少子化対策の無意味さを一通り確かめてきましたので、再び人減先進国の構築に向かって、新たな議論を進めていきます。
初めに人減先進国についての、これまでの展望と提案を一通り整理しておきます。
●世界の主要国は人口減少へ!
世界人口の急減が注目される中で、人口大国を誇る国々にも減少が迫っています。 10億人以上の国々では、中国が2024年、インドが2042年、5億人以下の国々でも、ロシアが2020年、ブラジルが2031年、バングラディシュが2039年、インドネシアが2045年、アメリカが2047年と、各大陸の主要国が2050年より前にピークとなります。 2050年を過ぎるころ、世界の主要国はいずれも人口減少への対応を迫られることになります。それゆえ、21世紀後半の世界をリードするのは、人口減少に積極的に対応する国家、つまり「人減先進国」なのです。 |
●「人減先進国」へ向かって!
人減先進国として、日本が取り組むべき課題を大まかに整理してみました。 ①経済・・・人口容量を維持するため、国際分業と自給自足のバランスを回復し、国内市場でも過剰な資本集中や所得の不均衡分配などを是正していく。 ②社会・・・福祉国家への過剰な期待を緩和し、家政・互酬・福祉的再分配・市場交換の制度的バランスを目ざす。 ③政治・・・形骸化した民主主義を再構築し、人口減少に見合った縮小型政治・行政制度の構築をめざす。 ④科学技術・・・現代社会を支えている第5次情報化の成果を積極的に活用して、統合型の科学技術へと接近し、現在の分散型エネルギーの統合化をめざす。 ⑤生活・・・人口増加に支えられた成長・拡大型のライフスタイルを止揚し、人口減少に見合った飽和・濃密型ライフスタイルを創造するとともに、その成果を地域共同体の再建に広げていく。 |
●人口容量をいかに維持するのか?・・・人減先進国・日本の課題
これまでの人口容量1億8700万人を2100年ころまで維持していくには、15~64歳の人々が従来の2~3倍ほど関わっていかなければなりません。そんなことができるのでしょうか。大きな対策として、4つが考えられます。 ❶生産年齢の範囲を変えて、15~80歳まで上げていく。 ❷ITやロボット技術等を活かし、分担推進力、つまり生産性を大幅に上げていく。 ❸海外からの移民を増やし、該当者の数を増やす。 ❹上記が無理なら、人口容量を徐々に落としつつ、国民全体の容量水準をできるだけ維持していく。 |
2070年に8,000万人の人口を養うため、人口容量も現在の約8割、10,000万人程度に落としていく、という方向も考えられます。 最大時の半分ほどに減っていく生産年齢人口で、8割ほど縮小した容量を維持していくには、➌の移民増加はかなり困難と思われますから、❶15~80歳の日本人が❷ITやロボット技術などを駆使して、この容量を創り上げていく、という方向こそ実現性が高いと思われます。 |
現在の経済的人口容量を100年後も維持していくには、15~74歳の国民1人1人が、現在の3~5倍の生産性を上げなければなりません。そんなことができるのでしょうか。過去には1900~2000年の100年間に、日本の1人当たりGDPは17.5倍に伸びた、という研究もありますから、決して不可能ではありません。 |
15~74歳の国民の1人1人が、現在の3~5倍の生産性を上げるためには、従来の成長・拡大型社会に適応した産業構造を大きく超えて、人口減少に見合った飽和・濃密型の産業構造へ向かうことが絶対に必要です。飽和・濃密型とは、いかなるものなのか、3つの分野が浮上してきます。 ①人口容量維持産業・・・いわゆるサステナブル対応産業 ②情報深化推進産業・・・いわゆるIT応用深化産業 ③濃密生活対応産業・・・いわゆるコンデンシング対応産業 以上のような飽和・濃縮型産業構造に向けて、積極的に取り組むことができれば、従来の生産性の概念を大きく超える、新たな生産性の向上が期待できます。 |
「人口容量維持産業」、いわゆる「サステナブル対応産業」とはいかなるものでしょうか。 ①扶養量対応産業・・・今後の世界では、需給環境が極めて不安定化する可能性が高まっており、自給率を高めていかなければなりません。それゆえ、食糧はもとより衣料素材や建築材料などについても、国内での生産量を増やし、可能な限り自給していくような産業の振興が必要となります。 ②許容量対応産業・・・人口密度(過密・過疎など)の居住限界や廃棄物(生活・産業廃棄物・排出ガスなど)の処理限界といった、さまざまな制約を緩和する産業が求められます。 |
「情報深化推進産業」、いわゆる「IT応用深化産業」を考えてみます。 ①電子情報活用産業・・・IoT、AI、Metaverseなど、急速に進展する電子情報化を、生産・流通・サービスなどに応用し、新たな産業や斬新な供給形態を柔軟に創造していく。 ②認識転換推進産業・・・電子情報化の浸透に伴って、感覚的な認知行動に大きな変化が生じるから、積極的に対応する、新たな産業の創造が期待される。 ③ル・ルネサンス推進産業・・・第5次情報化が進むとともに、工業前波の次に来るべき工業後波を生み出す時代識知が形成されていくから、それらを応用する新産業が生み出される。 |
「濃密生活対応産業」、いわゆる「コンデンシング対応産業」を考えてみます。 ①社会(交換・同調・価値)より個人(自給・愛着・効用)を重視する。・・・果実でいえば、売れるか否かよりも、自分の好みや馴染みを重視する。 ②言語(理性・観念・記号)より感覚(体感・無意識・象徴)を重視する。・・・衣類でいえば、デザインやブランドよりも、着心地や保温を重視する。 ③真実(儀礼・学習・訓練)と虚構(遊戯・怠慢・弛緩)の、両方の密度を高める。・・・勉強の中身を深めるとともに、遊びの中身も濃くしていく。 ④3軸が交わる「日常・平常」な生活は、肥大化よりも濃縮化へ向かう。・・・暮らしの規模は、量的な拡大よりも、質的な充実をめざす。 |
生活民の生活願望の視点から、新たな方向を展望してみましょう。 ①社会制度分野・・・【社会欲望】生活資源安定産業、情報インフラ安定産業、デジタル共同体産業、【社会欲求】食糧安定産業、エネルギー安定産業、生活インフラ安定産業、【社会欲動】デジタル新感性産業、デジタル象徴交換産業 ②共生生活分野・・・【共生欲望】生活保障多様化産業、デジタル情報多様化産業、【共生欲求】生活安全支援産業、生活機能AI化産業、【共生欲動】共同感性活性化産業、デジタル祝祭産業 ③私的生活分野・・・【私的欲望】独自生活支援産業、情報発信支援産業【私的欲求】差延化支援産業、特注化拡大産業【私的欲動】感覚活性化産業、無意識活性化産業 |
以上のように、これからの日本は世界の最先端にたって、人減先進国をめざさなければなりません。具体的な方向を改めて考えていきましょう。