2025年6月13日金曜日

言語起源論を振り返る・・・➀連続性理論

「言語」の進化過程を、深層言語象徴言語自然言語思考言語観念言語という、5つのプロセスで考えています。最初の深層言語はどのようにして生まれ、次の象徴言語へと進展してきたのでしょうか。

言語の起源については、18世紀の中頃から西欧諸国で議論されてきたようです。それ以来のさまざまな学説を調べてみると、幾つかの論点が浮上してきます。

第一は言語起源に関する基本的論点。言語の発生過程に関する、根本的な視点としては、「動物起源論➔連続性理論」と「言語神授説➔不連続性理論」の2つがあります。

今回はまず動物起源論➔連続性理論(Linguistic Continuity Theoryを振り返ります。

人類の言語は動物類における、さまざまな前言語的なコミュニケーションから発展した、という視点です。主な主張を挙げておきましょう。

●18世紀にフランスの哲学者、E.B.コンディヤックÉtienne Bonnot de Condillac:1714~ 1780)は、言葉=記号を偶然的記号(les signes accidentels)、自然的記号(les signes naturels)、制度的記号(lessignes dinstitution)の3つに分けたうえで、偶然的記号(一定の状況下で何らかの観念とたまたま結合された対象)や自然的記号(喜怒哀楽などの感情を表出するために、自然が定めた叫び)の2つは、人も獣も用いるのであり、その使用については重なる部分が少なからずある、と述べています(人間認識起源論:1746)。

●同じくフランスの哲学者で医師のL.メトリLa Mettrie :17091751)も「動物から人間へ、この推移は急激ではない」と述べつつも、人間と猿のような動物との間に連続性を認めています( L'homme-machine:人間機械論:1747)。

●19世紀になると、イギリスの自然科学者、C.ダーウィン (Charles Darwin18091882)が「人間と低等動物における感情の表現は、多くの点で同じであり、いくつかのケースでは、感情の強度においても、人間と動物の表現は驚くほど類似している」と述べ、「低等動物の声や発する音は、感情や精神状態を表現するために、人間と同じ方法で使われている」とも書いています(The Expression of the Emotions in Man and Animals, 1872)

●ドイツの言語学者、A.シュライヒャー (August Schleicher1821~1868)も、ダーウィンの進化論に影響を受けて、言語も「自然の産物」であり、生物のように進化するという考えを示し、「言語は一つの有機体である。それは人間によってのみ存在するが、人間の意志によって作られたものではない」と述べています(Schleicher, Die Darwin’sche Theorie und die Sprachwissenschaft,1863)

●20世紀に入ると、アメリカの神経人類学者、T.ディーコンTerrence Deacon1950)が「言語は無から生じたのではない。・・・それは他の動物と共有する既存の精神的能力から、徐々に進化したものだ」と述べています(The Symbolic Species1997)

●またアメリカの認知心理学者、M.トマセロMichael Tomasello1950~)も「人間の言語的コミュニケーションは、言語固有のものというより、他の霊長類とも共有しているより単純な形の社会的・認知的スキルの上に築かれている」と主張しています(Origins of Human Communication2008)。

●日本の動物行動学者、岡ノ谷一夫1959~)も「言語はヒトに特有な行動だが、言語の起源を生物学的に理解するためには、【言語を構成する下位機能は動物とヒトで共通であり共通の神経解剖学的基盤を持つ】と仮定する必要がある」と主張し、「言語起源の前適応説」と名づけています(言語起源の生物学的シナリオ:認知神経科学122010)。

以上のように、人類の言語は動物類における前言語的なコミュニケーションから徐々に進展したものという視点は、18世紀に始まり現在でもなお支持されています。

果たしてこれは正しい論説なのでしょうか。反論となる「言語神授説不連続性理論」の視点も参照してみましょう。

2025年5月23日金曜日

言語はどのように進化してきたのか?

