私たちが通常使っている言葉、つまり表象言語の成立過程を、深層言語と象徴言語の進展状況から眺めてきました。
このような進化は人類の歴史上、どのような時期に起こったのでしょうか。人類史に関わる、さまざまな文献に基づいて、大略を整理してみると、下図のようになります。
考古学的な資料として発表されているデータは、音声言語、文字言語、表号言語、形象言語に関する4分野です。主なデータを整理してみると、古い順に音声言語、形象言語、表号言語、文字言語の順となります。
●音声言語
音声言語の起源に関する学説は、「連続性理論=初期起源論」と「不連続性理論=後期起源論」に大別されます。 連続性理論・・・人類の会話能力は霊長類の前言語的なコミュニケーションから発展したもので、少なくとも200万年かけて徐々に発達した、と主張しています。 不連続性理論・・・解剖学的な視点から、現生人類は10~5万年前に、単純な音やジェスチャーによるコミュニケーションを文法的な音声に変換したと主張するもので、アメリカの言語学者、ノーム・チョムスキーらによって支持されています。 不連続性理論の最先端では、遺伝子分析によって135,000年以前に始まっているとの主張もあります。MITの宮川茂名誉教授は「地球上に分岐するすべての人口は人間の言語を持っており、すべての言語は関連している。最初の分岐は約135,000年前に起こったとかなり確実に言えるから、人間の言語能力はそれまでに、またはそれ以前に存在していたはずだ」と主張しています(Linguistic capacity was present in the Homo sapiens population 135,000 years ago,2025)。 |
●形象言語
形象言語は心像イメージ、無意識的イメージを示すもので、洞窟壁画や石器絵画など原始絵画が該当するとすれば、ほぼ70,000年前ころに生まれています。 現世人類、つまりホモ・サピエンスの洞窟絵画では、南アフリカのブロンボス洞窟で約73,000年前、インドネシアのスラウェシ島の鍾乳洞で約51,200年前、フランス南東部のショーベ洞窟で約37,000~32,00年前、スペインのティト・ブスティーリョ洞窟で約36,000年前、フランスのラスコー洞窟で約32,000年前、スペインのアルタミラ洞窟で約18,000~10,000年前などの壁画が発見されています。 |
●表号言語
表号言語は識知の捉えたイメージを、類似パターン、潜在パターン、模様などで表すもので、30,000万年前ころから、主に石像や石具などに現れています。 石像では、ドイツのホーレ・フェルス洞窟で出土した女性像は約35,000年前、イタリア北部のバルツィ・ロッシ洞窟の「グリマルディのビーナス」は24,000年前、フランスのアミアンで発掘された「ルナンクールのビーナス」は23,000年前などです。 またトルコのカラハンテペ遺跡では、約12,000年前の「物語を立体的に表現した遺物」も発見されています。小さな石蓋で密閉された器の中から、キツネ、ハゲワシ、イノシシの3体の石像が発見され、いずれも石のリングに頭部が差し込まれていると状態で、何らかのストーリーを示唆しており、言語段階の象徴言語の発生を意味しています。 |
●文字言語
文字言語の初期段階、つまり原始文字は、音声文字や形象文字などを点や線の組合せで記号化したもので、ほぼ3,000年前ころに生まれています。 ウルク古拙文字は、3,200年前ころにイラクのシュメール人が都市ウルクで使い始めた絵文字です。エジプトのヒエログリフ(象形文字)は3200年前ころ、メソポタミア・シュメール人の楔形文字は3000年前ころ、中国の甲骨文字は2000年代前後半、インドのインダス文字は2600~1900年前ころと推定されています。 |
言語群の創生状況を以上のように振り返ると、言語階層における深層言語、象徴言語、表層言語の生成状況が朧気ながらも浮かんできます。
深層言語は4~2万年前から、象徴言語は1万年前から、表層言語は0.5万年前から、という時期が概ね読み取れます。









