人口波動の成立条件と筆者が推定する「言語」の進化過程を明らかにするため、西欧諸国の哲学、言語学、解剖学などで研究されてきた「言語起源論」を振り返り、代表的な理論として「動物起源論➔連続性理論」と「言語神授説➔不連続性理論」の2つを紹介してきました。
両理論では永い間、対立が続いてきたようですが、最近では生物の言語能力という概念を「広義の言語能力」と「狭義の言語能力」に仕分けしたうえで、前者は人間と他の動物が共有し、後者は人間のみが有していると、統合化する視点も提案され、13~10万年前からの言語起源が通論化されつつあります。
しかし、当ブログの検討課題である「言語進化論」については、ほとんど参考にならないのでは・・・。言語の進化過程とは、深層言語➔象徴言語➔自然言語➔思考言語➔観念言語という、5つのプロセスを辿っている、という仮説を検証するには至らなかったからです。
何が原因なのか、おおまかにいえば、言語の変化についてはほとんど検討が行われていないからです。主な疑問点を3つ提示しておきます。
➀「身分け」「識分け」から「言分け」次元への言語形態の変化 当ブログの視点からいえば、言葉とは、感覚が「身分け」し意識が「識分け」した対象を、動作、音声、イメージなどで「言分け」した事象といえるでしょう。 このようなプロセスがどのように変化してきたのか。その変化が世界観や文明観をどのように変えてきたのか。・・・それこそが言語進化論の本質だと思うのですが、従来の研究ではほとんど触れられていないようです。 言語起源論では、音声やイメージで表現された言葉が何万年前に出現したか、についての議論が中心で、表現形態の変化や進化について書かれたものはごく少数でした。 言語の起源時期を推定する研究は確かに貴重ですが、その発生状況を的確に把握するには、表現形態の変化にもいっそう配慮することが必要ではないでしょうか。 ➁未言語次元への対応・・・言語阿頼耶識 言語進化論では、「身分け」や「識分け」状態の未言語と言語の関係を明らかにすることが重要な課題だと思いますが、「言語起源論」を究明してきた、西欧の哲学や言語学では、ほとんど究明されていないようです。 一方、東洋の唯識哲学では、8層3階の意識構造モデルを立てています。表層意識(前五識および第六意識)、自我意識(第七末那識)、深層意識(阿頼耶識)ですが、言語で言えば、深層意識次元が浮動的な意味の貯蔵所としての「言語阿頼耶識」です。 言語進化論を展開するには、以上のような「内部言語」あるいは「深層言語」次元の究明が絶対に必要だ、と思います。 ➂セマンティクスとシンタックスの進展過程 言語にはセマンティクス(語義)とシンタックス(文法)の両面があり、言語進化論を考察する場合にも、両方の発達過程を推定することが求められます。 解剖学上では、19世紀に外科医たちが発見した大脳皮質の2機能、つまり「ブローカ野」が主にシンタックスを、「ウェルニッケ野」が主にセマンティクスを、それぞれ担っている、と言われています。化石分析によると、ブローカ野は約400~200万年前に生存していた初期人類、アウストラロピテクスには存在せず、約20万年前に出現した現生人類の祖、ホモ・サピエンスには存在したと推定されていますので、言語発達の指標とも考えられています。 しかし、これら2つの言語機能がいかなる過程を辿って進化してきたのか、この課題については、ほとんど不明のままです。言語進化論を考察するには、現生人類の進化過程で、セマンティクスとシンタックスがどのように進化してきたかを、改めて問いかけることも必要ではないでしょうか。 |
以上のように、言語の起源が13~10万年前からとしても、その機能の進展過程については未だに究明されていないようです。解剖学、脳科学、生物学はもとより、哲学、言語学、考古学、心理学、人類学など、現代の理論的究明の限界なのでしょうか。
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