言語の発生時点や進化過程などについては、解剖学、脳科学、生物学はもとより、哲学、言語学、考古学、心理学、人類学など、さまざまな分野から推定結果や研究論文が発表されています。

しかし、当ブログの視点に直接的に応用できるものはほとんどありません。

そこで今回はまず、当ブログで考えている言語の進展過程を、一つの仮説としておおまかに説明しておきましょう。

およそ10~6万年前に出現したと推定される「言語」は、人類特有の識知・交信手段として、深層言語➔象徴言語➔自然言語➔思考言語➔観念言語という、5つのプロセスで進化してきた、と思われます。5つの言語とは、【言語6階層説:深層言語とは・・・】から【言語6階層説:思考言語とは・・・】で述べた定義の中から選び直せば、次のようなものです。

深層言語は、「身分け」が把握したものの、「識分け」に至る前の無意識(深層意識)の事象を、言葉になる前のイメージや偶像などで表した記号です。感覚が捉えた対象を、意識が把握する前の、体感的・心像的な動作やイメージであり、自然的な言葉が生まれる前に、胎内的な言葉が湧き上がる次元、とも言えるでしょう。

具体例としては、音声言語(無意識のため息、喘ぎ、息づかい)、動作言語(無意識の手振り、身振り、しぐさ)などが考えられます。

象徴言語は、「身分け」が把握し、「識分け」が動物的、衝動的に捉えた事象を、擬声語や擬態文字、イメージや偶像などで表した言葉です。意識が把握したものの、自然言語が形成される前の未言語は、いわば始原的な言葉となって、「識分け」と「言分け」の間を浮遊しているのです。

具体例としては、音声言語(オノマトペ:onomatopée)、文字言語(象形文字:ヒエログリフ、楔形文字など)、表象記号(古墳壁画、銅鐸絵画など)です。

自然言語は、「言分け」によって生まれる言語、つまり人類が「身分け」し、「識分け」した対象を、音声やシンボル(絵や形)に明確に置き換えた言葉です。「識分け」が捉えた事象をとりあえず始原語で記号化する「象徴言語」に対し、より精密な「言分け」によって明確に言語化するのが「自然言語」だ、ともいえるでしょう。

この言語は、人間集団という共同体内の交流を通じて個人の中に育まれ、音声や記号によって他者との会話にも使用されるようになります。

思考言語は、共同体との交流を通じて個人の中に育まれた「自然言語」を、特定の音声や記号に変えて、自らの思考用に使用する言語です。この言葉によって、人類は「言分け」による「コト界(言知界)」から、「網分け」による「アミ界(理知界)」への移行を促され、集団的な思考を行うようになります。

網分け」とは、【言語6階層論へ進展する!】で述べたように、「言分け」による「分節」によって生み出された自然言語や自然記号に対し、さらに特定の意図による「網」をかけ、抽象化された言葉や記号を創り出すことです。

観念言語は、「身分け」「識分け」「言分け」が捉えた事象を、「網分け」の「理知」によってより精細に捉え直し、音声や記号などの創作言語で表現した言葉です。

この言葉は、専門的知識人や特定社会集団などの“理”縁共同体が、高度な思考するための記号として使われています。

以上のような進化過程を、「」を事例に考えてみると、次のようになります。


このような仮説がどこまで検証できるのか、さらに考えていきましょう。

2025年5月12日月曜日

言葉はいつから生まれてきたのか?

5大波動の成立構造で述べた、5つの仮説を検証しています。

最初は基層言語の変化。このブログでは、5万年前ころの深層言語の浸透、1万年前あたりの象徴言語の登場、5千年前ころから自然言語の普及、ほぼ3千年前からの思考言語の拡大、600700年前あたりからの観念言語の普及…とおおまかに推定しています。

この仮説は検証できるものなのでしょうか。

言語の進化過程については、解剖学、脳科学、生物学はもとより、哲学、言語学、考古学、心理学、人類学など、さまざまな分野の研究者がそれぞれの立場から発言しますが、いずれも確かなエビデンスはなく、一応の推定結果として公表されています。

それゆえ、当ブログの言語進化論もまた、さまざまな所見を参考にしつつ、あくまでも推定行動として検証していきましょう。

最初の検討事項は、言語そのものの発生・発達過程です。

イスラエルの歴史学者、Y.N.ハラリYuval Noah Harari1976~ )は、その著『サピエンス全史』の中で、「約7万年前から約3万年前にかけて、人類は舟やランプ、弓矢、針を発明した。(…)ほとんどの研究者は、これらの前例のない偉業は、サピエンスの認知的能力に起こった革命の産物だと考えている」とし、7万年前から3万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法の登場のことを、『認知革命』という」(上巻:P3435)と名づけたうえで、この革命の意味について「私たちの言語が持つ真に比類ない特徴は(…)まったく存在しないものについての情報を伝達する能力だ」と述べています(P39)。

