ヨーロッパの農業後波のうち、イギリスについては、より詳細な研究が行われていますので紹介しておきましょう。
中世的農業生産の限界化やペストの蔓延によって、イギリスの人口は1340年の370万人から1440年の160万人へと、100年間で4割も減っています。
しかしながら、労働者階級の実質賃金(1451~1457年を100とする指数)は、1340年の55から1440年の110へと約200%も上昇しています(R.G.ウィルキンソン『経済発展の生態学』)。
なぜそうなったのでしょうか。
その理由は「ペスト以降、人間がいなくなった世界で、生き残った幾人かの農民の持つ地片が大きくなる。実際、それらの地片は、単独の相続人のもとに集中した遺産相続の効果によって、死者が持っていた小地片を、食細胞活動によるがごとく吸収するのである。これらの、より広くなった所有地の上で、農民たちはより快適に生活する。かくして、一方の不幸が他方の幸福に貢献する」と説明されています(L.R.ラデュリ『新しい歴史』)。
つまり、人口は減っても農地や生産用具はそのまま残っていましたから、生き残った農民たちは生産性を大きく伸ばし、実質賃金を約2倍に上昇させました。
さらに農業生産が復活してくると、穀物の価格は低落していきましたが、逆に人手不足となって賃金は高騰しきましたから、15世紀は「農業労働者の黄金時代」(T.ロジャース)となったのです。
人口が減ると、生活者は貧しくなるのではなく、逆に豊かになっていくのです。
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