2018年12月25日火曜日

日本波動も文明転換が作った!

日本列島の人口推移を[Y軸=正対数、X軸=逆対数]のグラフの上に描いてみると、前回指摘したように、5つの波動が鮮やかに浮かんできます。

世界波動とまったく同じように5つの波動が読み取れるのは、そのこと自体がいずれの地域においても、人間が自然環境に対して、ほぼ同様の対応をしてきた結果を象徴していると思います。

もっとも、両者を比べてみると、世界波動では農業前波と農業後波の境界が比較的明確ですが、日本波動においてはやや曖昧となっています。農業前波と農業後波の間に明確な谷間が見られません

どうやら日本列島においては、粗放農業から集約農業への移行が大きなショックもなく、比較的滑らかに行われたものと思われます。

歴史を振り返ってみると、12~14世紀に相当する期間ですが、この時期には農業技術の進展が緩やかに進んでいました

鎌倉時代に始まった二毛作や鉄製農具の普及などが、室町時代になると惣村の連合や惣百姓の自立とともに各地に浸透し、農業生産が次第に増加し始めているからです。

そこで、農業前波と農業後波の境界を1300年前期ころに設定しました。

1300年前期とは、鎌倉時代(1185~1333年)から建武の中興(1334~1335年)を経て南北朝時代(1336~1392年)へ至る移行期です。鎌倉時代が終焉し、室町時代が開始した時期ともいえるでしょう。

こうして日本列島の人口波動を5つとして把握すると、世界波動と同様に、人口容量が〔V(人口容量)=n(自然容量)×C(文明)という式で拡大してきたことがわかります。

日本列島の人口容量=列島の自然容量×文明〕によって、5つの波動が生まれたということです。


 5つの波動と成立要件については、すでに【日本人口の5つの波】(2015年7月28日)で述べていますが、それぞれの波動については、次のような特性が指摘できます。

紀元前3万年に始まる「石器前波
・・・「旧石器文明」に基づいて成立した約3万人の波

前1万年に始まる「石器後波

・・・「新石器文明」によって形成された約26万人の波

前500年ころに始まる「農業前波

・・・「粗放農業文明」で作られた約700万人の波

西暦1300年ころ始まる「農業後波

・・・「集約農業文明」で新たに作りだされた約3250万人の波

1800年ころから始まる「工業現波

・・・「近代工業文明」で作られた約1億2800万人の波
 

以上に述べた世界波動と日本波動の実証・・・これこそが人口波動説のオリジナリティーの第7長期的な人口の推移は「多段階人口波動曲線」を辿ることの趣旨です。

2018年12月18日火曜日

日本列島の人口波動は・・・

世界人口に見られた「多段階ロジスティック曲線」、つまり「人口波動」は、日本列島の長期的な人口推移の上でも発見できます。

すでに【
日本列島の人口は波を打ってきた!】(2015年7月21日)で触れたとおり、この件については、拙著『日本人はどこまで減るか』や『人口波動で未来を読む』などで詳しく述べています。その要旨は次のようなものです。

日本の人口をできるだけ古くまで遡って調べてみると、古代の聖徳太子行基から中世の日蓮、近世の新井白石勝海舟らを経て、現代の文化人類学者歴史人口学者に至るまで、多くの先人たちのさまざまな推計があります。

しかし、石器時代の人口についてはほとんど推定されていません。そこで、【
人口減少社会・日本の先例・・・石器前波の減少期】(2015年12月21日)で述べたように、次のように推定してみました。要点は次の2つです。

①世界人口の石器前波(約600万人)と石器後波(約5000万人)の比率(前者/後者=0.12)を適用して、日本列島の石器後波(約26万人)から類推すると約3万人になる。当時の日本列島は、文明水準ではユーラシア大陸の後進地であったから、この数値はおそらく上限を示している。

②新人段階の世界の平均人口密度(0.04人/k㎡)に日本列島の面積(37.8万k㎡)をかけ合わせると約1万5000人になる。日本列島の自然条件は世界の平均を上回っているから、この数値は下限とみなすことができる。

以上のような推定を前提にすると、当時の人口容量は1万5000~3万人であったと思われます。そこで、3万人を上限として、人口の推移を考えてみますと、時間の経過とともに、世界波動と同じような増加・停滞・減少のプロセスを辿った可能性があります。


また、縄文~江戸時代の推計の中には、現代統計学の水準からみて必ずしも正確な数字とはいえないものも含まれていますが、前後の整合性から取捨選択してみると、大局的な流れをつかむことができます

こうして得られた人口推計を基に、約3万年前に始まり21世紀末に到る、おおまかな数値をそのままグラフにしてみると、下図のような極端な急カーブになります。いわゆる指数曲線です。



 そこで、世界波動と同様に、Y軸を正対数、X軸を逆対数にして作図しなおすと、下図に描いたような波が浮かんできます。




これこそ、日本列島の人口波動です。この背景についても、世界波動と同様の理由が考えられます。

2018年12月7日金曜日

5つの波動はなぜ生まれたのか?

世界の人口容量=地球の自然容量×文明】の数式において、人類増加の初期段階では前者の「自然容量」が大きく影響していましたが、その後は次第に後者の「文明」の方が力を増してきた、と述べてきました。

つまり、右辺の「文明」の形がさまざまに変わることで、地球の「人口容量」も急速に増加してきた、ということです。

こうした視点を前提にしつつ、「多段階人口波動曲線」に現れた、5つの波動の成立要因を、先学諸賢の諸理論を継承しつつ、より一貫的に考えてみましょう。

第1波と第2波・・・J-N.ビラバンが指摘しているように、第1波では気候温暖化と旧石器文化、第2波でも同じく気候温暖化と新石器文化の影響が大きい。

第3波と第4波については、E.ディーベイやC.マッケブディらが指摘しているように、基本的には農業文明の影響と思われる。しかし、2つの波の間には西暦紀元前後に大きな谷がありため、前半と後半では農業の形が変わったものと推定される。

