2023年4月19日水曜日

今回の少子化対策案で出生数は増えるのか?

少子化=少産化対策の効果を計るため、巨視的背景を考えてきました。

3月末に政府が少子化対策の叩き台「子ども・子育て政策の強化について(試案)」を発表しました。幾つかの対策案が提案されていますが、これらの政策で少子化=少産化が本当に克服できるのでしょうか。

叩き台ではおよそ30の項目が提案されています。その要点をまとめてみると、下図のようになります。



➀経済的支援の強化

  • 児童手当の所得制限を撤廃し、支給期間を高校卒業まで延長する。
  • 多子世帯が減少傾向にあり、手当額について見直す。
  • 出産費用の保険適用の導入を含め、出産支援のあり方について検討する。
  • 地方自治体の子ども医療費助成では、国民健康保険の減額調整措置を廃止する。
  • 学校給食費の無償化を検討する。
  • 高等教育の貸与型奨学金では、減額返還制度の利用可能な年収上限を引き上げる。
  • 授業料等減免および給付型奨学金は、多子世帯や理工農系学生などの中間層に拡大する。授業料後払い制度では、修士段階の学生を対象に導入し、さらなる支援拡充を検討する。
  • 公的賃貸住宅に子育て世帯などの優先的入居を進める。
  • 住宅金融支援機構が提供する長期固定金利の住宅ローンを多子世帯へ支援する。

➁子育てサービスの拡充

  • 妊娠・出産・子育てまでの「伴走型相談支援」の制度化を進める。
  • 国立成育医療研究センターに「女性の健康」に関する中核機能をもたせる。
  • 保育士の配置基準を75年ぶりに改善し、さらなる処遇改善を検討する。
  • 就労要件を問わず時間単位などで柔軟に利用できる新たな子ども施設を検討する。
  • 放課後児童クラブの待機児童の受け皿の拡大を進め、職員配置の改善などを図る。
  • 子育て困難を抱える世帯やヤングケアラーなどへの支援を強化する。
  • 地域における障害児の支援体制を強化し、地域の連携体制を強化する。
  • ひとり親の雇用・人材育成・賃上げに向けて取り組む企業の支援を強化する。
  • ひとり親家庭の父母に対する高等職業訓練促進給付金制度をより幅広く対応する。

③働き方改革の推進

  • 男性の育休取得率の政府目標を引き上げる。
  • 育休中の給付率を男性、女性とも引き上げる。
  • 気兼ねなく育休を取得できる体制作りのため、中小企業へ助成措置を大幅に強化する。
  • 子どもが3歳〜小学校入学前までの間の、柔軟な働き方のできる制度を検討する。
  • 子どもが2歳未満の期間に時短勤務を選択した場合の給付を創設する。
  • 子どもが病気の際に休みやすい環境整備を検討する。
  • 20時間未満の労働者も失業手当や育児休業給付など、雇用保険の適用を拡大する。
  • 自営業やフリーランスなどへ、育児期間にかかる保険料免除措置の創設を検討する。

④意識改革

  • 子どもや子育て中の人が気兼ねなく制度やサービスを利用できるよう、社会全体の意識改革を進める。
  • 全ての人ができることから取り組む機運を醸成する。

これらの政策で少子化の克服、つまり出生数の回復はできるのでしょうか。

一読してわかるように、叩き台の30項目のほとんど全てが、先に分析した直接的背景のうちの「夫婦間少産化」に対する対策ということになります。

しかし、過去50年間振り返と、19702020年の間に、出生数は209万人から84万人へと、40%台に落ちています。

その背景には、女性の出産可能人口(1549歳)が85へ、婚姻件数が48へ、夫婦内少産化が86%へ、それぞれ落ちているという事情がありました。

夫婦内少産化以上に、出産可能人口や婚姻件数の減少が大きく影響していることがわかります。とりわけ婚姻件数の低下が最も強く影響しています。

しかし、今回の少子化対策の叩き台では、婚姻件数への対応はまったく触れられてはおりません

とすれば、どれほどの効果があるのでしょうか。

莫大な予算を投資する意味が果たしてあるのでしょうか?

2023年4月2日日曜日

少子化=少産化の巨視的背景:人口抑制装置が作動した!

少子化=少産化対策の効果を計るため、巨視的背景を考えています。

人口容量の満配化個人容量の持続願望によって、何が起こっているのでしょうか?

両面からの圧力によって、人口抑制装置が作動しているのです。

人口抑制装置とは、【人口抑制装置が作動する】で述べたように、R.マルサスが提起した「能動的抑制(主として窮乏と罪悪)」や「予防的抑制(主として結婚延期による出生の抑制)」を継承し、筆者が再構成したものです。

人口容量」への負荷が強まるにつれて、増加を抑制する行動が徐々に作動するしくみ、とでもいったらよいのでしょうか。

現代日本においても、人口が人口容量の上限1億2800万人に近づくにつれて、この装置が作動してきました。生理的(生物的)抑制装置あるいは文化的(人為的)抑制装置として、人口増加を抑えようとしてきたのです。 


生理的・文化的抑制装置とは何なのか、具体的な事例については、上記のブログで紹介しています。

それらの中から、現代日本の人口抑制に関わる装置を抜き出したものが、【人口抑制装置が的確に作動した! 】で取り上げた下表です。

この表には、増加抑制装置と減少促進装置が含まれていますが、少産化という現象に関わるのは前者ですから、そこに含まれる現象の実態を確かめてみましょう。

●生物・生理的抑制

生殖能力低下=不妊症増加

下図に示したように、50歳未満の初婚間夫婦の間では、不妊を心配する比率が、2002年の26%から2021年には39%へ上がっています。



若い世代のセックス離れ

下図に示したように、若年層の性交経験率は、人口ピーク時の2005年あたりを境に急速に低下し始めています。 



●文化・人為的抑制

直接的抑制では、夫婦間の理想子ども数が、下図に示したように、1987年の2.67人から2021年には2.25人にまで低下し、予定子ども数も1987年の2.23人から2021年には2.01人にまで落ちています。

間接的抑制では【まず増加抑制装置が動いた!】で示した通り、結婚の抑制、子どもの価値の低下、家族の縮小などが進んでいます。

政策的抑制では【出産奨励策は期待できるのか?】で述べた通り、出産奨励策がほとんど機能していません。

 

以上のように、出生数急減の要因を巨視的背景から見ると、2000年代初頭から人口容量が満杯に近づいたため、人口抑制装置が生理的(生物的)、文化的(人為的)の両面から作動した、という実情が浮かび上がってきます。

これこそが、少産化の進む、本当の要因なのです。