2020年4月21日火曜日

時代識知としての仏教

宗教を時代識知としてどのように捉えるべきか、を考えてきましたので、今回は要点を整理してみます。

原点は個人としての生き方


初期仏教の教義は、【仏教の原点を考える!:2020年2月22日】で述べたように、環境世界と人間の関わり方というよりも、釈尊が提唱した、個人としての人間の生き方を中心としていました。

しかし、時代が下り、多くの人々を教団化するにつれて、より集団的、社会的な視点を加えるようになり、人間集団を動かす「時代識知」へと変化してきました。

②大乗仏教で個人的信仰から社会的な課題対応へ

小乗仏教から大乗仏教へ移るにつれて、教義の中心は【大乗仏教という観念体系:2020年3月3日】で述べたとおり、個人的な「利己」から社会的な「利他」へ広がるとともに、仏や菩薩の数も釈尊独仏から多仏連立へと拡大し、多数の人間のさまざまな課題に向き合うようになりました。

それとともに、人間の心理構造にも踏み込んで、個人的な心理体系から集団的な観念体系へ、つまり信心論から言語哲学へと発展してきました。

③密教で社会的なエネルギー構造

大乗仏教が生み出した社会構造は、密教に至ってさらに精密化され、曼荼羅エネルギーが人間社会を動かす:2020年4月10日】で指摘したように、太陽エネルギーを直接的に応用して、農業・牧畜業を担う人間集団(集落や村落など)を成立させました。
 
それぞれの集団では、太陽神を中心とするツリー状の社会構造を成立させ、個々人の役割、倫理、責任などを確定させることによって、人間社会が遭遇する、さまざまな危機に対応していく、個人的、集団的な方策を用意しました。

 











以上のような進展によって、仏教という時代識知は、【宗教の定義を識知化する!:2020年2月13日】で掲げた3条件、つまり①開祖等による記号的観念体系の提唱、②観念信仰の集団幻想化、③組織・制度の社会的装置化を創り上げることで、集約農業を担う人口容量を生み出したうえ、その社会の維持・発展を可能にしたものと思われます。

2020年4月10日金曜日

曼荼羅エネルギーが人間社会を動かす!