第5波は、これまた両者が指摘しているとおり、科学技術の発展やそれが生み出した産業革命によるものと推察される。

そこで、筆者は5つの波の開始時期を、各波動間の最低値から下図のように定めました。


先行研究とはやや異なりますが、それは新たに示した人口波動図(横軸:逆対数、縦軸:正対数)によって、境界を区分し直したからです。












こうして推定された、5つの波動について、それぞれの成立要因を推定し、以下のような名称をつけることにしました。

①B.C. 4万年ころに始まる約600万人の波
             ・・・「旧石器文明」による「石器前波(ぜんぱ)

②B.C.9000年ころに始まる約5000万人の波

             ・・・「新石器文明」による「石器後波(こうは)

③B.C.3500年ころに始まる約2億6000万人の波

             ・・・「粗放農業文明」による「農業前波

④A.D.400年ころに始まる約4億5000万人の波

             ・・・「集約農業文明」による「農業後波

⑤ A.D.1400年ころに始まる約100億人の波

             ・・・「近代工業文明」による「工業現波(げんぱ)

第1波と第2波は旧石器と新石器という石器文明に、第3波と第4波は粗放農業と集約農業という農業文明にそれぞれ基づき、また最後の第5波は工業文明に基づいて成立した、という意味です。

この5つが、筆者が新たに提唱した、世界の人口波動の時期と背景です。

2018年11月26日月曜日

気候変動はどこまで人口に影響するのか?

先学諸賢の研究では、過去の人口変動について、3~5回の急増期やサイクルが指摘されており、その背景として気候変動や文明革新などの影響が挙げられています。

超長期的な人口推移には波があり、それは地球環境や技術革新によって、その人口容量が何度か増加した、ということです。

これらの諸説を参考にしつつ、「人口波動説」でも、先に述べた3つの公準の3番めで「人口容量の規模は、文化や文明による自然環境の利用形態によって決定される」を定律しています。

この定義によれば、「人口容量」は次のように定式化できます。

   V(人口容量)=N(自然容量)×C(文明)

これを世界の人口容量に準用してみると、

   世界の人口容量=地球の自然容量×文明

という式になります。

先学諸賢の考察では、人口波動の要因について自然環境の変化を指摘する意見も少なくありません。

そこで、自然環境の中で最も影響が大きいと思われる気候変動の影響を考えてみましょう。

下図は「グリーンランドの氷床コアから復元された過去15万年間の気候変動」であり、地球の温度差によって氷河・氷床の量が変化した結果を示しています。


寒くなると氷床は拡大し、熱くなると縮小しますので、グラフの上下によって気温の上下がわかります。

この図の10万年前からの推移を、現在値を100として0~110に換算したうえで、横軸:逆対数のグラフに描き出してみると、下図の上のようになります。

 


これを人口波動図(横軸:逆対数、縦軸:正対数)と比べてみると、次のような指摘ができます。

40000年前ろからの気温上昇に伴って、第1の波は徐々に上昇しています。

15000年前ころからの気温急上昇にのって、第2の波が浮上した可能性が指摘できます。


10000年以降は現在とほぼ同じ水準が続いていますが、それにもかかわらず、第3、第4、第5の波が生まれています。

このことから、気温変化の影響は原始的な社会の人口容量には大きく影響したものの、その後の社会にはあまり影響しなかった、といえるのではないでしょうか。


逆にいえば、 第3~5波温暖な地球環境の中で、順番に拡大を繰り返してきた、ともいえるでしょう。

つまり、【世界の人口容量=地球の自然容量×文明】の数式において、人類増加の初期段階では前者の「自然容量」が大きく影響していましたが、その後は次第に後者の「文明」の方が力を増してきた、ということです。

2018年11月15日木曜日

人口波動の先行的な研究を探る!

世界人口の5つの波はなぜ生まれたのでしょうか。

実をいえば、「世界人口の長期推移には幾度かの急増期がある」という指摘は、20世紀の後半から、欧米の人口学者の間で始まっており、その背景についてもさまざまに議論されてきました。代表的な事例を挙げておきましょう。
E.ディーベイEdward S. Deevey, Jr.:アメリカの生態学者)は、「人類史には人口の急増期が3度あった」と指摘し、その時期と背景について、次のように述べています(The human population,1960)。

1度めはB.C.100万年前の道具(石器)の発明によるもの

2度めはB.C.8000~B.C.4000年の農業と都市の開始によるもの

3度めは18世紀からの科学と産業の開始によるもの

C.マッケブディ(Colin McEvedy:アメリカの人口学者)とR.ジョーンズ(Richard M. Jones;同)も、「人口史には3つのサイクルがある」と指摘し、その内容を次のように説明しています(Atlas of World Population History,1978)。


 第1はB.C.1万年前からA.D.500年ころに至る「原始サイクル」で、前5000年ころの「鉄器の発明」と「農業革命」によって達成されたもの

第2は、500年ころから1400年ころまでの「中世サイクル」で、ヨーロッパの封建制や中国王朝の隆盛化のもとで達成されたもの

第3は、1400年ころから現代を経て2200年ころまで続く「現代サイクル」で、「産業革命」によって達成されたもの

J-N.ビラバン(Jean-Noel Biraben:フランスの人口学者)も、先に述べたように、B.C.5万年以降の世界人口の推移を推定したうえで、「少なくとも5回の急増期があった」と指摘しています(Essai sur l`Évolution du Nombre des Hommes,1979)。

5つの急増期があった。

1.B.C.35000~3000年ころから

2.B.C.8800年ころから

3.B.C.800年ころから

4.A.D.500年ころから

5.A.D.1400年ころから

これらの背景として、1では気候温暖化と旧石器文化、2でも同じく気候温暖化と新石器文化、3、4、5では気候変動、主要国の領地拡大、文化的変化などが考えられる。

これらの諸説はかなり独創的、あるいは革新的なものといえますが、幾つかの点で次のような疑問が残ります。

E.ディーベイの説は、B.C.100万年前()の道具()の発明、B.C.8000~B.C.4000年()の農業と都市()の開始、18世紀()からの科学と産業の開始、などあまりにも大まかすぎます。

