農業後波を作動させた時代識知として宗教(Religion)を取り上げ、仏教、キリスト教に続いて、今回はヒンドゥー教を考えてみます。
ヒンドゥー教は、紀元前2~後3世紀ころ、500年ほど前から続いてきたバラモン教が土着の民間信仰・習俗などの諸要素を吸収して成立した宗教といわれています。
聖典としては、最古のベーダ(天啓聖典)に続いて、国民的二大叙事詩『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』、さらに『プラーナ』、『マヌ法典』など多数の法典があります。
この宗教の特性を先学諸賢の膨大な論述に基づき、時代識知という視点から整理してみると、宇宙観、神々、教義の3点が浮上してきます。
宇宙とは創造神ブラフマン(梵天)が遊戯のために創ったもので、その上に現れる現象世界もまたブラフマンの幻力(マーヤー)によって現出されたもの、と考えています。
この宇宙は、ブラフマンにとっての1日、すなわち1カルパ(地上の43億2000万年)間持続して消滅しますが、その後も1カルパごとに創造と消滅を繰り返していきます。
それゆえ、宇宙とは創造→存続→破壊の過程が永遠に繰り返される輪廻(りんね)であり、それにつれて現象世界も実在するのではなく、あくまでも幻影として続いていきます。
②神々
ヒンドゥー教では、強大な勢力をもつ神々はもとより、山川草木に至る、さまざまな事物が崇拝の対象になっており、時代とともに変化しています。
その本質は多神教ですが、中核となる神は存在しており、宇宙を創造するブラフマン神、これを維持・存続するビシュヌ神、これを破壊するシバ神の3神です。また彼らを一体とみなす「三神一体」説も説かれています。
このほか、パールバティー、サラスバティー(弁才天)などの女神、ヤクシャ、ガンダルバなどの半神半人、ウシ・サル・ヘビなどの動物神、アシュバッタ樹やトゥラシーなどの草木神、カイラーサ山やガンジス川などの地形神なども崇拝の対象となっています。
③教義
中核となる教義は、創造→存続→破壊の輪廻からの「解脱」を究極の理想とするものです。
❶輪廻・・・人間は死んでも、それぞれの業(ごう)のために、来世において再び新しい命を得て、生死を無限に繰り返す「輪廻」を宿命としています。業とは、サンスクリット語のカルマンkarman(行為)の訳語で、あらゆる行為が蓄積されるものを意味し、行為者がその果報を経験し尽くさない限り消失しないものと考えられています。 ❷法(ダルマ)・・・サンスクリット語のダルマには、習慣、義務、教説など多くの意味がありますが、基本は行為の規範です。ヒンドゥー教にはダルマをまとめた法典群があり、その中には、ものごとの成否や利害にとらわれず、利己心を離れて実践することなどが勧められています。 ダルマの実践は、物質的・経済的利益を追求する実利(アルタ)、愛情・性愛を追求する愛欲(カーマ)、および解脱(げだつ)とともに、教徒の人生の四大目的とされています。 ❸解脱・・・ダルマ・実利・愛欲は実現されたとしても、最高の成果は天界での再生までであり、それもまた輪廻のなかに留まっています。そこで、さらに進んで人生の最高の目的は業・輪廻からの解脱であるとし、それを実現する方法として、行為の道、知識の道、信愛(バクティ)の道という3つの道が説かれています。 |
以上のように見てくると、ヒンドゥー教の時代識知は、宗教というよりも、一つ前の神話( Mythology)の次元を濃厚に引きずっているように思えます。
そのせいか、インド亜大陸の農業後波は、他の地域からかなり遅れ、12世紀ころからようやく上昇を始めています。
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