農業後波を作動させた時代識知として宗教(Religion)を取り上げ、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教に続いて、今回はイスラム教を考えてみます。
イスラム教は、610年、アラビア半島の西部、ヒジャーズ地方メッカの住人、ムハンマドが唯一神アッラーの啓示を受けて創始した宗教です。
啓示を集録した経典を「コーラン」と名づけ、信仰(イーマーン)と義務(イバーダート)に分けて説明しています。
コーランに現れた、イスラム教の識知観を「識知としての宗教」で述べた、宗教の3条件で抽出してみましょう。
①開祖等による記号的観念体系の提唱 独創的な開祖ムハンマドが提起した、唯一絶対にして全知全能、天地万物の創造者・支配者である神(アッラー)の啓示を、聖典コーランという、具象的な“記号”言語次元の観念体系で表現したうえで、「イスラム(神の意志や命令に絶対に服従すること)」として提唱しています。 ②観念信仰の集団幻想化 イスラムの信仰を共有し実践する「ムスリム(イスラム教徒)」による、独自の「共同体(ウンマ)」を創造したうえで、周辺のアラブ諸部族へと拡大し、やがてアラビア半島のほぼ全域に広めています。 ③組織・制度の社会的装置化 イスラム信仰は、何をなすべきか、どのように行動すれば神意にかなうのか、という具体的な行為規範であったため、神学よりも法学が高度に発達しています。それゆえ、イスラム信仰を維持・継承する共同体的形態となって、次第に治世方式や社会体制など、国家的な共同形態をめざすようになります。 |
もっとも、アラビア半島は乾燥気候のため、荒涼たる砂漠や痩せた草地が多く、農耕には不適でした。
しかし、南部イエメンの高地では雨が多く、また砂漠のオアシスなどでも、それぞれ高度な農業が営まれていました。
現在でも半島の大半は砂漠であり,駱駝や羊などを伴った遊牧民の数が多いとはいえ、人口比率ではオアシス農民のほうが多いようです。
このように見てくると、イスラム教もまた仏教やキリスト教と連帯して、宗教という時代識知を形成し、農業・牧畜業の集団生産化によって、新たな人口容量を創り上げていった、といえるでしょう。
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