C.マッケブディとR.ジョーンズの説には、B.C.1万年前~A.D.500年ころの「原始サイクル」はB.C.5000年ころの「鉄器の発明」と「農業革命」による(2つを一緒にするのは)、500年~1400年までの「中世サイクル」はヨーロッパの封建制や中国王朝の隆盛化による(物的文明と政治体制の混乱)、1400年~2200年の「現代サイクル」は、「産業革命」による(スタート時期)などの疑問が残ります。

J-N.ビラバンの説は、筆者の「人口波動説」の主要なデータ源となっているものですが、人口爆発の始動時期についてはやや見直しが必要ではないでしょうか。

そこで、筆者はこれらの諸研究の成果を継承しつつも、5つの波動の継続時期と発生要因について、新たな検討を試みてみました。

2018年11月6日火曜日

経済学の循環論とは大きく異なる!

「横軸:逆対数×縦軸:正対数」による人口波動(多段階人口波動曲線)は、歴史観パラダイムの転換を意味するものだ、と述べてきました。

この件については、某研究会に招かれて、統計学の先生方と議論したことがあります。

「人口“波動”」説という筆者の提起に対して、多くの先生方から、経済学で提唱されている「景気循環」論と同じようなものではないか、というご指摘やご批判がありました。

根本的に異なる」と筆者はお答えしましたが、その理由は以下のようなものです。

そもそも「景気循環(Business cycle)とは、経済活動の変化を示す「景気(business conditions)」について、循環的(あるいは周期的)に発生する変動のことで、「景気変動」とか「景気の波」ともよばれているものです。

この波が一定の原因によって、決まった周期で恒常的・法則的に循環する、と主張する理論が「景気循環論」です。

伝統的な景気循環論としては、キチン循環(Kitchin cycles)、ジュグラー循環(Juglar cycles)、クズネッツ循環(Kuznets cycles)、コンドラチェフ循環(Kuznets cycles)の4つが有名で、それぞれ発見者、主張者の名前にちなんで名づけられた波動です。

キチン循環は、主に企業の在庫変動によって発生する、約40か月周期の比較的短いもので、「小循環」とか「短期波動」ともよばれています。

ジュグラー循環は、企業の設備投資に起因する約10年周期の波で、「主循環」とか「中期波動」ともよばれています。

クズネッツ循環は、住宅や商工業施設の建て替えなどが生み出す、約20年周期の波で、「建設循環」ともよばれています。

コンドラチェフ循環は、技術革新によって発生する、約50年の周期の波で、「大循環」とか「長期波動」ともよばれています。

 
これらの「景気循環論」と、筆者の主張する「人口波動説」とはどこが異なるのでしょうか。人口波動説からいえば、根本的な違いは以下の3つでしょう。

①説明変数を「時間的尺度」でなく「文明の転換」においている。

説明変数とは、波動や循環の発生する尺度を意味していますが、「景気循環論」では、いずれの循環も「一定の時間」という時間的尺度によって変化する、とされています。

これに対し、「人口波動説」では、いずれの循環も時間的尺度によるものではなく、新たな文明によって生起するもの、と考えています。

②サイクル、循環の期間は一定ではない。

「景気循環論」では、約40か月、約10年、約20年、約50年と、いずれの循環においてもそれぞれの時間的長さが「一定の時間」として定まっています。

これに対し、「人口波動説」では、さまざまな波動の時間的長さは、超長期から短期まで、それぞれの波動によって独自の長さ持っています。

③一つ一つの進行過程は同型ではなく、独自の進行パターンを持っている。

「景気循環論」では、約40か月、約10年、約20年、約50年と、いずれの循環においてもそれぞれの進行パターンが「一定の形態」を持っています。

これに対し、「人口波動説」では、5つの波動の進行過程がそれぞれ異なっています

このように「人口波動」史観は、従来の「景気循環」史観とはまったく異なるものです。

それは、さまざまな社会・経済予測などで提唱されている、25年周期説、40年周期説、70~80年周期説、400年周期説、1600年周期説などの「時間的周期説」とも、根本的に異なることも意味しています。

「人口波動」説とは、時間・空間を大きく超越した人類史観を意味しているのです。

2018年10月24日水曜日

逆対数グラフで人口波動が浮上する!

人口波動説のオリジナリティー、第7は正対数・逆対数のグラフによって、世界や日本の「多段階人口波動曲線」の実在を確認し、「人口波動」仮説を検証したことです。

 
多段階人口波動曲線」を1996年に提唱して以来、より説得的な論拠を探してきましたが、ほぼ10年をかけて、新たな手法を見つけました。

超長期的な人口推移を「逆対数×正対数」のグラフにすることで、さらに明確な波動をとらえることができたのです。

前回紹介したJ-N.Birabenの「
世界人口推移グラフ」では、縦軸だけの片対数グラフとなっていました。このグラフから読み取ったデータで、改めて縦対数尺のグラフを作成してみると、下図のようになります。

Birabenがこうしたグラフを描いた意図は、次のように推測されます。

古い時代の人口推移は、①母集団の数が少ない、②平均寿命が短い、などの理由で、比較的ゆっくりと微妙な変化を示します。一方、新しい時代の推移は、①母集団の数が次第に大きくなる、②平均寿命が徐々に長くなる、などの理由で、比較的短期間に大きな変化を示します。

そこで、縦軸に対数をとれば、古い時代の変化は拡大し、新しい時代の変化は縮小しますから、長期的な人口推移の大まかな波を抽出できるのです。

確かにこのグラフを見ると、人口の長期的な増減が鮮やかに浮上しています。

しかし、-5000年以前の推移が比較的ゆっくりと動いているのに対し、それ以降の推移は急速に増減を繰り返しています。これでは、近時点の微妙な変化を把握することはできません。

そこで、筆者は横軸も対数尺、それも逆対数の両対数グラフを採用してみました。新しい時代はゆっくりと、古い時代は短くとらえたいと思ったからです。

古い時代の人口推移については、量的な変化は拡大、時間的な変化は短縮し、新しい時代の推移については、量的な変化は縮小、時間的な変化は延長して描く、という方法を採用したのです。

