2018年6月29日金曜日

トイレットペーパーはなぜ記号化するのか?

人口減少時代のトイレットペーパーは、なぜ記号化するのでしょうか?

供給側からみれば、人口減少に比例して需要量が減る以上、記号化(マーケティング戦略では
差異化)によって価格上昇や需要拡大を図り、売り上げの減少をカバーしようという、明らかな意図があります。

一方、需要側には人口容量の限界化でモノが伸びなくなったため、コトへの関心が急激に増加しているという背景が考えられます。

このブログで何回も述べてきましたが、人口減少社会とはコト化=情報化が著しく進む時代です。

日本の人口波動で振り返ってみると、過去に4回あった人口減少時代にはいずれもコト化=情報化が進んでいました。



第1波の石器前波では、【用具から情具へ!】(2016年2月9日)で見たように、石器においてもモノ的な用具からコト的な情具への進展が見られました。

第2波の石器後波でも、【
縄文文明も用具から情具へ】(2016年3月8日)で見たように、土器においても用具(実用器)より情具(心理器)の比重が高っています。

第3波の農業前波では、【
第3次情報化の時代】(2016年5月14日)で述べたように、土木・建築などを中心とする生産技術から、製紙技術を基盤とする物語・日記・随筆・説話などの国風文学や絵巻物などの情報文化へと移行しています。

第4波の農業後波でも、【
第4次情報化の時代~③】(2016年7月13日~30日)で見てきたように、農産物増産や築城・土木技術が主導したハード拡大時代から、印刷や出版が中心のソフト深耕時代へと移行しています。

このように見てくると、現代の日本で急速に進みつつある情報化やAI化もまた、第5波の工業現波における人口減少時代、つまり「第5次情報化」を意味しています。

すでに【
5番めの壁:加工貿易文明の限界化】(2016年9月22日)で述べましたが、現代日本の工業現波は、①ハイテク化の限界、②日本型市場主義の限界、③グローバル化の限界などで、人口容量の物理的な拡大が不可能となったため、人口増加から人口減少に移っているのです。

これに伴って、国民の意識もまた、社会的な関心から産業開発の力点まで、全ての方向がモノよりもコトの方へ移行し始めています。

社会的な次元では、人口容量を支える科学技術そのものが、エネルギー拡大、環境維持、食糧増産などの各面で、モノ的対応がほとんど不可能となってきたため、その裏返しとしてAI化やIoTなどコト的充実の方向へ重点を移し変えて、産業の情報化・コト化を急速に進展させいます。

個人的な次元でいえば、私たちの多くがSNS やInstagramに夢中になっているのもまた、電気製品や自動車などモノはもはや伸びなくなってきているため、やむなくコト消費の方へ関心を移している、というのが実情でしょう。

こうした事情を考えると、トイレットペーパーが、単なる機能的商品からコトを楽しむ記号化商品へ次第に移行しているのもまた、人口減少=コト主導社会の進行を示す、ユニークな現象の一といえるでしょう。

2018年6月18日月曜日

トイレットペーパーは、さらに言語記号化!

トイレットペーパーの「差異化」手法として、視覚記号化(カラー化、デザイン化)の事例をあげてきましたが、さらに進化した形として、言語記号化(ネーミング化、ブランド化、ストーリー化)の事例についても、幾つかの商品をあげておきます。


