2021年1月24日日曜日

ポストコロナ・・・揺れる貨幣制度

ポストコロナ=ラストモダンの時代も、社会的混乱と社会的革新が並行的に進行し、前者ではグロ―バル化、民主主義制、市場経済制の3つが浮上してきます。

3番めは市場経済制(market economy

この分野では、すでに【コロナ禍でお金の価値が変わる?】や【コロナ禍が資本主義を改変する?】で指摘した通り、次のような混乱が広がっています。

①経済実態と株価推移が乖離し、資本動向と経済動向が分離

所得格差や生活格差がさらに拡大

③国家財政の激な逼迫

④富裕層やデジタル企業などへ不公平税制

このような混乱は、今後も約100年間、ラストモダンの時代にもなお続いていくものと思われます。

その背景にある、究極の要因は「お金」、つまり「貨幣」という言語記号の変質化なのではないでしょうか。

人類は貨幣という言語記号の発明によって、それまでの物々交換から貨幣媒介へと、市場制度を飛躍的に拡大させてきました。

経済人類学者のK・ポランニーも、貨幣とは「言語」記号の一つだ、と述べています。

「一般的にいって、貨幣というのは言語や書くということとか、秤量や尺度に似た意味論上のシステムなのである。この性格は、貨幣の三つの使用法、すなわち支払い、尺度、交換手段のすべてに共通している。」(『経済と文明』)

要するに、貨幣とは事物の比較関係を意味する「言語」記号の一つ、ということです。

コインはもとより紙幣という、ほとんど「ねうち(値)」を持たない物質が、商品や労働などの「あたひ(価)」を表すのは、音声言語の意味作用を物質に応用したものにすぎないからです。

「ねうち(値)」と「あたひ(価)」の違いについては、筆者の別のブログの【「語義×価値」から「ねうち×あたひ」へ!】などの投稿で詳しく述べていますが、前者は一つのモノの「役立つ」という特性、つまり「有用性」がそのモノの特性と一体化している状態、また後者は相対的な尺度、つまり他のモノの「有用性」や「無用性」との〝比較〟や〝対比〟で定まる尺度を、それぞれ示しています。

このうち、「あたひ」の大きさについては、そのブログの【“効用”という“あたひ”とは・・・】において、経済学の客観価値説と主観価値説を紹介しています。

客観価値説では「交換価値」と名づけたうえで、その大小は供給量=労働量によって決まる、と説明します。

主観価値説では「効用」と名づけたうえで、供給量の増減によって変化する、「全部効用(基本的な満足度)」と「限界効用(一つ増えることで得られる主観的な満足度)」のがその上下を作り出す、と説明しています。

いずれにしろ、貨幣の示す「あたひ」の大きさは、供給状況と密接に結びついており、その増減もまた実体社会の動きと的確に連動しています。

ところが、近年の動向をみると、貨幣尺度の変動は実体経済の動きから、次第に離れつつあるように思えます。

①今回のコロナ禍で露出したように、株価という貨幣尺度は、実体経済の動きをもはや反映していません。貨幣供給量の増減という、実体経済とは離れた政策的誘導によって、大きく支配されているからです。

MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)では、独自の通貨を持つ国の政府は、限度なく通貨を発行できるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることはなく、政府債務残高がどれだけ増加しても問題はない、と主張しています。こうなると、貨幣は実体的な「あたひ」ではなく、架空の「信用」を意味するものに変わっていきます。

③インターネット上で拡大し始めた仮想通貨(暗号資産)は、実体を伴わない架空の「あたひ」だけを意味しており、換金性や利用者に対する保証が曖昧なまま、投機性のみが膨張していく危険性を孕んでいます。

以上のように、これまでの市場経済制を支えてきた貨幣という言語もまた、極めて不安定な状況に追い込まれています。

2021年1月15日金曜日

ポストコロナ・・・揺れるデモクラシー

ポストコロナ=ラストモダンの時代も、社会的混乱と社会的革新が並行的に進行し、前者ではグロ―バル化、民主主義制、市場経済制の3つが浮上してきます。

グローバル化に続いて、2番めは民主主義制(デモクラシー:Democracy

コロナ禍が始まる前から、民主主義を採用する国家は減りつつあります。

スウェーデンの研究機関V-Dem Instituteによると、2019年において、世界の国々で民主主義国家は87、非民主主義国家は92となり、18年ぶりに前者が後者を下回ったようです。2000年の人口でいえば、民主国家の人々は46%、非民主国家の人々は54と、1991年の水準に戻っています。

そこにコロナ禍が襲いましたから、アメリカ合衆国の大混乱中華人民共和国の強権発動などで、民主主義制への信頼が大きく揺らぎ、全体主義の跳梁跋扈が目立っています。

とはいえ、一人一人の個人が集まって、互いに支え合いながら、それぞれの暮らしを保障するという民主主義(Democracy)は、国家制度としてはかなり優れた制度でしょう。