こうした手法で新たに描いたのが、下図のような「横軸:逆対数、縦軸:正対数」のグラフです。


いかがでしょうか? これを一目見れば、世界人口の超長期的推移には、5つの波があったことが、どなたにでもはっきりと読み取れるでしょう。

これこそ、筆者の提唱する「人口波動」です。超長期的な人間の個体数変化には、間違いなく5つの波があったのです。

文献やサイトなどで調べてみたのですが、こうした発想は、先達の業績にはまったく見つかりませんでした。その意味では、おそらく世界で初めて人口波動を確認したものともいえるでしょう。

これによって、マルサスが『
人口論・第6版』(1826年)で初めて提唱した「人口の長期的推移は波を打つ」という視点、つまり「オシレーションズ(Oscillations)」(擺動、波動と翻訳)という理論的仮説を、ともかくも実証することができたと思います。

「この種の擺動はおそらく普通の人にははっきりと見えないであろう。そして最も注意深い観察者にとってすら、その時期を計ることは困難であろう」と述べていたマルサスの波動が、誰にでも見分けられるのです

グラフの初出は『
日本人はどこまで減るか』(2008年)であり、その改良版は「5つの人口波動から解く、日本の人口が浮上する条件」(『人の死なない世は極楽か地獄か』所収、2011年)や「人口減少社会の背景と展望」(統計研究会『ECO-レポート』(2015年1月号)に載せています。

さらにいえば、「横軸:逆対数」という発想は、単にグラフを作成する上での改良に尽きるものではありません。


それを超えて、人類の歴史を振り返る時には、古い時代の微量かつ長期の変化は圧縮し、新しい時代の大量かつ短期の変化は拡大して考えるべきだ、というパラダイムそのものの転換を意味しているからです。

2018年10月13日土曜日

「修正ロジスティック曲線」を重ねて「多段階人口波動曲線」へ!

人口波動説のオリジナリティー第6は、長期的な人口の推移を、「修正ロジスティック曲線」を何度も繰り返す「多段階人口波動曲線」である、と改めて定義したことです。

例えば世界人口の超長期的な推移を見ると、いくつもの波が発見できます。

フランスの歴史人口学者
J-N.Birabenなどが行った、詳細な推計に基づく、下記の グラフで見ても、人口の推移にはつ、もしくは6つの急増期があることが読み取れます。








このグラフの 元データをベースに、各年毎の増減率を算出してみると、次のような変化が読み取れます。




つまり、—35000年頃、—5200年頃、—3000~1500年頃、—1000~—200年頃、1000~1150年頃、1800~1970年頃の、ほぼ6つの時期で増加率が高まっていることがわかります

このうち、3番目と4番目は長期的な増加傾向と読めますから、合わせることもできそうです。


そこで、筆者はそれぞれの時期の前後を区切りとして、5つの時期別に人口推移をグラフ化し、さらに連結してみると、下図のような図面を描いてみました。

このような波動が現れる、基本的な背景として、筆者は次のように考えています。


●人間の個体数(人口)は、人口容量(自然環境×文明)の上限に達すると、修正ロジスティック曲線」を辿る

●人間は自ら自然環境を改善する能力、つまり文化や文明を創造する能力を持っているから、それによって新たな人口容量を作ることができる。

●人口の停滞が続いている間に、新たな人口容量を作り出す、新しい知恵・技術・世界観が生まれてくると、それまでの「抑制装置」の鍵が外れ、本来の増加圧力によって人口は再び増加を開始する。

●その結果、長期的な人口の推移は、一つの修正ロジスティック曲線から新たな修正ロジスティック曲線へと、次々に階を重ねる、連続的な曲線を辿っていく。

そこで、この曲線に対し、筆者は「多段階人口波動曲線」という名称を与えました。

個々の「修正ロジスティック曲線」が次々に階を重ねて、連続的な「多段階人口波動曲線」へ発展していく、という視点を提唱したのです。

2018年10月5日金曜日

「修正ロジスティック曲線」という視点

前回は加除式による「修正ロジスティック曲線」を提案しましたが、今回はもう一つ、乗除式による曲線で考えてみましょう。

数理生態学や個体群生態学などの分野では、密度効果を出生数と死亡数の差で表すのではなく、人口総量の増減率で表す、下記のような数式がしばしば使われています。

Pn+1=α×(1-Pn/K)×Pn

Pnはn年の人口、Kは人口容量、αは増減係数を、それぞれ表しています。

この数式を使って、Kを100人とし、αをさまざまに変えてシミュレートしてみると、Pnは下図のように変化します。



 ①α=2.0のケースでは、50人前後をピークとする、ほぼロジスティック曲線を描いています。人口容量が100人にもかかわらず、50人前後でほぼ定常状態となっているのは、αが変化した時の増減幅が50人を基準にして上下に大きく揺れることを前提にしているからです。

②α=3.0のケースでは、65人前後で小波が現れ、以後は小刻みに続いていきます

③αが3.18から3.5へ、さらに3.8へと変わるにつれて、波動の上限は大きく80~95人へ広がるとともに増減の振幅や変化パターンが多様化していきます。

こうしてみると、前回の加除式でも今回の乗除式でも、人口容量の上限に近づくにつれ、人口の動きはロジスティック曲線のような定常状態だけでなく、さまざまな動揺状態を辿るケースが多い、と推測されます。

つまり、容量制約時の人口推移は、安定的な定常状態を辿るのは稀なことで、下降、増減、回復などさまざまな推移を辿ることの方が多い、ということです。

サステイナブル(持続可能)だけではなく、カオティック(混沌)な動き見せるのが常態なのです。

これこそ、筆者の提唱する「修正ロジスティック曲線」が意味するところです。

特定の数式や方程式をさすのではなく、上限到達時以降の人口推移に多様な変化を認めようという視点や見解、そのものを示しているのです。

2018年9月28日金曜日

定常にはならないロジスティック曲線へ!

