新聞やテレビでは「少子・高齢化で人口が減る」と、ごく当然のように述べています。だが、少子・高齢化で、本当に人口が減るのでしょうか?
「少子化」とは何を意味するのでしょう。さまざまな辞書では「出生率の低下に伴い、総人口に占める子供の数が少なくなること」(デジタル大辞泉)、「親世代よりも子世代が少なくなること」あるいは「総人口に占める子供の人口の割合が低下すること」(大辞林・第三版)などと定義されています。整理すると、概ね5つの意味があるようです。
1. 出生数が減ること
2. 出生率が低下すること
3. 子どもの数が減ること
4. 総人口に占める子どもの割合が下がること
5. 親世代よりも子世代が少なくなること
このほか「出生率が人口置換水準以下にまで低下すること」という専門的な定義もあるようですが、これは人口維持という、別の概念が混入していますから、ここでは外します。
一方、「高齢化」については「高齢化社会」として解説されているのが一般的で、「総人口に占める老年人口の比率が高まること」(デジタル大辞泉)、「総人口に占める高齢者の比率が増大していくこと」(大辞林・第三版)、「総人口中に占める65歳以上の高齢者人口の比率がしだいに増えること」(百科事典マイペディア)などと説明されています。整理すると、2つに整理できます。
1. 高齢者あるいは老年者の数が増えること
2. 総人口に占める高齢者の割合が上ること
このような定義に従うと、「少子・高齢化」とは、概ね2つの定義に整理できます。
① 出生率の低下で出生数が減少して子どもの数が減る一方、高齢者あるいは老年者の数が増えること
② 総人口に占める子どもの比率が下がり、高齢者あるいが老年者の比率が上ること
①②で人口は減少するのでしょうか? 今年の人口より来年の人口が減る、基本的なケースとしては、「出生数より死亡数が多くなる自然減」と「入国者より出国者が多くなる社会減」の2つが考えられます。2010~2013年の減少数でみると、自然減と社会減の比重はほぼ8:2です。
しかし、社会減は年齢構成とは直接関わってきませんから、少子・高齢化の影響がそのまま出るのは自然減です。そこで、以下では自然減について考えていきます。
①の定義「出生率の低下で出生数が減少して子どもの数が減る一方、高齢者あるいは老年者の数が増える」だけでは、人口は減りません。どれだけ乳児が減っても、高齢者の数が増えている以上、人口は減らないからです。
②の定義「総人口に占める子どもの比率が下がり、高齢者あるいが老年者の比率が上」っても、それだけでは人口は減りません。「出産適齢人口」や「有配偶率」が下がらない限り、人口には影響してこないからです。
要するに、少子・高齢化では人口は減らないのです。人口が自然減となるのは、「出生数より死亡数が多くなる」ケースだけです。当り前のことですが、「少子・高齢化」の定義を「出産される乳児の数が減って、死亡する高齢者の数より少なくなる」と変えない限り、人口は減らないのです。しかし、従来の定義のままでは、減ることにはなりません。
そんなことはわかっている。「少子・高齢化という言葉には、そこまで含まれているのだ」という反論もあるでしょう。いうまでもありません。いささか不粋な論理を述べてきましたのは、「少子・高齢化」という言葉の曖昧さ、つまり「年齢構成の変化」と「少産・多死化」の2重性に危惧を覚えるからです。この不完全さが、ややもすると、目の前にある重大な現象を曲解させ、さらには今後の対策を誤らせる恐れがあると思うのです。
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