2021年2月22日月曜日

ル・ルネサンスのモデルとなる時代を求めて

ルネサンスが再生の目標としたのは、農業前波の上昇期の精神構造、つまりミソロジーだったのではないか、と述べてきました。

ここでいうミソロジーとは、単なる「神話」を意味するだけではなく、環境世界のさまざまな対象と人類の関係を、擬人化と文章化によって理解しようとする時代識知だった、ということです。

こうした視点に立つと、ルネサンスをヨーロッパ社会の革新現象として考えるのではなく、より視野を広げて、人類史の中で理解することが必要だと思います。

そこで、世界の人口波動を描いた下図で確認してみると、ルネサンスは農業後波の下降期、いわゆるラストミドルに当たります。


この時期に模索された識知転換によって、現在の工業現波が浮上することになった、というわけです。

とすれば、コロナ禍に触発されて今や始まろうとしている「ル・ルネサンス」、これもまた工業現波の下降期、つまりラストモダン(Last modern ageに相当するはずです。

そう考える時、ル・ルネサンスのモデルとなる時代は、図に示したように、人類が過去に4経験してきた、4つの下降期が浮上してくる、と思われます。4つの下降期とは、次のような時代でした。

①石器前波(Stone early wave)では、BC15000~BC3500年のLast pre-stone ageで、粗放石器文明から集約石器文明への橋渡しを模索した時代。

②石器後波(Stone latter wave)では、BC4500BC3500年のLast stone ageで、石器文明から農耕文明への橋渡しを模索した時代。

③農業前波(Agri early wave)では、200~700年のLast ancient ageで、粗放農耕文明から集約農耕文明への橋渡しを模索した時代。

④農業後波(Agri latter wave)では、13501400年のLast middle ageで、農耕文明から工業文明への橋渡しを模索した時代。

いずれの時代も一つの人口波動の最終段階にあたり、人口が減少していく中で、新たな人口波動を創り出すための方策を模索し、そのきっかけを生み出した時代といえるでしょう。共通する特徴をまとめておきましょう。

❶一つの人口波動を創り出した文明とその基礎にある時代識知限界に達し、もはや人口容量を伸ばすことができない状態に陥っている。

人口容量の限界化に伴って、さまざまな社会的混乱が多発している。

人口抑制装置の作動によって、人口推移が飽和から減少へ向かっている。

人口容量の物質的拡大が限界に達するとともに、情報的深化が進行する。

社会的混乱を解消しようと、さまざまな対応策が模索されている。

❻成功した対応策に通底する発想が集約され、社会的革新の基盤として、新たな時代識知が形成されていく。

以上のように、ル・ルネサンスのモデルとなる、4つの時代はいずれも、次の人口波動を起動するための準備段階ということができます。

いよいよ始まるル・ルネサンスは一体、どの時代をめざすのでしょうか

2021年2月12日金曜日

ポストコロナ・・・ルネサンスは何をめざしたのか?

ラストミドルモデルになるルネサンス(再生)という時代は、一体何を再生させたというのでしょうか? 前回述べたように、人文主義の復権というより、神格尊重と人間自立のバランス化というのが正解だと思います。

さらに当ブログの視点でいえば、一つ前の人口波動、つまり農業前波(BC3500AD400年頃)時代識知を見直すことで、限界に至った農業後波(AD4001400年頃)の社会構造を突破する道を模索する運動、というべきかもしれません。

そこで、ヨーロッパ(ロシアを含む)の長期人口推移を振り返ってみると、3つの人口波動が鮮やかに浮上してきます。

上図に示した農業後波の下降期(ラストミドル)・・・この時期がいわゆるルネサンス時代に相当します。

そのルネサンスが改めて再生させようとしたのは、これより前の時代ですから、近い順にいえば、①農業後波の上昇期②農業前波の下降期③農業前波の上昇期、あたりということになります。3つのうち、どの時代が再生の対象となったのでしょうか。

①農業波の上昇期(6501300年)

欧州中世そのものであり、【黒死病が壊した中世西欧の時代識知とは・・・】で触れたとおり、キリスト教の「三位一体観」に基づく「農業・牧畜制」や「三圃制」、神学者・哲学者アウグスティヌス(Augustinus)の『神の国』に基づく「教会・王権並立制」や「封建制」、「教団組織制」による生産構造の「集団生産制」などが主導した、確固たるキリスト教中心時代でした。

これはルネサンス自身が超えようとした社会そのものですから、その目標にはならないと思います。

②農業波の下降期(200650年)

古代末期にあたるラストアンシェント(Last Ancient200650年頃)の時代であり、農業後波の準備期です。

BC4年にユダヤに生まれたイエスが創始したキリスト教は、すでに欧州各国に広がっており、AD200年代には、エジプトの哲学者プロティノス(Plotinus)によって、ギリシア古典哲学、新プラトン主義の「一なるもの、精神、霊魂」という三位一体論が、キリスト教の「父と子と精霊」の三位一体観へ転換させられています。

