前回述べたように、ル・ルネサンスのめざす、新たな方向の一つとして、「倫理・使命感を持ったNew Cosmology(新世界観)を創造・並立し、分散型社会の暴走や弊害を抑えること」が求められます。
モデルとなる農業後波の識知構造では、集約農業を生み出した万物統合観(Integrationism)とともに、宗教(Religion)という倫理・使命的世界観が並立していました。
高度な農業文明による社会・経済構造が生み出され、さらに個人の人生や社会の在り方を明示する世界観が、世の中をリードしていた、といえるでしょう。
ところが、私たちが生きている工業前波では、粗放的な科学技術観のみが拡散し、全体がどこへ向かうべきかを示す世界観が極めて脆弱な状況にあります。
政治も経済も学問も、いずれも効率的な科学技術志向にのみ支配され、個々の人生や社会全体がどこに向かうべきなのか、こうした目標はほとんど議論されていません。
いいかえれば、700年前にルネサンスが破壊した中世宗教的世界観が、その後も弱体化したまま続いており、それらをカバーするような、新たな倫理・使命的世界観が未だ生み出されていないのです。
とすれば、ポストコロナで始まる、今回のル・ルネサンスにおいても、今後50~100年の間に、集約的な科学技術の萌芽に加えて、まったく新たな世界観の創立もまた求められることになるでしょう。
工業後波のモデルとなる農業後波では、時代識知としての宗教が、【農業後波はリリジョンが作った?】で述べたように、農業前波(BC3500~AD400年)の下降期から農業後波(AD400~1400年)の始動期に、新たに生み出され、ほぼ確立されています。
この時期に生まれた、さまざまな宗教のうち、現代にまで強く継承されているのは、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教の4大宗教です。
①仏教はBC463年インドに生まれたガウタマ・シッダールタにより創始され、BC4~1世紀に経典化が進みました。紀元前後にサンスクリット語の大乗仏典が編纂され、AD2世紀には大乗仏教として中国へ伝播しています。 ②ヒンドゥー教はインドやその周辺の庶民信仰が受け継がれて、BC4世紀頃にインダス川周辺で原型が形成され、AD2世紀にグプタ朝において発展し定着しました。ヒンドゥー教聖典群プラーナは、AD3~14世紀の間に成立したものと推定されています。 ③キリスト教はBC4年、ユダヤに生まれたイエスが創始し、AD3~5世紀に新約聖書として文書化が進みました。 ④イスラム教はAD570年頃アラビア半島に生まれたムハンマドを開祖とし、AD650年にコーランとして文書化されています。 |
こうしてみると、4大宗教は概ねBC5~AD6世紀頃に創始されていますが、文書として経典化され始めたのはAD1~7世紀であり、AD5世紀頃からの農業後波を立ち上げる原動力となった、と思われます。
とりわけ、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教の3つは、農業前波の飽和~下降期に始まり、下降~始動期に識知体系を整えています。
この時期は、農業前波の末期にあたるラストアンシェント(Last Ancient:200~650年頃)であり、次の農業後波を創りだすための「一つ前のルネサンス(Former Renaissance)」とでもよぶべき時代でした。
とすれば、工業前波の下降期(2030~2100?年)であるル・ルネサンスにおいても、新たな世界観が準備される可能性が十分に予想できます。
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