年間出生数が80万人を切ると予測される昨今、少子化対策が喫緊の政策課題として注目を集めています。
岸田総理は「異次元の少子化対策」として、①児童手当など経済的支援の強化、②学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、③働き方改革の推進、の3テーマを提起しました。
東京都の小池知事も、都内に住む0~18歳の子どもに対し、月5000円程度を所得制限なしで給付する、と明言しています。
これらの政策で本当に少子化が改善され、出生数増加へと転換できるのでしょうか。
少子化対策が有効か否かを判断するには、子どもが減る要因をまず明らかにすることが必要です。
子どもの減る現象を、政府はもとよりマスメディアなども「少子化」とよんでいますが、これはかなり不正確な表現ですから、当ブログでは「少産化」と名づけています。
(詳しくは「少子・高齢化」でなく「少産・多死化」、「少子・高齢化」で人口は減らない! を参照)
そのうえで、子どもの減る現象、つまり少産化の背景を大きく整理してみました。
直接的背景、社会・経済的背景、巨視的背景の3つの次元です。
●直接的背景
①出産適齢人口の減少、②結婚・夫婦数の減少、③夫婦少産化の3つが絡み合っています。 出産適齢期(20~39歳)の女性の数が減少し、結婚する夫婦の数も減っているうえ、結婚した夫婦の間で子ども作りが減っている、ということです。 |
●社会・経済的背景
①経済状況(経済停滞、貧困層増加、社会保障不安)、②生活・社会状況(晩婚・非婚化、核家族化、平均寿命延長、大都市集中)などがあげられます。 経済状況の悪化により、結婚数が伸び悩んだり、妊娠を抑える傾向が増加しているうえ、ライフスタイルや社会状況の変化が、直接的背景を促しているということです。 |
●巨視的背景
①人口容量(加工貿易型経済限界化、グローバル化混乱、福祉型国家の限界化、終身雇用型労働の限界化)、②人口抑制装置(生活水準維持欲求、文化的抑制装置作動、生理的抑制装置作動)などが該当します。 社会・経済的背景のさらに背後には、現代の日本社会を造り上げてきた人口容量の限界、つまり科学技術や国際化による生活資源獲得の限界、西欧型福祉国家の限界、終身雇用制の縮小などによって、出生数を抑えようとする文化的(人為的)な抑制装置はもとより、パンデミックや死産数増加などに代表される生理的(生物的)抑制装置もまた作動しているのです。 |
以上のようなマクロな視点に立つと、喧伝されている少子化対策の効果はほとんど期待できません。
「異次元・・・」と唱えながら、その実は直接的背景、それも「夫婦間少産化」への対応にすぎませんから、効果が出たとしても微々たるものでしょう。一時的に増加し得たとしても、少し時間がたてばアッという間に減少に戻っていきます。これでは「異次元」どころか、「同次元」にすぎません。
まして1月5000円で大都市の出生数を上げ得たとしても、それを求めて大都市に人口が集まってくれば、国家全体の人口は減っていきます。大都市の出生率は地方都市より、かなり低いからです。大都市とは、人々を集めて減らす「蟻地獄」なのです。
もし本格的に出生数の増加を狙うとすれば、この図に描かれた全体構造の改革へ向かって、大胆に挑戦していかなければなりません。社会・経済的背景はもとより、巨視的背景にまで踏み込むことが求められるのです。
実を言えば、それこそが人減先進国の向かうべき、唯一の進路でもある、ともいえるでしょう。
より詳細な検討を進めていきましょう。
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