またアメリカの言語学者、J.ニコルスJohanna Nichols1945~)は、世界の近代言語の共通の祖先が少なくとも10万年前に発生したという証拠を提示し、前近代型の音声コミュニケーションの古代のルーツを示唆しています(FindArticles1994611日)。

これらの主張に従えば、「言語」という認識手段は、10~3万年前の間に人類が生み出したもの、と考えられます。だが、その進化過程については明らかではありません。参考になるのは、次のような発想でしょう。

アメリカの言語学者、D.J. エヴェレットDaniel Leonard Everett1951~ )は言語起源の記号進展理論sign progression theory)として、10~5万年前に起きた突然変異を否定したうえで、「言語はインデックス:指標記号(足跡が動物を指すように、物理的につながりのあるものを表す事項)、アイコン:像記号(実在の人物の肖像画のように、表そうとする事物と物理的に似ている事物)、それから最後にシンボル:徴記号(ほとんど恣意的な、慣習的な意味の表し方)の創造へと、徐々に現れてきた」とし、「シンボルはいずれ他のシンボルと組み合わされて文法を生み出し、単純なシンボルから複雑なシンボルが構築されていく」と述べています(『言語の起源』序文)。

エヴェレットの進展論は発話形態次元に留まっており、本質的な進化論とはいえないと思いますが、重要な視点として参考にしつつ、時代識知の創造源としての立場から、言語の変化過程を確かめていきたいと思います。

2025年4月27日日曜日

5大波動の成立構造を振り返る!

世界の人口推移5つの波動が生まれた背景を、言語や時代識知の変遷からおおまかに推測してきましたので、ひとまず全体の流れを整理しておきます。

石器前波から工業現波に至る、5つの波動の成立構造としては、基層言語、時代識知、主導文明、生産形態、生産集団などが、下表のように絡み合っています。

5つの成立動向を整理してみましょう。

基層言語の変化では、5万年前ころの深層言語の浸透、1万年前あたりの象徴言語の登場、5千年前ころから自然言語の普及、ほぼ3千年前からの思考言語の拡大、600700年前あたりからの観念言語の普及がおおまかに推定できます。

➁時代識知の形成過程は、BC5万年頃のマナイズムの浸透、BC9000年頃のアニミズムの普及、BC4000年頃のミソロジーの登場、AD500年前後からのリリジョンの拡大、AD1500年頃のサイエンスの登場が推定されます。

➂文明の転換は、BC5万年頃の旧石器文明の登場、BC9000年頃からの新石器文明の拡大、BC3500年頃の粗放農業文明の登場、AD400年頃からの集約農業文明への転換、AD1500年頃からの工業文明の進展がほぼ推定できます。

➃主導生産の進展は、BC5万年頃からからの狩猟・採集の拡大、BC1万年頃からの狩猟、漁撈、初期農耕への移行、BC4000年頃からの農耕、牧畜への進展、AD300400年頃の農産・畜産の集中的生産方式への移行、AD1400年頃の工業生産の登場へと移行しています。

➄社会集団の形成では、BC5万年頃からの血縁・地縁集団の浸透、BC1万年頃の血縁・地縁集団、村落住民の登場、BC4000年頃からの同族集団、地縁集団への拡大、AD300400年頃からの民族集団、広域集団、宗教国家の登場、AD1400年頃からの企業、組合や国民国家、資本主義・社会主義国家の登場などが概ね推定できます。

以上のような経緯は、人口波動の流れから推定したものです。

この仮説が通用するものかどうか、歴史的な事象によって、さらに確かめていきましょう。

2025年4月19日土曜日

観念言語とサイエンスが工業現波を創った!

農業後波を創ったリリジョンから工業現波を創ったサイエンスへ、時代識知の変換を促したのは「思考言語」から「観念言語」への移行でした。

観念言語(Ideological languageとは、人類が思考を行うために創り出した言語であり、筆者の別のブログ(生活学マーケティング)の【言語6階層説:観念言語とは・・・】では、次のように説明しています。

観念言語とは、「身分け」「識分け」「言分け」が捉えた事象を、「網分け」の“理知”によって精細に捉え直し、音声や記号などの創作言語で表現した言葉です。

この言葉は、専門的知識人や特定社会集団などの“理”縁共同体が、高度な思考するための記号として使われています。

観念言語によってサイエンス(Scienceが生み出され、蒸気機関や化石燃料などによるエネルギー革命の進展とともに、科学技術による生産拡大という工業文明(Industrial Civilizationが成立しました。