ネーミング化
おしりセレブ」(王子ネピア㈱、1ロール:税込368円)・・・ティッシュペーパー「鼻セレブ」シリーズのトイレットペーパー版

極上のおもてなし」(日本製紙クレシア㈱、同344円)・・・クリネックス・シリーズの上級版

ふくのかみ」(㈲倉敷意匠計画室、同399円)・・・独立系デザイナーのデザインした夜長堂・紅達磨印シリーズの一つ

●ブランド化
羽美翔(はねびしょう)」(望月製紙㈱、同1700円)・・・皇室献上品として5年間の実績を誇る超高級トイレットペーパー

京巻紙 流水」(㈱和紙来歩、同463円)・・・京都発の高級和紙ブランド・トイレットペーパー

黒バラの香り」(四国特紙㈱、同210円)・・・セレブな女性のために作られた高級トイレットペーパー

●ストーリー化
トイレで読む体感ホラードロップ」(林製紙㈱、同145円)・・・ホラー小説「ドロップ」がプリントされたトイレットペーパー

コンビネーションドール・ウェディング」(㈱アルタ、同410円)・・・2ロールを花嫁と花婿のイメージで包んだトイレットペーパー

龍馬からの恋文」(望月製紙㈱、同315円)・・・坂本竜馬からの恋文がプリントされたトイレットペーパー

以上の事例が示すように、差異化手法では言語記号化による需要拡大高額化が懸命に行われています。

これらの商品がユーザーに受け入れられるようになった背景にも、やはり人口減少社会の構造が潜んでいるように思います。

2018年6月10日日曜日

トイレットペーパー、広がる記号化!

選択的願望の代表的な事例が「欲望」願望です。

「欲望」とは何かを考えるためには、私たち生活民の生活構造やその背後にある心理構造を理解しておかなければなりません。

そこで、筆者のもう一つのブログ「
生活学マーケティング」に立ち戻り、生活願望論の要点を整理しておきましょう。

➀私たち
生活民の、さまざまな生活願望が生まれてくる源泉には、筆者が「生活体」と名づけた心理構造があります。

②生活体の基本的な構造は、縦軸(感覚・言語軸)、横軸(個人・社会軸)、前後軸(真摯・虚構軸)
3つの軸です。

③縦軸には、モノ界(感覚界)―モノコト界(認知界)―コト界(言語界)という、3つの世界があります。

④3つの世界から
3つの生活願望が発生します。コト界から生まれる非自然的な願望が「欲望」、モノコト界から浮かびあがる純生物的な願望が「欲求」、モノ界とその外側のカオスの間から噴出する願望が「欲動」です。

⑤「
欲望」とは言語=記号界から生まれる願望であり、言語、記号、意識、理性、観念、物語などを求めるものです。いいかえれば、感覚のとらえた世界を言語化(コトアゲ)によって、観念に変えていこうとするものです。

⑦「欲望」願望を満たそうとする供給対策が「差異化」です。差異化は、商品やサービスのうえに、言語やイメージなど、さまざまな「記号」を載せて、新規性や異質性を訴求する手法であり、具体的にはカラー化、デザイン化、ネーミング化、ブランド化、ストーリー化などが含まれます。

以上の視点からみると、前々回述べた「必需的需要」に対応する「新機能の付加」は、「欲求」に対応する「
差別化」手法ということができます。

これに対し、「選択的需要」に対応する手法の一つとして、まず「差異化」手法をあげることができます。

トイレットペーパー業界ではすでにさまざまな「差異化」製品が供給されていますので、代表的な事例をあげておきましょう。



カラー手法・・・ブラック・トイレットペーパー
●“Renova Black”(世界初の黒いトイレットロール)(Renova社=ポルトガル、1巻価格・税込み324円)
●ブラックロール(大昭和紙工産業㈱、同239円)
●黒紙トイレットペーパー(林製紙㈱、同194円)

デザイン手法・・・花柄トイレットペーパー
●「Hanataba プレミアム」(丸富製紙㈱、同40円)
●花いっぱいトイレットペーパー(コアレックス㈱、同33円)
●エルビラ[バラ](四国製紙㈱、同70円)

デザイン手法・・・ユニーク柄トイレットペーパー
●黒ゼブラ柄トイレットペーパー(イズミコーポレーション㈱、同250円)
●やっぱり猫が好き(猫の足跡)(林製紙㈱、同130円)
●動物柄ラッピングトイレットペーパー・パンダ(服部製紙㈱、同270円)

機能的な革新や改良に加えて、美的趣味や愛玩願望に対応する、以上のようなトイレットペーパーが出現する背景には、やはり人口減少時代の生活民の心理状態が反映しているのではないでしょうか。