オリジナリティー第5「修正ロジスティック曲線の提唱」の続きです。

前回提案した「加減式」を用いて、人口増減の推移をシミュレートしてみましょう。

従来提唱されてきた「ロジスティック方程式」によるシミュレート結果は、下図の上のような「ロジスティック曲線」になります。




これに対し、加減式を採用した「修正ロジスティック曲線」の一つは、上図の下に示したように、微かに増減を繰り返すグラフになります。

さらに加減式の係数αとβを変えてみると、下図のように山と谷がさらに大きく揺れるグラフとなります。


以上のように、人口容量が満杯となった後の人口の推移は、定常的な「ロジスティック曲線」ではなく、一定の容量の下増減を繰り返す「修正ロジスティック曲線」となる可能性がかなり高いといえるでしょう。

2018年9月12日水曜日

繊研新聞(2018年9月11日)に「人口減少でライフスタイルが変わる」を寄稿 しました!




人口減少が始まって、すでに10年。このまま減り続ければ、2100年には6千万人を割る。ほぼ200年間維持されてきた人口増加社会はもはや過去のもので、少なくとも今後の半世紀は人口減少社会となる。その影響はさまざまな分野に及ぶが、とりわけ私たちのライフスタイルは大きく変わる。・・・以下はhttp://gsk.o.oo7.jp/insist18.html

2018年9月8日土曜日

「ロジスティック曲線」から「修正ロジスティック曲線」へ!

オリジナリティーの第5は「修正ロジスティック曲線」の提唱です。

生物の個体数は「ロジスティック曲線」を辿る、といわれてきました。【
動物の個体数はロジスティック曲線をたどる?】(2015年2月2日)で説明したとおりです。

しかし、20世紀後半にさまざまな動物の実態がわかってくるにつれて、必ずしもそうとは限らず、上限に達した後は下降したり、増減を繰り返したり、しばらくして回復するなど、さまざまなケースが多々報告されるようになりました。

そこで、こうした動物行動学や個体群生態学の成果を踏まえ、筆者もまた個体数がロジスティック曲線から外れるケースを「変形ロジスティック曲線」という名称で捉えてはどうか、と提案しました(『人口波動で未來を読む』1996)。

但し、この言葉については、それ以降、幾つかの修正を加えてきました。

①「変形ロジスティック曲線」という名称については、やや違和感がありましたので、1997年より「修正ロジスティック曲線」に変えました(論文では『世界と人口』1997,3月号:家族計画協会、著作では『凝縮社会をどう生きるか』:NHKブックス:1998)。

②この曲線が生まれる背景については、「修正ロジスティック曲線の論理」として、出生数と死亡数の循環による、より詳しいモデルを提案しました(『日本人はどこまで減るか』:幻冬舎新書:2008)。その内容については、【
修正ロジスティック曲線」を提唱する!】(2015年2月9日)で一通り述べています。

以上の論理を数式化すると、人口容量(K)に対する、該当年の密度効果を「加減」で表す、次のような差分方程式が考えられます。
一般にはK対Pnの関係を乗除式でとらえて、微分方程式に変換されるケースが多いようです。

これらの修正によって、ロジスティック曲線は、さまざまに変形する「修正ロジスティック曲線」へと進展してきたといえるでしょう。

2018年8月26日日曜日

人口抑制装置が作動する・・・文化的装置から生理的装置へ!

「人口波動説・10のオリジナリティー」の第3「人口抑制装置」の提唱です。

「人口容量」への負荷が強まるにつれ、増加を抑制するしくみが徐々に作動し始めますが、それを「人口抑制装置」と定義しなおし、その中身を「生理的抑制装置」と「文化的抑制装置」の2面から捉えました。

この点について、マルサスは『人口論・第6版』の中で、次のように述べています。


人口と生活資料の間に不均衡が発生すると、人口集団には是正しようとする力が働く。
 人口に対してはその増加を抑えようとする「能動的抑制(主として窮乏と罪悪)や「予防的抑制(主として結婚延期による出生の抑制)が、また生活資料に対してはその水準を高めようとする「人為的努力(耕地拡大や収穫拡大など)」が、それぞれ発生する。

この論理の前半を継承しつつ、オリジナリティー第3では、人口抑制について次のように説明しています。

仮説Ⅱ・・・人口は、人口容量が低下した場合、あるいは人口容量の上限に近づいた場合に、さまざまな抑制装置の発動によって、その増加を停止する。この抑制装置は、文化の安定している時には主として「文化的抑制装置」が、また文化の混乱している時には「生理的抑制装置」が、それぞれ発動する。

仮説Ⅱ-1・・・文化的抑制装置とは、人口が人口容量の上限へ接近した時、直接的抑制(死亡促進、妊娠抑制、出産抑制、人口分散など)、間接的抑制(生活圧迫、結婚抑制、家族縮小、家族・子どもの価値の低下、都市化・社会的頽廃化など)、政策的抑制(強制的な出産抑制、動乱・戦争、強制移動)といった文化的抑止力が自動的に作動し、単独もしくは複合的に人口増加を抑えるしくみである。

仮説Ⅱ-2・・・生理的抑制装置とは、文化的抑制装置が作動しない時に、体力低下、寿命限界、生殖能力低下、胎児や乳幼児の生存能力低下などが、自動的に作動するしくみである。
                        (古田隆彦『人口波動で未来を読む』1996)

つまり、マルサスのいう「能動的抑制(主として窮乏と罪悪)」と「予防的抑制(主として結婚延期による出生の抑制)」は、基本的に人類に限ものです。



人口波動説では、この考え方を継承しつつ、第4のオリジナリティーとして「人口抑制装置」という名称で、人類から動物全体に広げる視点を提案し、そのうえで、動物的・生理的・生得的なしくみを「生理的抑制装置」、人類に特有の人為的なしくみを「文化的抑制装置」として再構成しました。

このうち、人為的、文化的装置については、「
人為的抑制装置には3つの次元がある!」(2015年3月17日)において、増加抑制装置少促進装置に分けて、すでに詳しくに述べています。

また、人類にとっては「文化的抑制装置」の方が先に作動し、それが遅れた時に「生理的抑制装置」が作動するという
順序についても「人口抑制装置が作動する時」(2015年3月21日)で解説しています。
 
以上がオリジナリティーの第3第4です。

2018年8月18日土曜日

マルサスの人口原理を再構成する!

