工業後波の社会構造を展望しようとしています。
さまざまな目標が見込まれると思いますが、一つの展望としては、すでに6年前、ウィーン出身の経済人類学者、K.ポランニーの所説(『大転換』『人間の経済』『経済の文明史』など)を引用しつつ、さまざまな検討をしてきました。
その折の主な論点を、改めて振り返っておきましょう。
【生産・交換制度の未来を読む!】(2015年9月14日)では、市場経済社会のゆくえ、つまり新たな生産・分配制度について、次のような展望しています。
K.ポランニーによると、人類が歴史的に創り出してきた生産・分配制度には、家政、互酬、再配分、交換の四つがあります。
●家政(house holding)・・・「自らの使用のための生産」であり、「閉鎖集団」内の構成員の「欲求を満足させるための生産と貯蔵という原理」に基づいている。 ●互酬(reciprocity)・・・「義務としての贈与関係や相互扶助の関係」であり、「主に社会の血縁的組織、すなわち家族および血縁関係に関わって機能する」制度として、「対称的な集団間の相対する点の間の(財の)移動」をいう。 ●再配分(redistribution)・・・「権力の中心に対する義務的な支払いと中心からの払い戻し」であり、「主に共通の首長の下にある人々すべてに関して効力をもち、従って、地縁的な性格」の制度となる。 ●交換(exchange)・・・「市場における財の移動」であり、「システムにおけるすべての分散した任意の2つの点の間の運動」となる制度である。 |
これら4つの制度の歴史的推移について、ポランニーは常に同じ比重で存在してきたのではなく、時代とともに変化してきたのだ、と述べています。
つまり、「西ヨーロッパで封建制が終焉を迎えるまでに、既知の経済システムは、すべて互酬、再配分、家政、ないしは、この3つの原理の何らかの組み合わせに基づいて組織されていた」が、16世紀以降、重商主義システムの下に、初めて「市場」という、新たな交換システムが参入しました。この交換システムは、19世紀に入ると、貨幣を交換手段とする市場経済へと発展しました。
市場経済は、従来の〝付属物〟的な「市場」とは根本的に異なる「市場交換システム」として拡大しましたので、経済制度の中心は互酬、再分配、家政から交換へと移行しました。
しかし、それでもなお互酬、再分配、家政の役割は消滅したわけではなく、とりわけ再分配の比重は高まる傾向にある、とも述べています(『大転換』)。
以上のような生産・分配制度の推移を、5つの人口波動のうえでおおまかにイメージ化してみると、下図のように想定されます(家政・互酬・再配分・交換の比重は変わる!)。
この図では4つの制度の構成を次のように推定しています。
①石器前波・・・家政(家族集団が自ら使用するのための生産)の比重がおそらく70~80%に達し、続いて互酬(家族や血縁者間での贈与や相互扶助)や物々交換(異なる家族集団間での交換)が10~20%、残りが再配分(村落共同体による集約と分配)であったと推定される。 ②石器後波・・・物々交換(異なる家族集団間での交換)の比重はあまり変わらないが、家政はやや低下し、代わって互酬や再配分(古代王権国家による集約と分配)の比重がやや高まったと推定される。 ③農業前波・・・家政の比重はおそらく半分以下に落ち、互酬はさほど変わらないものの、再配分と交換の比重が上昇する。再配分ではいわゆる封建国家による収奪と分配が進行し、また交換では「市場(いちば)」や「もの売り」など初期的な商業交換が広がっていたと思われる。 ④農業後波・・・家政の比重は多分20%程度に落ち、互酬はある程度維持されたが、再配分と交換の比重が急上昇して、両方で60~70%に達するようになった。再配分では初期的な国民国家による税収と保障が開始され、また交換では広域的な商業市場の成立に伴って商業交換が拡大したものと推定される。 ⑤工業現波・・・家政と互酬を合わせた比重は20%以下に落ち、再配分と交換を合わせた比重が80%を超えるようになった。再配分では、いわゆる福祉国家による税収・年金負担と生活保護・年金給付などで拡大し、また交換では、地域や国家を超えた市場の拡大で、いわゆる市場経済が広がって、生活者の暮らしの半分以上を占めるようになった。 |
以上のようなポランニーの所説に基づくトレンドを前提にすると、次の人口波動、つまり工業後波を支える社会・経済構造もまた大まかに浮かんできます。その方向を改めて考えていきましょう。