)の精神構造を参考にしたのだ、と思います。その要点を再掲します。 

①農業前波の高揚・飽和期は、【農業前波はミソロジーが作った?】以降で述べたように、「神話的な世界観(ミソロジー:mythology」が主導していました。

BC2000年頃のギリシアでは、ゼウス神を中核に先住民族や近隣民族の神々などを合せた、いわゆるギリシア神話が生まれています。これらを継承して、BC700年代には詩人のホメロスヘシオドスらが、宇宙や自然の動向、神々の活躍、英雄譚など、自然環境と人間の関係を詳細に述べる神話的作品を広げています。

③ここでいう「神話」とは、単なる故事・伝説の類を超えて、【ミソロジーとは何だろうか?】で提起したように、環境世界を言語で理解する観念的装置、元型・象徴で構成する文章・物語、多様な現象を擬人化した主体群による複合的物語、自然と人為の相互関係を識知、自然現象を応用する人間活動の経緯、などを特徴とする観念体系であり、一言でいえば、広義でのリレーショナリズム(Relationalism:万物関係観)といえるものです。

以上のような意味でのミソロジーこそ、農業前波を生み出した時代識知だったと思います。

とすれば、ルネサンスが再興しようとしたものもまた、ミソロジー的精神だったのではないでしょうか。

ルネサンスが「神話の再興」などというと暴論だと批判されそうですが、ここで提起しようとする「ミソロジー」とは、農業後波の時代識知であった「Religion宗教」の観念体系、つまり「統一的・集団的拘束性」を大きく超えて、「分散的・個別的拡散性」を認めようとするものだったのです。