古代ギリシアのdemocratiaに始まり、17~18世紀の市民革命によって見直され、新たに近代的民主主義として作り上げられた、この制度は、国民主権、基本的人権の尊重、法の支配、間接的民主制、三権分立、成年男女の普通・平等選挙権などを構成要素として、参加する国民にとっては極めて納得性の高いものだと思います。

これまで人類が生み出してきた、他の制度、例えばMonarchy(君主政)、Aristocracy(貴族制)、Theocracy(神政政治)、Oligarchy(寡頭制)、Dictatorship(独裁制)、Totalitarianism(全体主義)などの長所・短所を大きく超えて、ようやく辿り着いた共同生活制度ともいえるものです。

それでもまだ完成にはほど遠く、成長途上にあることは間違いありません。【コロナ禍が民主主義を脅かす?】で述べたように、現在の間接民主制では、①制度固定化による無力感や不信感の増加、②政党選挙制による個別意見の排除、③代議制による政治的無関心の拡大、④投票者は政策内容・実施状況の検証・理解が困難、⑤選挙活動における利益誘導や投票誘導などの不正、といった問題点が指摘されており、その限界が露呈しているからです。

これらの問題点に通底する要因を敢えて指摘すれば、選挙制度、政党政権制、多数決論理など、それぞれの基本にある数の論理、つまり数字の支配ではないでしょうか。

数が多い方が当選する、多数派の政党が政権を握る、形式的な議論だけで多数票で政策を決定する、といった数値絶対制ともいえる制度です。

もともと直接民主制が目ざしていたはずの、全員参加徹底討議による合意生成という、本来の目標をどこかに置き忘れてきた結果ともいえるでしょう。

近代的民主主義を生み出した基礎理論の一つ、J.J.ルソーの『社会契約論』では、平等な個人間の契約によって社会は成立すると主張したうえで、全人民の意志を代表しない議会制度では運営は代行されえない、と間接民主制を否定していました。

その意味でいえば、現在の間接民主制は数字という観念言語によってバラバラにされ、本来の機能を見失っているともいえるでしょう。

コロナ禍が突いてきたのは、そうした間接民主制の弱点でした。つまり、選挙制度、議員代理制度、政党政治などが理想的・絶対的制度であるというドクサ(臆見)への糾弾だったのです。

とすれば、一気に直接民主制へ戻るのは無理だとしても、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による直接的政策参加、議員就任期間の終身限定化、非選挙議員推薦制など、社会の変化に対応した制度改革を絶えず実施していくことが必要でしょう。

デモクラシーという社会制度は、決して固定化されたものではなく、社会変化に応じて、常に改良・改善されるべきものだと思います。

2021年1月8日金曜日

ポストコロナ・・・揺れるグローバル化

ラストミドルをモデルにして、コロナ禍によって今や始まろうとしているラストモダン、その約100年間を推定しようとしています。

ラストミドルについては、【ポスト黒死病=ラストミドルは革新準備の時代!】で述べたように、社会的混乱と社会的革新が並行的に進行しました。

こうした前例をモデルにすると、ポストコロナラストモダンの時代もまた、社会的混乱社会的革新が並行的に進行するものと思われます。

社会的混乱では、【ポストコロナは「ル・ルネサンス」へ!】で指摘したように、グロ―バル化、民主主義制、市場経済制の3つが浮上してきます。

まずはローバル化。コロナ禍への対応が混乱するにつれて、国際機関の空洞化、国際市場経済制の欠陥化、食糧・資源・燃料などの枯渇化といった現象が目立ち始め、安易なグローバリズム信仰が大きく動揺することになります。

❶国際機関の空洞化

すでに【コロナ禍に対応できない国際組織!】で述べたとおり、現在の国際連合では、①新たな世界秩序を創り上げる構想力の欠如、②世界平和の維持・達成が困難、③安保理常任理事国の巨大特権の弊害化、④専門機関の中立的運営の限界化、⑤内政不干渉原則による紛争解決の限界化など、さまざまな限界性が目立っています。

コロナ禍への対応力をめぐって、その脆弱性が明確に露呈し、もっと統合力のある国際組織への模索が求められています。

❷国際市場経済制の欠陥化

交換経済制度を前提に、資本主義国家はもとより国家資本主義国家もまた、国際市場という交換空間へ競うように参入した結果、それぞれの国の経済構造ではさまざまな弊害が目立ってきました。

とりわけ注目されるのは、①自国の総合的自給力の衰退、②相互依存の強化に伴う危険負担の増加、③先進国・途上国間の経済格差・貧富格差の拡大、④低価格商品の競争激化による資源喪失の拡大、⑤人的物的移動拡大による感染症の拡大、といった現象が急拡大していることです。