「人口波動説・10のオリジナリティー」のうち、第1第2について、まず解説しておきましょう。

第1のオリジナリティーでは、R.マルサスの立てた2つの公準(①人間の生存には食料が必要である、②人間の情欲は不変である)を継承しつつ、第2にあげた「人口容量」の視点によって、改めて3つの公準に再構成しています。

①人口は常に増加圧力を持つ

②人口は人口容量の範囲内で増加する


③人口容量の規模は、文化や文明による自然環境の利用形態によって決定される

マルサスの「人口原理」は、基本的に人類の人口推移から定立されたもので、立論の根拠もまた各国の人口動向で説明しています。

これに対し、筆者の「人口波動説」は、主として20世紀に発達した生態学動物行動学などの成果を応用し、動物一般の個体数推移を参考にしつつ、人類の人口動向をとらえ直しています。



動物の個体数推移では、一種の動物が一定の地域空間内で生存できる量を「キャリング・キャパシティー(Carrying Capacity)という概念でとらえています。

「一定の空間において一種類の動物の数(個体数)は決して増えすぎることはなく、ある数で抑えられる」という現象です。

このキャリング・キャパシティーを人類に応用し、第2のオリジナリティーとして、新たに「人口容量」という用語を提案しました。

「人口容量」とは、自然環境を利用して、文化や文明で作り出す人口の生存規模を意味しています。

日本の生物学や生態学では、「Carrying Capacity」という英語を「環境収容力」とか「環境許容量」と訳すのが一般的であり、「環境」という主体が受け入れてくれる「受動的」能力というニュアンスで使われています。

しかし、人類の場合は他の動物と異なって、しばしば文明という方法によって自然環境に働きかけ、キャパシティーを積極的に拡大しています。

つまり、人類の場合は〔自然環境×文明〕によって容量を変えていますから、「Carrying Capacity」よりももっと「能動的」な意味を込めて、「人口容量(Population Capacity)」と言う用語を使うほうがベターだと思うからです。

以上のような改訂によって、マルサスのoscillations論をよりダイナミックな動態仮説へと変換しました。

2018年8月8日水曜日

「人口波動説」・・・10のオリジナリティー!

22年前、筆者の提唱した「人口波動モデル」は、その後、社会学、未来学、建築学などの関係者から「人口波動説」とよばれるようになり、現在に至っています。

「人口波動説」は、従来の「人口波動理論」や「人口原理」どこが違うのでしょうか。さまざまな面から確かめておきましょう。




①マルサスの2公準を3公準に改訂し、人口の増加・停滞過程を動態仮説として設定した。

②自然環境を利用して、文化や文明で作り出す人口の生存規模を「人口容量」と定義した。

③「人口容量」への負荷強化によって、増加抑制の作動するしくみを「人口抑制装置」と定義し、その中身を「生理的抑制装置」と「文化的抑制装置」の2面から捉えた。

④「文化的抑制装置」のしくみとして、「直接的抑制」「間接的抑制」「政策的抑制」の3面を提唱した。

⑤一定期間の人口推移を描く曲線の名称を「ロジスティック曲線」から「修正ロジスティック曲線」に改訂した。

⑥長期的な人口推移を「修正ロジスティック曲線」の繰り返しとする「多段階人口波動曲線」と定義した。

⑦さまざまな人口推計による人口の推移を、正対数・逆対数のグラフに描いて、5つの波動を抽出し、世界や日本の「多段階人口波動曲線」の実在を確認することで、人口波動」仮説を検証した。

⑧多段階を構成する個々の修正ロジスティック曲線の進行プロセスを、始動―離陸―上昇―高揚―飽和―下降の6時期に分け、それぞれの時期別特性を抽出した。

⑨6時期の時期別特性をアナロジーとして応用する、未来予測手法「人口波動法」を提唱した。

人類の精神史には、5つの人口波動が造り出した時代、5つの時代精神の、重層的な構造があることを指摘した。

以上の10項目をとりあえず「人口波動説」のオリジナリティーとして提起したうえで、それぞれの成果と現況を説明していきましょう。

2018年7月29日日曜日

22年前に「人口波動モデル」を提唱しました!

22年前、筆者もまた『人口波動で未来を読む』(日本経済新聞社、1996年)で、新たに「人口波動モデル」を提唱しました。

本書の中で、このモデルは「マクロ人口学のさまざまな成果を継承して、新たに構築した」ものであり、「環境、文化、文明、社会、経済といった諸要素を有機的に関連させた、巨視的な人口理論をめざすもの」と述べています。そのくだりを再掲しておきましょう。
(以下、本書より抜粋)

このモデルでは、最初に人口学の開祖R・マルサスの立てた2つの公準、⒜人間の生存には食料が必要である、⒝人間の情欲は不変である、を継承して、①人口は常に増加圧力を持つ、②人口は人口容量の範囲内で増加する、③人口容量の規模は、文化や文明による自然環境の利用形態によって決定される、というつの公準を改めて定立する。

続いてこれらの公準を前提に、人口の成長・停滞過程を、次のような動態仮説として設定する。
 
 仮説I・・・人口は、人口容量の拡大見通しがついた時、つまり自然環境の好転や、自然環境を利用する、新しい知恵・技術・世界観が生まれた時から、その増加を開始する。
 
 仮説Ⅱ・・・人口は、人口容量が低下した場合、あるいは人口容量の上限に近づいた場合に、さまざまな抑制装置の発動によって、その増加を停止する。この抑制装置は、文化の安定している時には主として「文化的抑制装置」が、また文化の混乱している時には「生理的抑制装置」が、それぞれ発動する。
 
