「言語」の進化過程を、深層言語➔象徴言語➔自然言語➔思考言語➔観念言語という、5つのプロセスで考えています。最初の深層言語はどのようにして生まれ、次の象徴言語へと進展してきたのでしょうか。
言語の起源については、18世紀の中頃から西欧諸国で議論されてきたようです。それ以来のさまざまな学説を調べてみると、幾つかの論点が浮上してきます。
第一は言語起源に関する基本的論点。言語の発生過程に関する、根本的な視点としては、「動物起源論➔連続性理論」と「言語神授説➔不連続性理論」の2つがあります。
今回はまず動物起源論➔連続性理論(Linguistic Continuity Theory)を振り返ります。
人類の言語は動物類における、さまざまな前言語的なコミュニケーションから発展した、という視点です。主な主張を挙げておきましょう。
●18世紀にフランスの哲学者、E.B.コンディヤック(Étienne Bonnot de Condillac:1714~ 1780)は、言葉=記号を偶然的記号(les signes accidentels)、自然的記号(les signes naturels)、制度的記号(lessignes d’institution)の3つに分けたうえで、偶然的記号(一定の状況下で何らかの観念とたまたま結合された対象)や自然的記号(喜怒哀楽などの感情を表出するために、自然が定めた叫び)の2つは、人も獣も用いるのであり、その使用については重なる部分が少なからずある、と述べています(人間認識起源論:1746)。 ●同じくフランスの哲学者で医師のL.メトリ(La Mettrie :1709~1751)も「動物から人間へ、この推移は急激ではない」と述べつつも、人間と猿のような動物との間に連続性を認めています( L'homme-machine:人間機械論:1747)。 ●19世紀になると、イギリスの自然科学者、C.ダーウィン (Charles Darwin:1809~1882)が「人間と低等動物における感情の表現は、多くの点で同じであり、いくつかのケースでは、感情の強度においても、人間と動物の表現は驚くほど類似している」と述べ、「低等動物の声や発する音は、感情や精神状態を表現するために、人間と同じ方法で使われている」とも書いています(The Expression of the Emotions in Man and Animals, 1872)。 ●ドイツの言語学者、A.シュライヒャー (August Schleicher:1821~1868)も、ダーウィンの進化論に影響を受けて、言語も「自然の産物」であり、生物のように進化するという考えを示し、「言語は一つの有機体である。それは人間によってのみ存在するが、人間の意志によって作られたものではない」と述べています(Schleicher, Die Darwin’sche Theorie und die Sprachwissenschaft,1863)。 ●20世紀に入ると、アメリカの神経人類学者、T.ディーコン(Terrence Deacon、1950~)が「言語は無から生じたのではない。・・・それは他の動物と共有する既存の精神的能力から、徐々に進化したものだ」と述べています(The Symbolic Species:1997) ●またアメリカの認知心理学者、M.トマセロ(Michael Tomasello、1950~)も「人間の言語的コミュニケーションは、言語固有のものというより、他の霊長類とも共有しているより単純な形の社会的・認知的スキルの上に築かれている」と主張しています(Origins of Human Communication:2008)。 ●日本の動物行動学者、岡ノ谷一夫(1959~)も「言語はヒトに特有な行動だが、言語の起源を生物学的に理解するためには、【言語を構成する下位機能は動物とヒトで共通であり共通の神経解剖学的基盤を持つ】と仮定する必要がある」と主張し、「言語起源の前適応説」と名づけています(言語起源の生物学的シナリオ:認知神経科学12:2010)。 |
以上のように、人類の言語は動物類における前言語的なコミュニケーションから徐々に進展したものという視点は、18世紀に始まり現在でもなお支持されています。
果たしてこれは正しい論説なのでしょうか。反論となる「言語神授説➔不連続性理論」の視点も参照してみましょう。
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