その構造的なプロセスを、改めて整理しておきましょう。

人類は「身分け」「識分け」が捉えた事象を、音声の「言分け」による「自然言語」によって意識内で考える「思考言語」を多用しているうち、「網分け」をさらに“深化“させた「観念言語」を創り出した。

➁観念言語の進展で、「リリジョン(宗教)」が捉えていた「至上神を中心とする神々が、あらゆる事象を統御している」という観念を越え、さまざまな記号の結びつきによって、あらゆる事象が把握できる、という識知が形成された。

15世紀以降、信仰による世界把握から「理知」による環境把握へ、リリジョンからサイエンスへの識知変化は、生活物資の生産形態を大きく変化させ、農産・畜産・漁業などを中心とする生産構造から、工業技術の主導する生産構造へと移行させた。

➃サイエンスの浸透で、それ以前のリリジョンを基盤とする社会集団(ツンフト:同職組合・ギルド、キリスト教国家、鎮護国家など)から、科学的思考を基盤とする社会集団へ移行が進むと、新たな経済組織(企業、組合など)や、近代的な国家組織(国民国家、資本主義国家、社会主義国家など)が形成された。

➄サイエンスの創り出した、新たな生産方式の拡大と、新たな社会制度の浸透によって、工業文明が形成され、より多くの人間が生きられる人口容量が形成された。

以上のようなプロセスによって、工業現波の人口容量、90億人が創り上げられたものと推察されます。

2025年4月4日金曜日

思考言語とリリジョンが農業後波を創った!

農業前波を創ったミソロジーから農業後波を創ったリリジョンへ、時代識知の変換を促したのは「自然言語」から「思考言語」への移行でした。

思考言語(Thinking languageとは、人類が通常、思考や会話を行っている言語であり、筆者の別のブログ(生活学マーケティング)の言語6階層説:思考言語とは・・・では、次のように説明しています。

思考言語は、共同体との交流を通じて個人の中に育まれた「自然言語」を、音声や記号によって自他の思考用に使用する言語です。

この言語によってリリジョン(Religionが生み出され、高度な集約的農耕・牧畜の生産形態が作られると、集約農業(Intensive Agriculture)という文明が成立しました。


その構造的なプロセスを、改めて整理しておきましょう。

➀人類は「身分け」「識分け」が捉えた事象を、音声の「言分け」で表現する「自然言語」で交信しているうち、言語を構成する単語と文法を使って意識内で問答する「思考言語」を形成した。

➁思考言語によって、ミソロジーが捉えていた「神々」、つまり「環境世界で動いている、さまざまなモノには、意志や感情を持つ人格がある」という観念がさらに発展し、「神々の中心には至上神が存在し、あらゆる事象を統御している」という「リリジョン(宗教)」が創造された。

➂リリジョンが浸透し、教義や儀礼など信仰を共有する集団が形成されてくると、それ以前の限定的集団(同族集団、地縁集団など)を超えて、より広く、より多様な広義的集団(民族集団、広域集団、国家集団など)が生まれることになった。これにより、生産組織、治世方式、国家体制など、新たな社会制度もまた形成されることとなった。

➃さまざまな神々の連立から神々を纏める統一神へ、ミソロジーからリリジョンへの変化は、食糧生産の形態をも大きく変化させた。狩猟、農耕、牧畜等の分散的生産を終了させ、麦や米、遊牧や家畜など、農産や畜産の中核的生産へ集中していった。

➄リリジョンの創り出した、新たな生産方式の拡大と、さまざまな社会制度の浸透によって、集約農業文明が形成され、より多くの人間が生きられる人口容量が形成された。

以上のようなプロセスによって、農業後波の人口容量、45000万人が創り上げられたものと推察されます。

2025年3月26日水曜日

自然言語とミソロジーが農業前波を創った!

石器後波を創ったアニミズムから農業前波を創ったミソロジーへ、時代識知の変換を担ったのは「象徴言語」から「自然言語」への移行でした。

自然言語(Natural languageとは、人類が通常、思考や会話を行っている言語であり、筆者の別のブログ(生活学マーケティング)の【言語6階層説:自然言語とは・・・】では、次のように説明しています。

自然言語とは、人類が「身分け」し、「識分け」した対象を、「言分け」、つまりコトバやシンボル(絵や形)によって捉え直す言語記号です。

この言語によってミソロジー(Mythologyが生み出され、初期的、粗放的な農耕・牧畜の生産形態が作られると、粗放農業(Extensive Agricultureという文明が成立しました。