  • 仮説Ⅱ-1・・・文化的抑制装置とは、人口が人口容量の上限へ接近した時、直接的抑制(死亡促進、妊娠抑制、出産抑制、人口分散など)、間接的抑制(生活圧迫、結婚抑制、家族縮小、家族・子どもの価値の低下、都市化・社会的頽廃化など)、政策的抑制(強制的な出産抑制、動乱・戦争、強制移動)といった文化的抑止力が自動的に作動し、単独もしくは複合的に人口増加を抑えるしくみである。
  •  仮説Ⅱ-2・・・生理的抑制装置とは、文化的抑制装置が作動しない時に、体力低下、寿命限界、生殖能力低下、胎児や乳幼児の生存能力低下などが、自動的に作動するしくみである。
 
 仮説Ⅲ・・・人口停滞が続く間に、人口容量を拡大する新しい知恵・技術・世界観が生まれてくると、それまでの「抑制装置」の鍵が外れ、本来の増加圧力によって人口は再び増加を開始する。
 
 仮説Ⅳ・・・人間は自ら自然環境を改善する能力、つまり文化や文明を創造する能力を持っているから、長期的にみれば、人口の推移は一つの人口波動から別の人口波動へ、次々に階を重ねる「多段階人口波動曲線」として描くことができる。

要するに、マルサスの『人口論・第6版』の論点を、現象学、言語学、生態学、社会心理学、文化人類学など、現代思想のパラダイムを応用して再整理したものであり、それ以上でも、それ以下(かもしれませんが)でもありません。

2018年7月19日木曜日

oscillations・・・初めは「人口擺動」と訳されていた!

マルサスの提起した「oscillations」という言葉は、明治~昭和前期には「擺動(はいどう=揺れ動くこと)と訳されていたようです。「人口波動」ではなく「人口擺動」だったのです。

最も初期の翻訳の一つ『人口論』(三上正毅訳、日進堂、1910年=明治43年)では「幸福に関する動と反動は常に反復しつつある」と「反復」と訳されていました。

その後は次第に「擺動」という訳語が定着したようで、戦後間もなく発刊された『各版對照 マルサス人口論』(吉田秀夫訳、春秋社、1948年=昭和23年)においても、「短期間の後に、幸福に関しての同じ後退前進の運動が繰返されるのである。この種の擺動はおそらく普通の人にははっきりと見えないであろう」と訳されています。

このためか、マルサスの「人口波動」理論に、日本で初めて取り組んだ南亮三郎もまた、論文「マルサスの人口理論」(小樽高商『商学討究』第9巻中下合冊、1934年=昭和9年)の中で、「マルサスの人口理論は、發展の理念の上に立てる人口の周期的擺動の理論であつた」と述べています。

この訳語はそのまま継続し、南もまた、昭和10年代に発表した『人口理論と人口問題』(千倉書房、1940年=昭和15年)においても、人口の動きを「進展と逆転との周期的な擺動を反復」するものと述べ、さらに『人口原理の研究・人口学建設への一構想』(千倉書房1943年=昭和18年)でも「人口擺動の理論」とよんで、これこそマルサス人口論の本体であると書いています。

さらに南は『人口原理の確立者一トーマス・ロバート・マルサス』(三省堂、1944年=昭和19年)の中で、「人口の進展及び逆転の不断の反復・・・一言にして人口の周期的な擺動oscillations を科学的な思考形式に表現したものがマルサスの人口理論である」と述べたうえで、「私はこれを『人口擺動の理論』と名付け、マルサスによって発展せしめられた近代的人口理論の頂點を成すものと見るのである」と明確に書いています。

ところが、第2次世界大戦を挟んで、1960年代=昭和30年代後半になると、「人口擺動」は「人口波動」に変えられたようです。

南もまた「人口の波と人口様式の史的発展」(商学討究:小樽商科大学、1962年=昭和37年)の中で、「原始社会のこの人口波動は、生物界に観察されるごく通常の波型の運動に類している」とし、「擺動」から「波動」に変えています。

そして『人口思想史』(千倉書房、1963年=昭和38年)においては、「人口波動の理論」と明確に変更しています。

以上のように見てくると、マルサスのoscillationsという言葉は、1960年を境として「人口擺動」から「人口波動」という訳語に変えられたのです。

2018年7月9日月曜日

「人口波動」説の原点を訪ねて!

このブログでは、これまでに何度も「人口波動」という言葉を使ってきました。

筆者の主張する「人口波動」説とは、近代人口学の開祖、R.マルサスの『人口論』で提起された「オシレーションズ(Oscillations)という発想を基に、20世紀の生物学や生態学の知見を組み入れて再理論化し、世界人口と日本人口に関する、さまざまな推計や統計によって、その実在を検証したものです。

このような用語や検証方法については、22年前に筆者が『人口波動で未来を読む』(日本経済新聞社、1996年)」を上梓した時から、さまざまなご批判やご意見が寄せられておりました。それらはその後も続いており、現在でも時折、ウエブ上や研究会の席上などで、いろいろな形で問題視されております。

そこで、しばらくの間、「人口波動」の発想、定義、実証性などについて、筆者の現在の見解をご披露していきます。


発想の原点はR.マルサスの『人口論』(あるいは『人口の原理』)にあります。

マルサスは1798年に『人口論』(An Essay on The Principle of Population第1版を出版し、「人口は幾何級数的に増加するが、食料は算術級数的にしか増加しないから、その帰結として窮乏と悪徳が訪れる」という有名な理論を発表しました。人口と食料の間には伸び率の差があるから、必ずパニックへ突き進む、というのです。

そのショッキングな内容の故に、この本はたちまちベストセラーになりましたが、同時に厳しい批判にも晒されました。そこで、マルサスは何度も書き直し、1826年にようやく第6版を完成させました。この最終版(吉田秀夫訳=1948年)でマルサスが到達した結論はおよそ次のようなものでした。
 

