2026年2月23日月曜日

今後50年を予測する➁:社会的混乱

農業後波の飽和期(13001350年頃)をモデルに、人口容量限界化、社会的混乱、時代識知動揺の3つの次元から、工業現波の飽和期(20202070年頃)の世界を予測しようとしています。

前回の「人口容量の限界化」に続いて、今回は「社会的混乱」です。ここでは➀伝染病、➁基本制度、➂国際情勢、経済制度において、大きな変化が予想されます。人口容量の限界化に伴って、これまでの成長・拡大型社会が限界に達するのです。

➀伝染病ではネクストパンデミック(Next Pandemicが予想されます。

2019年以来のコロナ禍に続いて、新たなパンデミックが広がります。

科学技術文明が発達したがゆえに、自然界の細菌類が耐性を強化し、抗生物質が全く効かないスーパー耐性菌類などが、世界中でさらに猛威を振うことが予想されるからです。

WHO(世界保健機関)が2024年に発表した、病原菌の最新リストによると、コレラ菌、ペスト菌、肺炎桿菌などの細菌類や、デングウイルス、サル痘ウイルスなど、33種がピックアップされており、今後の危険性が指摘されています(The Changing Face of Pandemic Risk: 2024 Report)。

さらに抗菌薬(抗生物質)の効かない薬剤耐性菌による「サイレントパンデミック」も、密かに増加しており、2050年のまでの死者数は計3900万人を超え、関連死を含めると計16900万人超と予測されています(Mohsen Naghavi :Global burden of bacterial antimicrobial resistance 1990-2021:The Lancet, 2024 Sep 28)。

以上のように、パンデミックは、動物由来の新ウイルスや細菌が人間に感染する、新しい病原体の出現によって発生することが多く、免疫を持たない人類の間では急速に拡大します。

とりわけ現代社会ではグローバル化の拡大で病原体が短期間で各地に拡散するうえ、拡大する都市エリアによって密閉空間や公共交通機関での接触が感染を広げ、さらに高齢化、貧困化、医療アクセスの不均衡などが死亡率を高めます。

いっそう根本的な背景には、人口容量の限界化に伴う人口抑制装置の作動があります。キャリング・キャパシティー(環境容量の上限が迫るにつれて、あらゆる動物はその数を抑えようとするからです。

今後50年の人類社会では、ネクストパンデミックがおそらく発生するでしょう。


➁基本制度ではデモクラシー(Democracy)の脆弱化が予想されます。

民主主義制という政治・統治制度にも、今後脆弱化の可能性が高まってきます。

すでに10年ほど前から、民主主義を採用する国は、地球のあちこちで減り始めています。

スウェーデンの独立調査機関VDem研究所が発表した2025年版「民主主義リポート」によると、24年時点の調査対象179カ国のうち、民主主義国は88と前年より3カ国減り、強権的な権威主義国の91を下回りました。

同リポートは各種指数に基づいて、各国の政治・統治制度を「自由民主主義」「選挙民主主義」「選挙権威主義」「閉鎖権威主義」4つに分けています。それによると、自由民主主義国29、選挙民主主義国59(両者で88)、選挙権威主義国56、閉鎖権威主義国35カ国(両者で91)となっています。

自由民主主義国は国別では49%ですが、人口別に見ると過去50年で最少の12に留まり、選挙民主主義国の16%を除けば、すでに72%の人々が権威主義国で生活しているのです。

以上のように、民主主義に属する国の退潮には歯止めがかからず、コロナ禍やウクライナ紛争に続いて、米国においても制度の崩壊が加速し、中華人民共和国の強権発動などで、制度そのものへの信頼が大きく揺らぎ始めていますから、民主主義制という政治・統治制度そのものが2070年頃までに消滅していく可能性も予測されます。

もともと民主主義(Democracy)という国家制度は、古代ギリシアのdemocratiaに始まり、1718世紀の市民革命によって近代的民主主義として作り上げられ、国民主権、基本的人権の尊重、法の支配、間接的民主制、三権分立、成年男女の普通・平等選挙権などを構成要素として、現代社会を構成してきました。その意味では、工業現波の成立条件の一つともいえるでしょう。

しかし、それ自体が揺らぎ始めるとすれば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による直接的政策参加、議員就任期間の限定化、非選挙議員推薦制など、社会の変化に対応した制度改革が、新たな検討課題となるでしょう。