その構造的なプロセスを、改めて整理しておきましょう。

➀人類は「身分け」「識分け」が捉えた事象を音声や図像などで表す「象徴言語」を使用しているうちに、次第に音声の「言分け」を多用する「自然言語」を形成した。

自然言語には、「内言語:個人内言語」「外言語:交信用言語」の両面があり、両者の相互的な発達が言語能力を向上させ、集団化を促していった。

➂自然言語によって、アニミズムが捉えていた「霊魂・霊力」、つまり「動いているもの全ては、意志や感情を持つ主体である」という現象を、「人格」という観念で受け止め、「神々」という言語で表現するようになった。これにより、神々=自然環境に対し、人類がより積極的に働きかける、さまざまな行為の可能性や、その影響が的確に述べられるようになった。

➃同時に、特定の神話=文章を一定地域の人々が共有すると、個々人の次元を超えた、人間集団が自覚され始め、共同して生活活動や生産活動へと向かうようになる。その結果、多様な人間集団という活動主体となって、人類はさまざまな自然環境へ関わり、環境そのものもまた作り直されていく可能性が生まれてきた。

➄こうした時代知が醸成されていくにつれ、人間集団が与えられた自然環境を積極的に活用して、循環的な農耕や定着的な牧畜などを継続することができるようになった。神々の持つ自然エネルギーを、農耕・牧畜へ最適に転換させることで、より多くの人間が生きられる人口容量を創り上げた。

以上のようなプロセスによって、農業前波の人口容量、26000万人が創り上げられたものと推察されます。

2025年3月18日火曜日

象徴言語とアニミズムが新石器文明を創った!

石器前波を創ったマナイズムから、石器後波を創ったアニミズムへと、時代知の変換を担ったのは「深層言語」から「象徴言語」への移行でした。

象徴言語(Symbolic languageとは、どのような言語だったのでしょうか。筆者の別のブログ(生活学マーケティング)の【言語6階層説:象徴言語とは・・・】では、次のように説明しています。

象徴言語とは、動物的、衝動的に捉えた事象を音声や図像などで表した言葉であり、具体例としては、音声言語(オノマトペ:擬声語、擬音語、擬態語、擬容語、擬情語など)、象形文字(ヒエログリフ、楔形文字など)、表象記号(古墳壁画や銅鐸絵画など)が考えられる。

このような象徴言語こそ、アニミズム(Animismを産み出し、高度な石器類の創出によって、新石器(Neolithicという文明を生み出した、深層的な基盤でした。



そのプロセスを改めて整理しておきましょう。

先史時代の人類は、周りの環境世界について、「身分け」で把握し、「識分け」で捉えた事象を、生成段階の「言分け」である「象徴言語」、つまり擬声語や擬態文字、イメージや偶像などで表し、互いに交信していた。

象徴言語の発達で、人類は周りの環境について、有機物・無機物を問わず、あらゆるモノの中に霊魂あるいは霊が宿っている、と考えるようになった。これこそ「アニミズム」という時代知であった【石器後波はアニミズムが作ったのか?】。

深層言語が環境世界を「動き回る」モノと捉え、その姿を「活力・生命力」と理解したのに対し、象徴言語は「動き回る」モノの中に意識や意志の存在を識知し、霊魂・霊力」と象徴化した。

このような環境把握によって、人類はアニミズムで捉えた宇宙エネルギーを、象徴言語をさらに活用して、自らの内部に取り込もうとした。

彼らは擬態語や偶像などを使って、「動いているもの全てには意志や感情を持つ主体があり、目には見えないものの、生死を超えて“循環”的に存続している」と理解し、そのエネルギーを高度な石器によって狩猟、漁労、初期農耕へと誘導し、“反復的”に利用する仕組みを創り出した。

これらの仕組みにより、太陽エネルギーを狩猟、採集、農耕などで集約的に利用するとともに、血縁・地縁集団や村落住民の生命の維持や拡大が可能になるという、いわゆる新石器文明を創り出した。

新石器文明による人口容量の拡大とともに、世界の人口は上昇し始め、石器後波が形成された。

以上のようなプロセスこそ、石器後波の人口が形成された、根源的な背景だったのではないでしょうか。

2025年3月5日水曜日

深層言語とマナイズムが旧石器文明を生み出した!