人口生活資料(人間が生きていくために必要な食糧や衣料などの生活物資)が増加するところでは、常に増加する。逆に生活資料によって必ず制約される。

②人口は幾何級数的(ねずみ算的)に増加し、生活資料は算術級数的(直線的)に増加するから、人口は常に生活資料の水準を越えて増加する。その結果、人口と生活資料の間には、必然的に不均衡が発生する。

③不均衡が発生すると、人口集団には是正しようとする力が働く。人口に対してはその増加を抑えようとする「積極的妨げ(主として窮乏と罪悪)」や「予防的妨げ(主として結婚延期による出生の抑制)」が、また生活資料に対してはその水準を高めようとする「人為的努力(耕地拡大や収穫拡大など)」が、それぞれ発生する。

④人為的努力によって改めてもたらされる、新たな均衡状態は、人口、生活資料とも以前より高い水準で実現される。

これをみると、第1版のパニック論はかなり薄まり、むしろパニックを解消するための、さまざまな行動の解明に力点がおかれています。

つまり、③人口と生活資料の間のバランスが崩れた時、「積極的妨げ」と「予防的妨げ」の2つの抑制現象が始まることと、④生活資料の水準を高めようとする「人為的努力」によって、新たに出現する均衡状態は、以前より高い水準で達成されること、の2つが新たに書き加えられています。

つまり、人口と生活資料の間のバランスが崩れた時、「積極的妨げ」と「予防的妨げ」の2つの抑制現象が始まるが、同時に生活資料の水準を高めようとする「人為的努力」も始まるので、新たに出現する均衡状態は、以前より高い水準で達成される、ということです。

このうち、人為的努力とその結果については、「労働の低廉と労働者の豊富と彼らが勤労を増加しなければならぬ必要とは、耕作者を奨励して、新地を開き既耕地をより完全に施肥し改良するために、より多くの労働をその土地に投ぜしめ、かくて遂に生活資料は人口に対して、出発点の時期と同じ比例となるであろう。労働者の境遇はこの時にはまたもかなりよくなり、人口に対する抑制はある程度緩められる。そして、短期間の後に、幸福に関しての同じ後退前進の運動が繰返される」と述べています。

要約しますと、〔人口増加→不均衡発生→人為的努力→人口抑制緩和→人口増加〕という一連の現象が、循環的に現れるということです

このサイクルを、マルサスは「オシレーションズ(Oscillations)と名づけましたが、これこそ「人口の長期的推移は波をうっている」ということを、初めて理論的に指摘したものでした。吉田秀夫訳では「擺動(はいどう=揺れ動くこと)」と訳されています。

「この種の擺動はおそらく普通の人にははっきりと見えないであろう。そして最も注意深い観察者にとってすら、その時期を計ることは困難であろう。しかし、古国の大部分では、この種のある交替運動が、私がここに述べたよりは遥かに不明瞭かつ不規則ではあるが、存在することは、この問題を深く考察する思慮ある人のよく疑い得るところではないのである。」

「わかりにくい現象であるが、人口問題を真剣に考える、思慮深い人であれば容易に理解できる」とマルサスはいっているのです。

「Oscillations」→「擺動」→「波動」という理論的展開は、日本においてどのように進んできたのでしょうか。

2018年6月29日金曜日

トイレットペーパーはなぜ記号化するのか?

人口減少時代のトイレットペーパーは、なぜ記号化するのでしょうか?

供給側からみれば、人口減少に比例して需要量が減る以上、記号化(マーケティング戦略では
差異化)によって価格上昇や需要拡大を図り、売り上げの減少をカバーしようという、明らかな意図があります。

一方、需要側には人口容量の限界化でモノが伸びなくなったため、コトへの関心が急激に増加しているという背景が考えられます。

このブログで何回も述べてきましたが、人口減少社会とはコト化=情報化が著しく進む時代です。

日本の人口波動で振り返ってみると、過去に4回あった人口減少時代にはいずれもコト化=情報化が進んでいました。



第1波の石器前波では、【用具から情具へ!】(2016年2月9日)で見たように、石器においてもモノ的な用具からコト的な情具への進展が見られました。

第2波の石器後波でも、【
縄文文明も用具から情具へ】(2016年3月8日)で見たように、土器においても用具(実用器)より情具(心理器)の比重が高っています。

第3波の農業前波では、【
第3次情報化の時代】(2016年5月14日)で述べたように、土木・建築などを中心とする生産技術から、製紙技術を基盤とする物語・日記・随筆・説話などの国風文学や絵巻物などの情報文化へと移行しています。

第4波の農業後波でも、【
第4次情報化の時代~③】(2016年7月13日~30日)で見てきたように、農産物増産や築城・土木技術が主導したハード拡大時代から、印刷や出版が中心のソフト深耕時代へと移行しています。

このように見てくると、現代の日本で急速に進みつつある情報化やAI化もまた、第5波の工業現波における人口減少時代、つまり「第5次情報化」を意味しています。

すでに【
5番めの壁:加工貿易文明の限界化】(2016年9月22日)で述べましたが、現代日本の工業現波は、①ハイテク化の限界、②日本型市場主義の限界、③グローバル化の限界などで、人口容量の物理的な拡大が不可能となったため、人口増加から人口減少に移っているのです。

これに伴って、国民の意識もまた、社会的な関心から産業開発の力点まで、全ての方向がモノよりもコトの方へ移行し始めています。

社会的な次元では、人口容量を支える科学技術そのものが、エネルギー拡大、環境維持、食糧増産などの各面で、モノ的対応がほとんど不可能となってきたため、その裏返しとしてAI化やIoTなどコト的充実の方向へ重点を移し変えて、産業の情報化・コト化を急速に進展させいます。

個人的な次元でいえば、私たちの多くがSNS やInstagramに夢中になっているのもまた、電気製品や自動車などモノはもはや伸びなくなってきているため、やむなくコト消費の方へ関心を移している、というのが実情でしょう。

こうした事情を考えると、トイレットペーパーが、単なる機能的商品からコトを楽しむ記号化商品へ次第に移行しているのもまた、人口減少=コト主導社会の進行を示す、ユニークな現象の一といえるでしょう。