➂国際情勢、経済制度については、次回へ回します。

2026年2月14日土曜日

今後50年(工業現波・飽和期)を予測する➀

農業後波の飽和期(13001350年頃)をモデルに、工業現波の飽和期(20202070年頃)の世界を予測しようとしています。

飽和期の基本的な現象としては、【人口停滞の背景を考える!】で触れたとおり、主導文明の停滞とともに人口抑制装置が作動し、政治面では中心勢力の動揺、社会・経済面では飽和・閉塞・動揺感の上昇、文化面では先行き不安ムードの拡大などが予想されます。

この視点を基盤に、農業後波飽和期をモデルに、人口容量限界化、社会的混乱、時代識知動揺の3つの次元から、さまざまな変化を展望してみましょう。


最初は「人口容量の限界化」です。

➀自然環境の変化では、温暖化が進みます。

20世紀初頭からの100年間で摂氏0.7度ほど上昇した地球の平均気温は、21世紀に入ってさらに加速し、世紀後半まで続くと予想されています。要因の9割は、人間の産業活動等で排出された温室効果ガス(主に二酸化炭素とメタンなど)と推定されます。

これによって海水面の上昇や降水・降雪量の変化などが進み、洪水や旱魃、酷暑や豪雪、暴風雨などの異常気象が頻発し、生活・産業環境の危機が急増します。そのうえ、真水資源の枯渇や生物相の変化なども急進し、農業・漁業等食糧資源への悪影響も懸念されます。

➁主導文明の変化では、科学技術の限界化が進みます。

工業現波を生み出した「科学」という時代識知、そのものの限界が浮かび上がってきます。【科学という時代識知は・・・】で指摘したように、この識知は要素還元主義、記号・数字的思考、科学万能主義によって、さまざまな学問や技術を生み出し、人類の生活や生産力を大きく向上させてきました。

しかし、昨今の世界を見ると、化石燃料系は大気汚染を引き起こし、核燃料系は高濃度放射能を拡散させ、巨大化した資本では寡占化や横暴化が進んでいます。今後は急進するAIによるポピュリズムの拡大で民主制が危機に瀕し、コニュミズムの倒錯による全体主義の拡大中央統治機構の弱体化、そして国際機関の空洞化など、この文明の限界を示すような事象が次々に発生します。

➂国際環境では、ポスト・アメリカーナが進行します。

20世紀に「パックス・アメリカーナ」として、世界の覇権を確立したアメリカ合衆国が次第に弱体化し、ヨーロッパの統合を果たしたEU(ヨーロッパ共同体)もまた解体の危機に瀕します。その一方で、中国の「一帯一路」化戦略をはじめ、ロシアや北朝鮮の専制強化など、強引な外交や強硬な内政を行う政権が次々と登場してきています。

こうした状況を見越すように、中近東では20世紀半ばからのパレスチナ紛争や、ISLの勃興によるイラク紛争などが、再び拡大する恐れが高まります。さらに中国・インド間での国境紛争や、米中間での台湾有事なども推測されます。

➃国家体制では、超国家制度の模索が始まります。

パックス・アメリカーナの終焉やコロナ禍への対応などで、グローバリズムへの安易な信仰が大きく動揺し、国際連合の安全保障理事会(UNSC)や世界保健機関(WHO)などへの信頼も次第に低下していきます。

このため、国際連盟や国際連合に代わる、新たな国際構造として、より統合力のある国際組織の模索が始まります。

以上のような変化によって、工業現波の今後50年の世界は、基盤である人口容量が限界に達するとともに、国際環境はもとより、国家という統治制度にも、大きな見直しが迫られるようになるでしょう。

2026年2月2日月曜日

農業後波の飽和期を振り返る!

人口波動法では、世界人口の4つの波動の飽和期をモデルに、工業現波の飽和期(20202070年頃)の社会を予測できる、と考えています。

とりわけ最も近い農業後波AD4001400年)の飽和期(13001350年頃)が、最適のモデルとして浮上してきます。歴史学上「中世後期(late middle ages」ともよばれている、この時代は一体どのような時代だったのでしょうか。

前回述べた「飽和期の基本構造」に基づき、当時の人口推移をリードしたヨーロッパを中心に、主な事象を挙げてみましょう。

●人口容量の限界化

➀自然環境の悪化・・・1300年ころに始まった寒冷化、いわゆる小氷期の開始で、集約農業の基本である農業牧畜に多大な影響が及びました。ヨーロッパ諸国では大飢饉が続き、131517年には150万人もの餓死者が出ています。

➁主導文明・農業革命の終了・・・当時のヨーロッパでは、11世紀以降の大開拓時代が終わり、条件の悪い土地にまで農地が広がっていたうえ、中世の農業革命による食糧生産力も飽和状態に近づいていたため、気候条件の悪化によって忽ち凶作と飢饉が現れたのです。

