日本の人口減少は22世紀まで続くという予想が多いのですが、人口抑制装置という視点に立つと、これまで述べてきたように、2080年代に8000万人前後で底を打ち、そこから増加に転じることも予想できます【21世紀後半に逆転させるには・・・:2017年10月19日】。
そうなると、これからの日本社会は、人口急減→人減定着→人口回復という、3つのプロセスを辿っていくことになるでしょう。
①人口急減社会・・・2010~2060年の約50年間で、人口は1億2800万人から8700万人へ4100万ほど急減していきます。
②人減定着社会・・・2060~2090年の約30年間で、人口は8700万人から8200万人へ500万人ほど漸減していきます。
③人口回復社会・・・2090~2140年ころまでの約50年間で、人口は8200万人から1億2800万人へ4600万人ほど回復していきます。
以上のプロセスは、農業後波の後半である江戸中期の社会と比較すると、おおむね次のように予想できます。
①2010~2060年の人口急減社会は、寛保~宝暦期(1741~64年)に相当し、人口減少への対応について、さまざまな試行錯誤が続く時代となるでしょう。
②2060~2090年の人減定着社会は、明和~天明期(1764~89年)に相当し、人口減少にようやく慣れなじんで、その利点を徹底的に活用していく時代となるでしょう。
(この時代の社会予測については、電子本『平成享保・その先を読む: 人減定着日本展望』やブログ「平成享保のゆくえ」などで詳細に述べています。)
③2090~2140年ころまでの人口回復社会は、寛政・文化・文政期(1789~1831年)に相当し、前期の蓄積をベースにして濃密な文化・文明を醸成し、とりあえず人口増加へと転換する時代となるでしょう。
このように考えると、人口減少を嘆いているだけではなく、それぞれの時期に見合った対応策を社会全体で考えていくことが求められます。
環境問題で目標となっている「Sustainable(持続可能な)」や「Sustainability(持続可能性)」というキーワードを、人口問題に持ち込んで、人口もまたSustainableやSustainabilityをめざすべきだ、という意見があちこちで囁かれています。
しかし、人口問題に長く関わってきた立場からいえば、かなり違和感があります。
人間を含む動物の人口では、さまざまな事例が示すように、ピークに達した後、そのままの数を持続するのではなく、一旦はダウンするケースが一般的であるからです。
キャリング・キャパシティー(Carrying Capacity)とよばれる環境許容量の上限に達すると、自らその数を減らしていきます。
もっとも、ダウンした後、キャリング・キャパシティーに余裕が出てくると、もう一度アップし始め、再びその上限まで増加していきます。だが、そこでまた壁にぶつかると、またまたダウンし始めます。
その結果、動物の数はキャリング・キャパシティーの範囲内で、小刻みな波動を繰りかえすことになります。
その推移は、いわば「さざなみ=小波(Ripple)」です。
こうした現象は、人間の場合でも基本的には同じですから、人口容量が増えない限り、その人口もまた、容量の下で増減を繰り返していくことになるのです。
実際、農業後波の後半、江戸中期の人口推移を振り返ると、同じような傾向が読み取れます。
とすれば、人口波動後半の社会とは「Sustainable(持続可能な)」や「Sustainability(持続可能性)」をめざすものではなく、強引に形容詞化あるいは名詞化すれば、「Ripplable(小波的な)」や「Ripplablity(小波的継続性)」へ向かうものだ、ということになるでしょう。
人口が減少し始めてからほぼ10年、人口容量に多少のゆとりが生まれるとともに、人口抑制装置もまた微かながら緩み始めています。
例えば結婚観の変化です。第15回出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によると、「結婚することに利点がある」と感じている未婚者は、2010~15年の間に男性で1.9%、女性で2.7%増えています。逆に「結婚することに利点がない」と感じている未婚者は、男性で1.0%、女性で1.3%減っています。
僅かの差のようですが、長期的推移を下に掲げたグラフで確かめると、トレンドが変わってきたことが推測できると思います。
とりわけ、女性の結婚観が大きく変わり始めています。
女性が結婚相手の男性に求める条件を振り返ると、バブル経済時代の1990年頃には「3高」(高学歴・高収入・高身長)でした。
20年後、人口ピーク時直後の2010年頃には「3平」(平均的な年収・平凡な外見・平穏な性格)に変わった、といわれています。
7年後の現在では、これが「3NO」(暴力しない・借金しない・浮気しない)に変化しているようです(㈱パートナーエージェント、調査対象:25〜34歳の独身女性1897人)。
