互酬制や相互扶助に関する見解を、F.エンゲルス、P.A.クロポトキン、K.ポランニーなど、19~20世紀の著名思想家の立場から、ざっと眺めてきました。
さらに、アメリカの文化人類学者、M.サーリンズの互酬関係の3分類(一般的互酬性・均衡互酬性・否定的互酬性・・・『石器時代の経済学』)なども参考にしつつ、互酬制の定義と形態を歴史的な視点から、改めて考えてみました。
まずは当ブログで思考している「Global Reciprocity:地球的互助制」で、最も基本となるのは「互酬制」の定義です。
ここで検討する「互酬制」とは、「地球上に生まれてきた人間一人が、生涯を生き抜くための、基本的な生活資源を、他人との間で補い合う仕組み」と規定します。
そのうえで、これまでの人類史に現れた「互酬制」の先例を、集団的な次元で整理してみると、下表のようになります。
最も基本的な互酬団体として、世界各地でさまざまな制度が行われてきました。 日本では農山漁村でイッケ、カブウチ、マキ、クルワなどの同族集団、商人社会ではノーレンといった血縁集団において、互酬性が行われてきました。中国大陸でも宋代以後、「義荘」という名称で続けられてきたようです(平凡社・世界大百科事典旧版)。 この次元では、家族・親族・同族など血縁関係が扶助担当となっています。 |
●地域共同体
多くの学者によって、さまざまな実例が紹介されています。 クラ交易(パプアニューギニア、トロブリアンド諸島・・・B.マリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』1922) ポトラッチ(北米・北西沿岸インディアン諸族・・・M.モースの『贈与論』1925)、 クラールランド制度(アフガニスタン・ヒンドゥークシュ山脈民族カフィール族・・・L.P.メア,An African Ponte in the Twentieth Century:1904)、 このほか、日本ではユイ・頼母子・無尽講などが、朝鮮半島では「契」が、台湾本島原住民アミ族でも「頼母子」などが行われてきました(小学館・日本大百科全書)。 この次元では、村落居住者や地域居住者など、特定地域の住民同士が扶助担当となっています。 |
●社会共同体
中世ヨーロッパ都市におけるギルド(職業別組合)や、近代以降の世界各地で生まれた友愛組合・共済組合・労働組合・協同組合などが挙げられます(平凡社・改訂新版 世界大百科事典)。 この次元では、同業者や組合員などが扶助担当となっています。 |
●国家
国家がそれ自体として互酬制に関わるのは、年金制度やベーシックインカムです。 1889年にドイツ帝国が始めた、民間人の強制加入による年金制度は、20世紀には各国に広がり、国家主導の互酬制として定着しています(世界史の窓)。 また近年では、租税を財源とするベーシックインカム制が、ヨーロッパ諸国で試行され始めています。 この次元では、一人一人の個人を越えて、その集団を意味する国家という団体が扶助担当となっています。 国民集団や政府そのものが、扶助を保証しているといってもいいでしょう。 |
以上のような推移を歴史的に振り返ると、今後の展望として、地域や国家を超えた互助制度の方向が浮かんでくるようです。
いかなるものなのか、さらに考察していきましょう。
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