➂国際環境の変化・・・13世紀から続いてきたモンゴル帝国によるユーラシア大陸支配、いわゆる「パクス・モンゴリカ」が終わり始め、1350年代以降は大陸各地で紛争の続く「ポスト・モンゴリカ」の時代へ向かいました。アジア各地でも、中国の明王朝(1368年)、中央アジアのティムール朝(1369年)など、新しい国家が次々に誕生しました。

➃国家体制の変化・・・以上のような変化が、ヨーロッパ諸国にも危機意識を高めさせ、それまでの封建領主制から、君主が絶対的な権力を行使する絶対王政へと、統治体制の転換を促しました。

こうして人口容量の限界が近づくと、社会的混乱時代識知動揺の、2つの現象が生まれました。

●社会的混乱

➀パンデミックの蔓延・・・強烈な伝染病、ペスト(黒死病)は、モンゴル帝国の築いた交易路「シルクロード」に乗って、134748年にイタリア、フランスに上陸し、3年余の間に全ヨーロッパを席巻しました。1340年頃に約7,400万人に達していたヨーロッパの人口は、その後10年間で5,100万人に急減しています。その後も1350年代、65年前後、80年代前半、95年前後と、ほぼ10年間隔で流行を繰り返した結果、ヨーロッパ全体で100年間に約2,000万人が死亡し、14世紀末まで死亡数が出生数を上回った状態が続きました。

➁教会大分裂(13781417年)・・・ペスト(134751年)が蔓延する前の1309年から、ローマ教皇クレメンス5世はフランスのアヴィニヨンに幽囚され、神聖ローマ帝国に侵略されたローマには帰れない状態が続いていました。ペストが一旦終息した後の1377年、教皇グレゴリウス11世はローマへ戻りましたが、翌年没したため、13781417年の約40年間、ローマ教会はアヴィニヨンとローマに教皇が並び立つ大分裂(大シスマ)となり、その権威は次第に失墜しました。

➂英仏百年戦争(13391453年)・・・寒冷化の影響で飢饉が進む中、1339年、イギリス王家とフランス王家が領土問題や国王継承権などを巡って抗争を始め、ペストが収まった後の1360年に一旦は講和に至りました。しかし、1369年から再び戦乱が始まり、休戦、再戦を繰り返して、1453年の終結まで、ほぼ100年の間、戦争を続けました。要因の一つは、王侯間の調停役を務めていたローマ教皇が、アヴィニヨン幽囚や教会大分裂によって、まったく介入できなかったためです。

➃英仏農民反乱(1358年、1381年)・・・百年戦争による社会的混乱に加え、ペストの流行で農民人口が激減すると、労働力不足に悩んだ領主層は農民の移動の自由を奪って、再び農奴制を強化しようとしました。これに反対した農民層は、1358年にフランスでジャックリーの乱1381年にイギリスでワット=タイラーの乱など、農民反乱を蜂起しました。2つの反乱は間もなく鎮圧されましたが、この動きが継続するにつれて、農奴から解放され、自由を獲得した自営農民層が次第に増えていきます。すると、貨幣所得の上昇に促されて、農村から都市へと移動する農民層も増加し、中世的な村落共同体は次第に解体されていきます。

●時代識知動揺

➀リリジョン識知の衰退・・・ローマ教皇のアヴィニヨン幽囚(1309年)から、カトリック教会の大分裂(1378年)に至る過程で、農業後波の基本的な識知である宗教的知性は次第に衰弱していきました。キリスト教の識知基盤である「神地二国論」は、現実としての世俗的な世界が、理想としての神聖な世界をめざすべきだ、という世界観でしたが、この目標が薄れてきたのです。

➁イタリアン・ルネサンスの萌芽・・・都市の拡大と共に1213世紀、イタリアではヴェネツィアやフィレンツェなどに都市共和国(Comune)が出現し、新たな市民文化が成長してきます。14世紀初頭からダンテ(12651321)、ペトラルカ(13041374)、ボッカチォ(13131375らにより、まずは文芸においてルネサンスが始まりました。中世の神学的識知から脱却し、人間の個性と感情を重視する人間主義(ヒューマニズム)へと転換し始めます。大局的に見れば、農耕牧畜という文明が物量的拡大の限界に達したため、情報的深化へと移行していた、ともいえるでしょう。

以上のような現象が、農業後波の飽和期13001350年頃)には起こっています。これらをモデルとすれば、工業現波の飽和期20202070年頃)はどのような時代となるのでしょうか。