「3高→3平→3NO」という変化の背後には、経済環境の変化とともに、人口容量の変化が潜んでいるようです。
バブル経済が絶頂で人口容量にも440万人のゆとりがあった時代には、かなり背伸びした対象を求めていました。
だが、経済環境が悪化し人口容量もゼロとなった時代になると、背丈に見合った対象を探すようになりました。
しかし、経済環境がやや回復し、人口容量にも300万人ほどゆとりが生まれてきた現在では、もはや「3高」には戻らず、より慎重な条件に対象が変わってきています。
この理由は、人口減少社会への対応が始まっているからだと思います。人口のピークを挟んで、それ以前と以後では、国民の基本的な生活意識は大きく変わっているのです。
人口増加時代の価値観が「成長・拡大」志向であったのに対し、減少時代のそれは「飽和・濃密」志向に変わってきています。人口減少を前提にしつつ、その中でできるだけ濃密な生き方を求めていく、という方向です。
こうした変化が人口抑制装置の作動を緩め始めると、結婚する人口もまた徐々に増えていくことになるでしょう。
人口減少の進行で人口容量にゆとりが生まれた時、人口が回復するか否かについて、さまざまな視点から眺めてきましたので、一度ポイントを整理しておきましょう。
人口容量と人口抑制装置の基本的関係は【人口減少は極めて〈正常〉な現象!:2015年3月24日】で述べたよう、次の数式で説明できます。
この式を変形すると、次のようになります。
人口容量が一定という環境下で、人口減少でゆとりが出てくると、1人当たりの生活水準が上がり始め、人口抑制装置の緩和する可能性も生まれてきます。そのプロセスは大略、次のように説明できます。
①P(総生息容可能量)は一定だが、人口が減るとV(実際の人口規模)も減るから、L(一人当たりの生息水準)は上がっていく。
②Lが上がれば、親世代は素直に子ども増やす選択を採る。また子ども世代は老年世代を扶養する選択を採る。
③その結果、親世代は結婚に踏み切り、避妊や中絶などを回避して、出生数を増やす。また子ども世代は老年世代の世話や年金負担を続けるから、老年世代の生息水準も維持されて、死亡数が減る。
④Pが伸びない時代には、動物界のなわばりや順位制のように、Pの分配をめぐって競争が激化するが、Lが増えれば競争は弱まり、分配分の格差も縮小するから、結婚して子どもを増やしたり、老年世代の世話を継続するようになる。
⑤こうした環境下で個々の人間が選ぶ、結婚や同棲などの促進行動、避妊や中絶などの回避行動、老年者介護や年金負担などの扶養維持行動が、次第に集団に広がって、社会的なムーブメントとして定着する。その意味で、これらの行動は人為的・文化的な抑制装置を緩和させることになる。
以上のような視点に立つと、人口容量の範囲内で人口を回復させていくには、次のような対応が求められるでしょう。
①人口容量を落とさないように努める。
②人口の回復を焦らないようにする。
③的外れの対応で、1人当たりの生息水準を無理に上げないようにする。
子どもの生まれる数が少なくなった「少産化」の背景には当然、子どもに対する親世代の意識変化があります。
それを端的に示すのは、親たちが子どもに対する時の言葉使いの変化です。
少産化が進み始めた1970~80年代を境に、子どもに対する親の言葉が変わってきました。
例えばおやつを与える場合、それ以前の社会では、自分の子どもに対しては「食べさせてやる」、他人の子どもに対しては「食べさせてあげる」という表現が一般的でした。
ところが、それ以降では、自分の子どもに対しても「食べさせてあげる」という表現が増えています。
日本の社会ではもともと、親が自分の子どもにコトやモノを与える場合は、「食べさせてやる」「着せてやる」「大学へ行かせてやる」というように、「・・・してやる」「・・・てやる」という言い方が普通でした。これは、親の立場から子に対して「授ける」「与える」という意味であり、「保護する者から保護される者への恵与」を示していた、と思います。
ところが、最近しばしば聞く「食べさせてあげる」「着せてあげる」「大学へ行かせてあげる」など、「・・・してあげる」「・・・てあげる」などの言い方からは、子どもの立場が「保護される者」から「当然保護すべき者」へと変化していることがうかがえます。
これらの表現には、親の立場から子に対して「差し上げる」「進呈する」というニュアンスが含まれており、「他者に対する謙譲的な贈呈」を示しているからです。
「てやる」派から「てあげる」派へ、言葉使いの、この変化は、親子間の提供関係が「恵与」から「贈呈」に変わったことを意味しています。大げさに言えば、親子の関係が「身内」から「他人」へと変わった、ということにもなるでしょう。
そう考えると、子どもを作るという行為もまた、「自分の延長線上の子孫」というより「新たな他人」を作り出すという意味を持ち、「子どもを大切にしたい」「子どもを増やしたい」という、少産化社会にふさわしい表現に変わってきているともいえます。
