2023年1月21日土曜日

少子化=少産化の直接的要因は・・・

少子化=少産化対策がさまざま形で議論されています。

その効果を計るため、子どもの減る現象、つまり少産化の背景を直接的背景、社会・経済的背景、巨視的背景の3次元整理しています。

まずは少産化がどれほど進んでいるのか、出生数と合計特殊出生率の推移で確認しておきましょう。

合計特殊出生率とは「1549歳の女性の年齢別出生率を合計したもの」で、一人の女性が一生の間に生む子どもの数が推定できます。


出生数1949年の270万人から66年の136万人まで落ちたが、以後は回復して1973年の209万人で第2次ベビーブームを迎えた後、再び徐々に低下し始め、2020年には84万人まで減っている。

❷合計特殊出生率は1949年の4.32人から66年の1.58万人まで低下したが、以後はやや回復し、1984年の1.81となった後、再び低下し始め、2005年に1.26人と最低を示したものの、2020年には1.33まで回復している。

以上のような出生数低下の直接的背景には、①出産適齢人口の減少②結婚・夫婦数の減少③夫婦内少産化、の3つが絡み合っていると考えられます。

出産適齢期の女性の数が減少し、結婚する夫婦の数も減っているうえ、結婚した夫婦の間で子ども作りが減っている、ということです。

3つの要因を関連統計によって確認しておきましょう。

①出産適齢女性人口の減少

出産可能年齢女性人口(1549)に広げて、100年間の推移を振り返ってみます。



1920年の1328万人から1940年の1758万人を経て、戦後は1945年の1950万人から1990年ころに3145万人でピークに達した後、徐々に減少し、2020年には2500万人にまで落ちています。ピーク時の約8割です。

②結婚・夫婦数の減少

結婚数の推移を、少子化白書(令和4年版)で確かめてみます。



婚姻件数の推移を振り返ると、終戦直後の194849年に95万組(第1次婚姻ブーム)となった後、49年からは急減し、51年は67万組と戦後最低を記録しました。その後は増加に転じ、197072年には110万組(第2次婚姻ブーム)を迎えたものの、7378年にかけて急減し、以後は緩やかな減少傾向となりましたが、88年から増加傾向に転じています。その後は増減を繰り返し、2002年以降は減少しています。

③夫婦内少産化

夫婦の間における子供数の推移を、完結出生子ども数(結婚持続期間1519年)で振り返ってみます。



子ども数は戦後はほぼ一貫して低下していましたが、1972年に2.20となった後は安定化し、2002年の2.23人まで30年間にわたって2人台を続けました、しかし、2005年の2.0人以降は低下に転じ、2021年には1.90人まで落ちています。

 

以上で述べた直接的背景の3要因について、第2次ベビ-ブームの1970年前後から直近の2020に至る50年間について、出生数の減少率に対する、それぞれの影響力を比べてみると、下表のようになります。 



❶出産可能人口は0.85、婚姻件数は0.48、夫婦内少産化は0.86に落ちており、婚姻件数の低下が最も強く影響している。

3要因の減少率を掛け合わせると0.35となり、出生数の減少率0.40とほぼ同じだが、0.05ほど下回っている

0.05という減少差は、3要因のほかに別の要因が潜んでいることを示唆しているのかもしれない。

以上のように見てくると、いわゆる少子化対策として計画されている諸政策は、婚姻件数の増加と夫婦内少産化の2面だけをほぼ対象にしており、よほどの効果がない限り、出生数の増加を招くことは困難だと思われます。

2023年1月8日日曜日

少子化対策で人口が減る!

年間出生数が80万人を切ると予測される昨今、少子化対策が喫緊の政策課題として注目を集めています。

岸田総理は「異次元の少子化対策」として、①児童手当など経済的支援の強化、②学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、③働き方改革の推進、の3テーマを提起しました。

東京都の小池知事も、都内に住む018歳の子どもに対し、5000円程度を所得制限なしで給付する、と明言しています。

これらの政策で本当に少子化が改善され、出生数増加へと転換できるのでしょうか。

 

少子化対策が有効か否かを判断するには、子どもが減る要因をまず明らかにすることが必要です。

子どもの減る現象を、政府はもとよりマスメディアなども「少子化」とよんでいますが、これはかなり不正確な表現ですから、当ブログでは「少産化」と名づけています。

(詳しくは「少子・高齢化」でなく「少産・多死化」「少子・高齢化」で人口は減らない! を参照)

そのうえで、子どもの減る現象、つまり少産化の背景を大きく整理してみました。

直接的背景、社会・経済的背景、巨視的背景の3つの次元です。


詳しい説明は後述することにして、まずは大まかに全体の構図を確認しておきましょう。

直接的背景

①出産適齢人口の減少、②結婚・夫婦数の減少、③夫婦少産化の3つが絡み合っています。

出産適齢期(2039)の女性の数が減少し、結婚する夫婦の数も減っているうえ、結婚した夫婦の間で子ども作りが減っている、ということです。

社会・経済的背景

経済状況(経済停滞、貧困層増加、社会保障不安)、②生活・社会状況(晩婚・非婚化、核家族化、平均寿命延長、大都市集中)などがあげられます。

経済状況の悪化により、結婚数が伸び悩んだり、妊娠を抑える傾向が増加しているうえ、ライフスタイルや社会状況の変化が、直接的背景を促しているということです。

巨視的背景

人口容量(加工貿易型経済限界化、グローバル化混乱、福祉型国家の限界化、終身雇用型労働の限界化)、②人口抑制装置(生活水準維持欲求、文化的抑制装置作動、生理的抑制装置作動)などが該当します。

社会・経済的背景のさらに背後には、現代の日本社会を造り上げてきた人口容量の限界、つまり科学技術や国際化による生活資源獲得の限界、西欧型福祉国家の限界、終身雇用制の縮小などによって、出生数を抑えようとする文化的(人為的)な抑制装置はもとより、パンデミックや死産数増加などに代表される生理的(生物的)抑制装置もまた作動しているのです。

以上のようなマクロな視点に立つと、喧伝されている少子化対策の効果はほとんど期待できません

異次元・・・」と唱えながら、その実は直接的背景、それも「夫婦間少産化」への対応にすぎませんから、効果が出たとしても微々たるものでしょう。一時的に増加し得たとしても、少し時間がたてばアッという間に減少に戻っていきます。これでは「異次元」どころか、「同次元」にすぎません。

まして1月5000円で大都市の出生数を上げ得たとしても、それを求めて大都市に人口が集まってくれば、国家全体の人口は減っていきます。大都市の出生率は地方都市より、かなり低いからです。大都市とは、人々を集めて減らす「蟻地獄」なのです。

もし本格的に出生数の増加を狙うとすれば、この図に描かれた全体構造の改革へ向かって、大胆に挑戦していかなければなりません。社会・経済的背景はもとより、巨視的背景にまで踏み込むことが求められるのです。

実を言えば、それこそが人減先進国の向かうべき、唯一の進路でもある、ともいえるでしょう。

より詳細な検討を進めていきましょう。