実際、生物学や個体群生態学の調査・研究では、なんらかの理由で生息環境が飽和した時の個体数抑制行動を、昆虫、魚類、鳥類、哺乳類などの調査を通じ、さまざまな形で把握しています。先学諸兄の研究成果に感謝しつつ、それらの中から代表的なものあげてみましょう。まず昆虫では次のようなケースが報告されています。
コクゾウムシ・・・米や麦につくコクゾウムシは、個体数が少ない時にはさかんに交尾するが、成虫の数が小麦一粒あたり10匹に近づくと急に交尾頻度を落とす。小麦一粒あたりの生息密度が制約となって生殖行為が抑制され、個体数が調節されている(日高敏隆『動物にとって社会とはなにか』)。
ヒラタコクヌストモドキ・・・先にあげた貯蔵穀物害虫のヒラタコクヌストモドキは、生育密度が高まるにつれ、成虫、卵、蛹に対する共食いが増加して、発育途上の死亡率を上昇させ、生育環境の悪化を事前に解消している(高橋史樹『個体群と環境』)
シオカラトンボ・・・シオカラトンボのオスは、池などの水面になわばりを張り、他の雄が入ってくると追い払うが、メスが入ってくると交尾してその中で産卵させる。メスの産卵に適した場所は、一定の生息空間の中では限られているから、なわばりの防衛に成功したオスだけが子を増やせ、失敗したオスは子を増やせない。一定の地域内でのトンボの個体数は、このしくみにより抑制されている(日本生態学会編『生態学入門』)。
トノサマバッタ・・・草地に生息するトノサマバッタは、幼虫時代の接触密度が低いと、緑色や茶褐色で翅も肢も短い「孤独相」という成虫になるが、接触密度が高いと、色が黒く翅も肢も長い「群集相」という成虫に変わり、外部の情報や刺激に敏感に反応するようになる。その結果、群集相は群れをなして生息地から飛び立ち、大空一杯に広がって、数100キロの間、田畑を食い荒らしていく(日高・前掲書)。
(古田隆彦『日本人はどこまで減るか』より再録)
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