❸食糧・資源・燃料などの枯渇化

グローバル化の進展で、世界の各国は生活や産業の基盤である食糧・資源・燃料の供給を相互依存によって、それぞれ強化してきました。

だが、コロナ禍によって、食糧では①供給国の輸出規制、②食糧関連産業の労働者不足、③物流の停滞、③買いだめ・備蓄などが進行し、世界的な食糧危機が懸念されています。

資源・エネルギーについても、石炭、石油、天然ガスなどは特定産出国への加重が進行して、化石燃料の資源枯渇が懸念され始めています。

過度のグローバル化によって、各国は基盤となる生活財までも輸入に依存する産業構造に傾斜させられた結果、それぞれ自給自立構造を弱体化させているのです。

以上のように、これまで進展してきたグローバル化という現象は、安定的な国際環境運営というにはほど遠く、社会・経済環境においても、極端な機能分担を推し進め、ひたすら経済的拡大のみを追求した結果、各国の自立性や自給性については著しく損なわせるという、跛行的な結果を招いています。

一息に寓話に置き換えれば、一人の人間の全体像、つまり「生活体」を地球儀に合わせてバラバラしてしまったのだ、とでもいえるでしょう。

2021年1月1日金曜日

ポストコロナは「ル・ルネサンス」へ!

2021年、新春のご挨拶に代えて、ポストコロナ時代の大枠を展望させていただきます。

このブログでは、ラストミドルをモデルにして、コロナ禍によって今や始まろうとしているラストモダン、その約100年間を推定しようとしています。

ラストミドルについては、【ポスト黒死病=ラストミドルは革新準備の時代!2020126日】で述べたように、社会的混乱と社会的革新が並行的に進行していました。

こうした構造をモデルにすると、ポストコロナ=ラストモダンの時代もまた、社会的混乱と社会的革新が並行的に進行し、新たな時代識知を模索する時代になるものと思われます。 

詳細については、これから順番に述べていく予定ですが、まずは全体像を提示しておきましょう。

社会的混乱では、グロ―バル化、民主主義制、市場経済制などで、大きな混乱が予想されます。

グロ―バル化・・・コロナ禍への対応が混乱するにつれて、国際機関の空洞化、国際資本主義の肥大化、資源・食糧・燃料などの枯渇化といった現象が目立ち始め、安易なグローバリズム信仰が大きく動揺することになります。

民主主義制・・・ポピュリズムの拡大や、コニュミズムの倒錯による全体主義の拡大という国際情勢の中で、コロナ禍により、大きく動揺する政治・統治制度においても、その脆弱性が目立つようになります。

市場経済制・・・資本主義を採る諸国家はもとより、国家資本主義を採る国家においても、資本の寡占化や横暴化が進み、所得格差の慢性的拡大、大量生産-大量消費の害毒化、物質的拡大限界化に伴う情報的過剰化といった弊害が拡散することで、市場経済制度そのものの限界が目立つようになります。

こうした混乱が進む一方で、既成の諸概念や諸制度を見直す動きも次第に拡大し、新たな方向を模索する社会的革新の動きも芽生えてきます。

とりわけ有力になると思われるのは、ル・ルネサンス、第5次情報化、統合型エネルギー化の3つでしょう。

ル・ルネサンス・・・Renaissance(再生)はre(再)とnaissance(生きる)の合成語ですが、ラストモダンには、もう一度re(再)が訪れ、Re-Renaissanceが開花していきます。おそらくそれは、現在の科学的理性をベースとする時代識知(分散型無機エネルギー観、要素還元主義、数理思考など)を、大きく修正あるいは見直すものとなるでしょう。

第5次情報化・・・現代の工業現波に先立つ、4つの人口波動では、いずれにおいてもそれぞれの最終段階である下降期になると、主導する文明の物量的拡大が限界に達するとともに、情報的深化へと移行しています。とすれば、今回のラストモダンもまた、AI化やデジタル化が主導する情報深化へと移行するはずです。その意味において、現在進行中の「DXDigital Transformation:情報革新)」もまた、5番目の情報化、あるいは5次の情報化とよぶべきでしょう。

統合型エネルギー化・・・工業現波の世界では石炭、石油、天然ガス、核燃料など、さまざまな無機系エネルギーが利用されてきましたが、化石燃料系は大気汚染を、また核燃料系は高濃度放射能を拡散させるなど、すでに生物的・有機的な障害を引き起こしています。コロナ禍によって、その限界がますます露呈したため、今後は水力、風力、太陽光、地熱、波力、海洋温度差、バイオマス燃料などの自然系エネルギーへの見直しが始まり、宇宙エネルギーをより直接的に活用する統合型エネルギーへの模索が始まるでしょう。

こうした革新がうまく絡み合えば、新たな時代識知が生み出され、おそらく次の世紀には現在の工業現波に続く、次の波動、いうなれば「工業後波」がしなやかに始動し始めるものと予想されます。