深層言語が生み出したマナイズムによって、人類は環境世界の動力を自らの手中に引き込もうと、さまざまな石器類を生み出し、旧石器(Paleolith)という文明を創り出した、と述べてきました。そのプロセスを改めて整理しておきましょう。



原始時代の人類は、周りの環境世界に対し、体感が「身分け」し、意識が「識分け」する前の次元を、無意識から意識への移行過程として捉え、ため息、喘ぎ、息づかいなどの口頭表現や、手振り、身振り、しぐさなどの動作表現といった原初的な言語、つまり「深層言語(Deep language」によって表象化し、互いに交信していました。

深層言語の発達で、人類は周りの環境について、「人間、事物、動植物、諸現象の作用や活動とは、活力、威力、生命力、呪力、超自然力である」(前回)と理解しました。これこそ、「マナイズム」という識知でした。

このような環境把握によって、人類はマナイズムで捉えた宇宙エネルギーを、深層言語をさらに活用して、自らの内部に取り込もうとしました。それは言語能力で最も基本的な「分節化」という行動でした(注1)。

まずは「身分け」によって捉えた対象を、「識分け」によって意識対象と無意識対象に「分節化」し、続いて意識対象を「言分け」によって有意語と無意語に「分節化」しました。

つまり、宇宙エネルギーを「動」と「不動」に「識分け」したうえで、「活力・生命力」と「沈滞・消沈性」に「言分け」しました。

その一方で、人類は野山に点在する岩石を「可動」と「不動」に「識分け」したうえで、「掌中」と「掌外」に「言分け」しました。

2つの「分節化」に続いて、人類は宇宙エネルギーの「活力・生命力」岩石の「断片」を「合節化」し、「石刃」を創り出しました。「合節化」とは、「分節化」の対義語で、「分けた対象を合わせる」ことを意味します(例:「雪」という言知と「雨」という言知を合節化し、「みぞれ」という言葉を作ります。)

この石刃を基礎にして、削器(スクレーパー)、石槍、石錐、握斧などの旧石器類が作られました。これこそ旧石器文明の誕生でした。

旧石器文明によって、自然環境のエネルギー自らの生存エネルギーに移行する手段が確立されるとともに、石器前波の人口容量が拡大しました。

以上のようなプロセスこそ、石器前波の人口容量が形成された、根源的な背景だったのではないでしょうか(注2)。 


注1.「識分け」と「言分け」の2つの段階が、構造言語学者F.ソシュールの主張する、いわゆる「二重分節」に相当します。但し、A.マルティネの提唱している「二重分節」説は、ソシュールの主張とはかなり異なっていますので、注意が必要です。

注2.以上のような推論に対し、実証性がないとのご批判をいただいておりますが、4~5万年前の事象について、科学知レベルの検証はほとんど不可能ではないか、と思います。それゆえ、論理的仮説として、以上のような推論を提案しています。これもまた時代識知の一段階としてのアプローチにすぎません。

2025年2月25日火曜日

深層言語➔マナイズム➔旧石器文明

深層言語こそ、マナイズムの創造源であった、と述べてきました。

これまで当ブログでは、石器前波の生成要因をマナイズムから説明してきました【ディナミズムが旧石器文明を生み出した!2022223日、ディナミズム=動体生命観が石器前波を創った!2019913日】。ディナミズムとは、マナイズムの別称です。

しかし、マナイズムという時代識知が生まれてくる、さらにその背景を考えてみると、より深い次元に、人類の環境世界把握の基本的変化があった、と思われます。

私たち人類は、【「ことしり」から「ことわり」へ!】で触れたように、環境世界のさまざまな事象を“身分け”(感覚)によってひとまず“認知”したうえで、“識分け”(意識)によって無意識から意識を“識知”し、さらに“言分け”(言語化)によって“言知”しています。

こうした認識の仕組みこそが、さまざまな時代識知の生まれてくる根源ではないでしょうか。

とすれば、マナイズムという時代識知の発生源にも、やはり識分けや言分けの変化があったはずです。つまり、マナイズムが生まれるには、身分けから識分け、言分けへの“認識”装置の変化があったのです。

どのような変化であったのでしょうか。・・・といえば、前回指摘したような深層言語の発生と発展でした。

無意識から意識への移行過程を担う深層言語(Deep languageとは、無意識のため息、喘ぎ、息づかいや、意識的な手振り、身振り、しぐさなどという、初期的、胎内的な“言葉”です。

こうした深層言語によって、環境世界の動態を直観的に把握した識知、これこそがマナイズムだったのではないでしょうか。

太陽や月、風や波、獣や魚などの動きを、人類はオノマトペ(擬音・擬態語)ジェスチャー(身振り・手振り)などで、活力や生命力として理解し、お互いに会話し合ったのです。