313年になると、ローマ皇帝コンスタンティヌス1世(Constantinus I)がミラノ勅令でキリスト教を公認し、410426年にはアウグスティヌスが『三位一体論』や『神の国』を著し、590年にはグレゴリウス1世(Gregorius I)の即位で、ローマ教皇権が確立しています。

とすれば、この時期は、次の農業後波を創りだすための「一つ前のルネサンス(Former Renaissance」とでもよぶべき時代であり、その意味では、これもまた目標にはなりえないでしょう。

③農業波の上昇期(BC3500AD200年)

3000年ほど続いてきた農業前波の高揚・飽和期に当たる時代であり、【農業前波はミソロジーが作った?】以降で述べたように、当時の欧州では「神話的な世界観(ミソロジー:mythology」が主導していました。

BC2000年頃、バルカン半島南部に侵入したインド=ヨーロッパ系のギリシア人は,ゼウス神を中核に先住民族や近隣民族の神々などを合せて、いわゆるギリシア神話を創造しています。

これを継いで、BC700年代に詩人ホメロス(Homērosは叙事詩「イリアス」や「オデュッセイア」を、またヘシオドス(Hesiodosは神々の系譜を語る「神統記」をそれぞれ創っています。これらは、宇宙や自然の動向、神々の活躍、英雄譚など、自然環境と人間の関係を詳細に述べるものでした。

ここでいうミソロジーとは、【ミソロジーとは何だろうか?】で提起したように、❶環境世界を言語で理解する観念的装置、❷元型・象徴で構成する文章・物語、❸多様な現象を擬人化した主体群による複合的物語、❹自然と人為の相互関係を識知、❺自然現象を応用する人間活動の経緯などを特徴とする観念体系であり、一言でいえば、広義でのリレーショナリズム(Relationalism:万物関係観)といえるものです。

とすれば、この時代こそ、ルネサンスがその目標として目ざしたものだったのではないでしょうか。

以上のように振り返ると、農業前波の上昇期の精神構造、つまりミソロジーこそ、ルネサンスが再生の目標としたものだった、と考えるべきでしょう。

2021年2月4日木曜日

ポストコロナ・・・ル・ルネサンス(Re-Renaissance)が始まる!

ラストミドルをモデルに、コロナ禍によって今や始まろうとしているラストモダン、その約100年間を推定しようとしています。

ラストミドルでは、【ポスト黒死病=ラストミドルは革新準備の時代!】で述べたように、社会的な混乱革新が並行的に進行していましたので、ポストコロナラストモダンでも同じことが起こるのではないか、と思われます。

社会的混乱については、【ポストコロナ・・・揺れるグローバル化】以降で説明しましたが、グロ―バル化民主主義制市場経済制の3つが懸念されます。

今回からは社会的革新で、【ポストコロナは「ル・ルネサンス」へ!】での予告に従い、ル・ルネサンス第5次情報化統合型エネルギー化の3つを考えていきます。

最初は ・ルネサンス

ル・ルネサンス」という言葉は、当ブログの造語ですが、元々のRenaissance(再生)がre(再)とnaissance(生きる)の合成語であるのを継承して、もう一度re(再)が訪れてRe-Renaissanceが開花するのでは、と予想しているのです。

元々のRenaissanceとは一体、何を「再生」したのでしょうか。

さまざまな意見がありますが、代表的なものでは「ルネサンスとはギリシア、ローマの古典文化を再生することにより、新たな世界観を生み出した運動」とされています。

当時の西欧社会は、ゲルマン民族の大移動で形成された封建制度と、それを支えるローマ教会の思想、つまり「神を絶対視し、人間を罪深いものとする」という観念で形成されていました。

そこで、ルネサンスは、こうした中世社会を「暗黒の時代」と見なし、古代ギリシアや古代ローマの学問・知識を復興することによって、人間性の自由を解放し、ヒューマニズムと個性の尊重という、新たな思潮を生み出そうとした、というのです。

そうはいうものの、当時の著作を振り返ってみると、それほど単純ではないようです。


なるほど、中期の詩人で人文主義者のペトラルカ13041374年)は、古典古代の失われた時代を「暗黒時代」とよび、古典古代の時代こそが人間性が肯定されていた理想の時代と称え、同時期の詩人ボッカチオ13131375年)もまた、代表作『デカメロン』の中で、聖職者を痛烈に批判したうえで人間の愛を称賛しています。

その一方、初期の詩人ダンテ12651321年)は代表作『神曲』の中で、スコラ神学者トマス・アクィナス(1225―1274年)の神学体系に基づいて、ローマの古典文学とキリスト教による救済との調和をめざしており、また晩期にメディチ家のプラトン・アカデミーを主導したフィチーノ14331499年)もまた、神話を天上の力の表現として貴び、その占星術的寓意的解釈に努めています。

とすれば、ルネサンスのめざしたものは、単なる人文主義の復権というより、神格尊重と人間自立のバランス化というのが正解ではないでしょうか。

もう少し視野を広げて、このブログの視点でいえば、一つ前の人口波動、つまり農業前波(B.C.3500A.D.400年頃)の時代識知の見直しによって、限界に至った農業後波(A.D.4001400年頃)の社会構造を突破する時代識知を創り上げようとする運動、ということになるでしょう。