前回述べたように、胎蔵界曼荼羅には大日如来や阿弥陀如来のエネルギーを原点とする、諸仏諸尊の“動き”が表示されています。

この構造は、人間集団を動かす、さまざまな動力の流をきめ細かく暗示しているように思えます。

そこで、前回の「動力曼荼羅」に配置された諸仏諸尊の“動き”を“動線”に置き換えてみると、下図のような「エネルギー曼荼羅」になります。




この図から読み取れることを列記してみましょう。


●人間集団=社会を構成する諸要素は、宇宙・太陽の発する、強力なエネルギーを受け入れて、それぞれが独自の“動き”を展開している。

●諸要素は近隣の要素からエネルギーを受け入るとともに、それらの要素にもエネルギーを提供している

●最外部では、内部からのエネルギーを補給されつつ、社会集団の外側に対して防御態勢を担っている。

以上の動力傾向は、人間の社会構造から見ると、次のように置き換えられます。
 
分担関係・・・社会を担う、さまざまな要素は、宇宙エネルギーの供給を受けつつ、それぞれの担う役割を遂行している。

相互関係・・・社会を担う、さまざまな要素は、自らの役割を果たすともに、関連する諸要素と連携を図っている

防御態勢・・・人間集団全体として、天災や地変などの自然災害はもとより、病気や煩悩などの個人的障害まで、マイナス要素に対抗する防御機能を持っている。

こうした社会構造によって、仏教:密教という時代識知は、集約農業社会を生成させ、さらに維持・発展させていくことに貢献しました。


太陽エネルギーを直接的に応用して、農業・牧畜業を成立させた。
 
②農業・牧畜業を担う人間集団(集落や村落など)を成立させた。

③太陽神を中心とするツリー状の社会構造を成立させた。

④人間集団の内部における、個々人の役割、倫理、責任などを確定させた。

⑤人間社会が遭遇する危機に対する、個人的、集団的な対応策を用意した。

仏教という宗教を、時代識知という視点から眺めると、以上のような特性を読み解くことができそうです。

2020年4月2日木曜日

胎蔵界曼荼羅の動力構造

胎蔵界曼荼羅の中に配置された、主な諸尊の、それぞれの役割を簡単に確認しておきましょう。

お役目のうち“動詞”部分を強調するため_で表示してみました。


大日如来:太陽(太陽力を司る毘盧舎那如来が進化された仏。

宝幢(ほうどう)=宝生如来:心を鏡にして全てのものを写しとる智恵。

開敷華王(かいふけおう):自他共に全てを平等にする智恵。

阿弥陀如来=無量寿:無量の光(宇宙力)で全てを正確に見極める智恵。

天鼓雷音(てんくらいおん):雷鳴のように法音(説法や読経)を轟かせて人々を教化。

普賢菩薩:あらゆるところに現れ命ある者を救う菩薩。

文殊菩薩:空の智恵で菩提心を清めて煩悩を断ずる菩薩。

観自在菩薩:人々の苦しみを見抜いて救う菩薩。

弥勒菩薩:あらゆる人々を慈悲によって救済する菩薩。

遍知印:大日如来の燃え上がる大悲。

般若菩薩:すべてに通じた仏の智慧(般若)を与える菩薩。

観音菩薩:衆生を智慧で見守り救う菩薩。

不空羂索観音:網で捕らえ衆生を救済する観音。

金剛薩埵菩薩:大日如来の教えを人々に伝授する仲介者。

金剛牙菩薩:牙で一切の魔を降伏させる菩薩。

釈迦牟尼:三宝(仏・法・僧)のうち仏宝を示す尊。

虚空蔵菩薩:智恵を授ける菩薩。

地蔵菩薩:弥勒菩薩が出現するまでに、命あるもの全てを救う菩薩。

除蓋障菩薩:煩悩や執見といった蓋障を取り除く菩薩。

賢護菩薩:無量の寿命を与える菩薩。

日光菩薩:一千の光明で広く天下を照らし、無明の闇を滅尽する菩薩。

毘沙門天:北方を守護する神。

増長天:南方世界を守護する神。

伊舎那天:北東方を守護する神。

風天:西北方を守護する神。

火天:東南方を守護する神。

涅哩帝王:南西方を守護する神。

  
上記の“動詞”部分を参考にしつつ、「諸尊曼荼羅」を“動き”のある「動力曼荼羅」に置き換えてみると、下図のようになります。


これをみると、次のようなエネルギーの動き読み取れるでしょう。

①中央の大日如来=太陽力発する、強大な力を、数多くの諸尊がそれぞれ分担して、さまざまな意図を持った力に変換しています。

②大日如来の太陽力は、阿弥陀如来の宇宙力でバックアップされつつ、燃え上がる遍知印を通じて、釈迦牟尼へもたらされています。

③大日如来を囲む中台八葉院の8つの諸尊は、さまざまな力によって、人々を教化救済する役割を分担しています。

蓮華部院金剛手院諸尊は、大日如来のエネルギーを人々に伝えつつ、邪魔する力を排除していきます。

地蔵院除蓋障院諸尊は、過去から未来に至る、時間を超えた救済力や防御力を示しています。

⑥外縁部の最外院では、諸尊のエネルギーが四方八方からの障害から人々を護っています

⑦多数の諸尊の間には、文殊菩薩は開敷華王如来から、普賢菩薩は宝幢如来から、観自在菩薩は阿弥陀如来から、それぞれが生まれた菩薩であるといわれるように、出自関係や由来関係が潜んでおり、エネルギーの方向性が暗示されています。

以上のような諸尊間の関係性から推測すると、胎蔵界曼荼羅には大日如来の太陽力や阿弥陀如来の宇宙力を原点に、人間社会を動かすエネルギーの流れがきめ細かく暗示されているように思えます。