何度も会話が繰り返されるとともに、環境世界はマナ(mana:超自然力、呪力)で動いているという共通認識が、人類共同体の中に育まれていきました。

それゆえ、マナイズム(Manaismとは、深層言語という識知装置の進展によって、初めて創り出された時代識知だった、といえるでしょう。

このマナイズムによって、環境世界の動力を人類自らの手中に引き込むことが促され、さまざまな石器類を創造させて、旧石器(Paleolithという文明へと昇華させていきました。

2025年2月18日火曜日

マナイズムは深層言語が創った!

石器前波を創ったマナイズムから、石器後波を創ったアニミズムへと、時代識知の変換を担ったのは「深層言語」から「象徴言語」への移行でした。

マナイズム(manaismを生み出した深層言語とは、どのような言葉だったのでしょうか。筆者の別のブログ(生活学マーケティング)の【言語6階層説:深層言語とは・・・】では、次のように説明しています。


深層言語とは、「身分け」が把握したものの、「識分け」が漏らした、無意識(深層意識)の事象を、言葉になる前のイメージや偶像などで表した記号です。

いいかえれば、感覚が捉えた対象を、意識が把握する前の、体感的・心像的な動作やイメージであり、自然的な言葉が生まれる前に、胎内的な言葉が湧き上がる次元です。

具体例としては、音声言語(無意識のため息、喘ぎ、息づかい)動作言語(無意識の手振り、身振り、しぐさ)などが考えられます。

このような深層言語こそ、マナイズムを産み出した、認識的な基盤でした。

マナイズムは【アニマティズムという時代識知】で述べたように、イギリスの人類学者、R.R.マレットが提唱した観念形態です。

彼によれば、マナイズムとは、動植物のみならず無生物や自然現象など、すべてのものに生命があり、生きている、と察知する考え方です。

人間、事物、動植物、諸現象の作用や活動とは、活力、威力、生命力、呪力、超自然力である、と感じる心理や態度である」と考えて、「活力や生命力という観念が、歴史的にも心理的にも霊魂や精霊という観念に先行している」と述べています(Pre-animistic Religion1900)

メラネシアやポリネシアの先住民が抱いているマナ(manaという観念は、超自然力や呪力であり、神や人間はもとより自然現象全てに含まれて、物から物へと転移していきます。

例えば、戦士が敵を倒せるのは、槍に強力なマナが付加されているからです。南アフリカのコーサ人が、暴風が吹きよせる時、丘に登って風の進路を変えるように呼びかけるのは、暴風に霊魂を認めているのではなく、暴風そのものを生き物とみなして反応しているからだ、と説明しています。

要するに、未開時代の人間は、動物や事物そのものに非人格的な威力や活力を認めたうえで、それらに情動的に反応し、驚異や恐怖、さらには尊敬や畏敬の念を抱いていた、と考えているのです。

とすれば、無意識のため息、喘ぎ、息づかいや、無意識の手振り、身振り、しぐさなどという、まさに深層言語によって、環境世界の動態を直観的に把握した識知、これこそがマナイズムだったのではないでしょうか。

このような深層言語によって、太陽や月、風や波、獣や魚などの動きを、世界を動かす動力や活力の根源と捉える観念そのものが、速やかに創り出されたのです。

深層言語こそ、マナイズムの創造源だった、と言えるでしょう。

2025年2月8日土曜日

人口減少期は次期波動の準備期!

世界人口はまもなくピークを越え、減少期に入って行きます。

人類の歴史をふりかえると、人口波動が減少から始動に移る時期には、次の波動を準備する、さまざまな事象が起こっているようです。

ル・ルネサンスのモデルとなる時代を求めて】で既に述べましたが、世界の人口波動における、過去の4つの減少期には、次のような模索が行われています。


上図は以下のように説明できます。

石器前波(Stone early waveでは、BC20000~BC10000Last pre-stone ageで、粗放石器文明から集約石器文明への橋渡しが模索されている。

石器後波(Stone latter waveでは、BC4500BC3500年のLast stone ageで、石器文明から農耕文明への橋渡しが模索されている。

農業前波(Agri early waveでは、200700年のLast ancient ageで、粗放農耕文明から集約農耕文明への橋渡しが模索されている。

農業後波(Agri latter waveでは、13501400年のLast middle ageで、農耕文明から工業文明への橋渡しが模索されている。

これらの橋渡しはどのように行われたのでしょうか。

基本的には、周りの環境世界をどのように把握したのか、つまりどのような仕組みで言語化したのか、さらにそれによってどのような識知で理解したのか、という認識プロセスの変化が行われたのではないか、と思います。