だが、その一方で、子どもの立場が次第に大きくなってきますから、親としてはさまざまな義務を負わなければならない、という事情が増えてきます。「食べさせてあげたい」「着せてあげたい」「大学へ行かせてあげたい」というハードルが次第に高くなってきているのです。
そうなると、そこまでは無理だ、と感じる親も増えてきますから、むしろ子どもの数は減っていくことにもなります。
どちらの傾向が増えるのか、すぐに答えは出ませんが、「てやる×てあげる」の変化には、単なる表現の変化を超えて、少産化社会の価値観が濃厚に現れていると思います。
前回述べた「新予測②」は、出生率と死亡率が2100年ころに1960年の水準に戻ると仮定した場合の総人口の予測値です。
これによると、総人口は2090年代に6640万人台で底を打ち、22世紀初頭から増加していくものと予想されています。
基本的な前提条件は、人口政策の大規模な変更や移民政策の拡大といった、外部条件の変更がないうえ、人口容量が12800万人で変わらず、人口の増加圧力が自然に機能できる場合です。
この条件の下では、おそらく最も早く人口が回復できるケースと考えられますが、それでもなお幾つかの条件が加わります。
①2100年に1960年の水準に戻るという仮定は、先の「新予測①」に比べて、目標時点を10年ほど早めています。先に述べたように、過去からの推移でいえば、総期待肥大値が1億2800万人の人口容量を超えたのは1960年ころであり、下回るのは75年後の2035年ころと予想されています。そこで、元の水準に回復する時点もまた75年後の2010年ころになると推定したのです。
②目標時点を10年ほど早めたということは、75年という間隔を70年に縮めたことを意味していますから、総期待肥大値が1億2800万人の人口容量を下回るのもまた、1960年より70年後の2030年ころと予想されます。
③2030年ころに総期待肥大値が1億2800万人の人口容量を下回るには、当初予想されていた2030年の総期待肥大値13,260万人を12,800万人にまで4~5%ほど下げることが必要になります。
以上のように考えると、総人口を21世紀中に反転させるためには、今後13~15年、2030年に向けて国民の総期待肥大値を4~5%ほど抑制する方向へ、多面的に誘導することが求められるでしょう。
総期待肥大値が2030年代に人口容量1億2800万人を下回った後、総人口はどのように回復していくのでしょうか。
総期待肥大値が1億2800万人の人口容量を超えたのは1960年代でしたので、普通出生率と普通死亡率が、おそらく当時の水準にまで戻る動きが出てくる、と思われます。
しかし、ほぼ50年にわたる出生率低下と死亡率上昇が、一気に回復するのは不可能ですから、1960年の水準に戻るには、なお70~80年間の年月が必要だと思います。
そこで、出生率と死亡率が2030年から80年後の2110年に1960年の水準に回復すると仮定して、1960年から2015年までのデータと2110年を結ぶ多項式を求めてみると、下図のようになります。
この式でシミュレートしてみると、2050~60年代に両率はともに変曲点を迎え、それ以後、出生率は上昇へ、死亡率は下降へと進みますから、2100年ころに自然動態もまた減少から増加に転じることになります。
いうまでもなく、総人口は自然動態だけで増減するわけではありませんが、日本の場合は社会増減が少ないため、総人口の大勢は自然増減によってほぼ決まると思います。
この多項式に実際の年数の経過を代入してみると、今後ほぼ100年間の出生数と死亡数が推定されて、それより毎年の人口増減率が計算できますから、総人口の今後の動きを下図のように描くことができます。
①一番上の曲線は、国立社会保障・人口問題研究所が2017年4月に発表した予測値(中位推計)です。前回(2012年3月)の中位推計よりやや上目に推計されていますが、2015年まで一貫して減少していく、とされています。
②一番下の曲線(新予測①)は、上記で説明したとおり、出生率と死亡率が2110年ころに1960年の水準まで回復すると仮定した場合の総人口の予測値です。①よりやや下目に推移していますが、2105年ころから上昇に転じ、2110年ころに①を追い抜いていきます。
③真ん中の曲線(新予測②)は、出生率と死亡率が、新予測①の前提より10年早い2100年ころに1960年の水準に回復すると仮定した場合の総人口の予測値です。これもまた①よりやや下目に推移していますが、2090年ころに追い抜いて、2105年ころからは上昇に転じていきます。
今回は、とりあえず回復目標時点と総人口の関係をざっと眺めてきました。
目標時点を決めるのは、人口容量と総期待肥大値の時間的関係ですから、その前後によって、21世紀後半~22世紀初頭の日本の総人口は、大きく影響を受けるものと思われます。