2020年3月12日木曜日

仏教は多神教か?

後期仏教の大きな変化について、次の2つを述べてきました。

小乗仏教から大乗仏教へ・・・利己から利他への変化

個人的心理体系から集団的観念体系へ・・・信心論から言語哲学へ

続いて今回は、3番目の変化について考察していきます。


一神教から多神教へ・・・釈尊独仏から多仏連立へ 

原始仏教の時代、仏(覚者)菩薩(修行者)という言葉はシッダールタに対する尊称として使われていましたが、時代が下るにつれて、過去七仏や未来仏といった、様々な仏にも適用されるようになりました。

とりわけ大乗仏教の時代になると、仏や菩薩はいっそう方仏へ拡大していきます。

紀元前後ごろに起こった大乗仏教では、般若経、華厳経、維摩経、法華経、大無量寿経などの大乗経典が成立するとともに、これらの経典を根拠とする諸仏を数多く出現させています。

例えば、般若経では三世諸佛(過去・現在・未来にわたる一切の仏)、華厳経では毘盧遮那仏=大日如来、維摩経では弥勒菩薩文殊菩薩、法華経では普賢菩薩、大無量寿経では阿弥陀如来、観無量寿経では勢至菩薩、薬師経では薬師如来、地蔵菩薩本願経では地蔵菩薩などです。

さらに7~13世紀に入ると、ベンガル地方で興った密教において、真言乗 (Mantra-yāna)金剛乗(Vajrayāna)などの教義が広まっていきます。

密教においては、根本の仏陀を大日如来(大毘盧遮那仏:Mahā-vairocana)と定め,その所説こそ教理である、と主張しました。

その結果、従来の仏教が崇めた諸仏諸尊に加えて、多数の明王,民間信仰の諸神,諸聖者などもまた日如来の化身と解釈して、幅広く包含していきます。

こうした教理を7世紀後半に『大日経(大毘盧遮那成仏神変加持経)『金剛頂経(金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経)として集約し、視覚的な伝播のために、前者を「胎蔵界曼荼羅」、後者を「金剛界曼荼羅」と題する、2つの図版によって表現しました。




これらの曼荼羅によって、仏教の教義はまさしく「一神教から多神教へ」、いいかえれば「釈尊独仏から多仏連立へ」と変化していきます。

以上のように、原始仏教から後期仏教へと変化する過程で、仏教という宗教はより多くの信者を獲得することに成功し、新たな時代識知として定着していったものと思われます。

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