いいかえれば、人口の減少期には、新たな言語使用法を生み出すことで、環境を理解する識知を変革し、それに見合った文明を創造していった、ということです。

こうした視点に立って、とりあえずは全体的な推移を眺めておきましょう。

この図が示すのは、次のような状況です。

Last pre-stone ageには、粗放石器文明から集約石器文明への橋渡しとして、深層言語から象徴言語へマナイズムからアニミズムへの転換が模索された。

Last stone ageには、石器文明から農耕文明への橋渡しとして、象徴言語から自然・交信言語へアニミズムからミソロジーへの転換が模索された。

Last ancient ageには、粗放農耕文明から集約農耕文明への橋渡しとして、自然・交信言語から思考言語へミソロジーからリリジョンへの転換が模索された。

Last middle ageには、農耕文明から工業文明への橋渡しとして、思考言語から観念言語へリリジョンからサイエンスへの転換が模索された。

以上のような変革の推移を、時代別に眺めていきましょう。

2025年1月15日水曜日

ル・ルネサンス展望・・・新たなルネサンスが始まる!

グローバル・レシプロシティー論を展開してきましたが、ゴールにはまだまだ未到達です。そこで、一休みして、しばらくは間もなく始まろうとしている「ル・ルネサンス」について考察していきたいと思います。

ル・ルネサンスとは、現代社会を構築した知性の誕生、つまり「ルネサンスの再来」を意味しています。

当ブログではすでに【ポストコロナは「ル・ルネサンス」へ!】【ル・ルネサンスのモデルとなる時代を求めて】などで、人口波動の減少期や始動期には、「モノ作りからコト作りへ」、あるいは「物質的拡大から情報的深化へ」といった動向が強まり、それによって新たな時代識知が育まれると、次の人口波動が始動し始める、と主張してきました。

こうした視点を今や進行している世界波動の工業現波に当てはめると、次の3点が浮かび上がってきます。

➀工業現波の伸び率が急速に衰え、20数年後、2050年代には減少に移行していくのは、この波動の人口容量を担ってきた科学技術文明がすでに限界に達したことを示している。環境問題の深刻化食糧需給の不安化などは、それを如実に物語っている。

➁一方、昨今の社会で急速に進んでいるITや生成AIなど技術革新は、この波動を担ってきた科学技術文明が物資拡大の限界に達したため、その方向を情報化へと転換し始めていることを示している。

➂こうした動向は、一つ前の人口波動、農業後波の末期に起こったルネサンスの再来、いわば「ル・ルネサンス」ともよぶべき時代を創り出す可能性がある。

人類史を振り返ると、人口波動が減少から増加へと転換する時代には、次のようなプロセスが考えられます。

❶人口減少、つまり人口容量の限界化とともに、新たな情報革命が進行する。

❷情報革命によって、次の波動を創り出す世界観、つまり時代識知の大転換が進む。

❸時代識知が変わると、新たな物質的技術もまた生み出される。

❹それに基づいて、次世代の人口容量が創り上げられる。

❺人口容量の拡大に対応して、次の人口波動が増加し始める。

以上のようなプロセスを一つ前の人口波動、つまり農業後波に当てはめてみると、「ルネサンス」が浮上してきます。

人口がピークに達して減少し始めた1300年代から、再び人口が増え始める1400年代にかけて、ヨーロッパ諸国では、活版印刷術の進展とともに、文化や知性の復興運動が始まっています。

この文芸復興、つまりルネサンスによって、「サイエンス」という時代識知が新たに育まれ、その応用によって、人口容量の拡大見通しが浸透してくるとともに、新たな人口波動、つまり工業現波が上昇を開始したのです。

文明の方向がモノ的拡大からコト的転換へ進むと、それによって新たな物的拡大の可能性が浮上してくる、ということです。

以上のようなルネサンスの仕組みは、14~15世紀に限ったことではありません。

人類の歴史をふりかえると、人口波動が減少から始動に移るプロセスには、何度も起こっているようです。

石器前波から石器後波へ、石器後波から農業前波へ・・・など、人口波動の初期段階からこのようなプロセスを振り返ってみましょう。