2018年2月7日水曜日

田沼政権の10大政策・・・その3

前々回、前回に引き続き、田沼政権の行った10大政策の9~10を紹介します。

第9政策=農村・農民を救済する

江戸期の集約農耕社会を支えていた米穀生産の限界化と、それに代わるように台頭した商品作物の急速な拡大。この極めて跛行的な農村環境の中で、田沼政権が行った農民・農村政策は次の3つにまとめられます。

村方騒動の抑圧・・・宝暦・明和期(1751~1771)になっても、農村では享保期以来の百姓一揆が依然として続いていましたが、その目標は多様化し、従来からの年貢減免に加えて、折から拡大してきた商品物資の生産や流通に関する統制・独占への反対騒動や、村役人の地位をめぐって旧村役人・村方地主・一般農民の三者が対立するという村方騒動も急増しました。

これに対して、田沼政権策は積極的な救済というより、消極的な抑圧で対応しました。宝暦12年(1762)5月、百姓が江戸に集合したり門訴を行なうことを厳禁する布告を出しています。商品経済を推進しようとする意次にとって、農村・農民対策は後回しであったと思われます。

人口減少改善対策・・・荒廃する農村では、人口もまた減少しましたから、幕府は明和2年(1765)10月には「間引き禁止令」を出し、安永6年(1777)には百姓の江戸出稼ぎを禁じたうえ、新田開発を促しています。

③ 農村救済対策・・・安永・天明期(1772~1788)になると、世界的な異常気象で旱魃、洪水、噴火、冷夏などが続きました。とりわけ、天明3年(1783)3月の岩木山噴火、7月の浅間山噴火で東日本各地に火山灰が積もり、日射量の低下で冷害も拡大して、天明4年(1784)には各地で飢饉が広がりました(天明の大飢饉)。

すでに米よりも商品作物を栽培する農家が増加し、米は他地域から購入する農村も増えていましたから、凶作となると、その被害が増幅されました。



そこで、幕府は農村救済対策として、天領の年貢率を下げ、宝暦・明和期の39~37%から、安永期には34%台、天明期には33%台へ落としました。また天明4年(1784)7月には、関東郡代伊奈半左衛門に命じて、武蔵・下総一帯に御救米を配らせ、さらに天明6年(1786)には、被害の多かった東日本の18藩に対し、飢饉対策として数万両の拝借金を貸与しました。

第10政策=都市・町人を救済する

商品経済の発展に伴って、江戸や大坂などの大都市では、新たな豪商が増加し、豊穣な消費文化も生れていましたが、他方では社会変化に追いつけない困窮町民もまた増加し、米価高騰の折にはしばしば打毀しを起こしていました。こうした事態に対して、田沼政権の2つの政策で対応しています。

株仲間・札差への増税対策・・・このころから、旗本・御家人向けの蔵米を担保にした高利の貸付で財をなし、豪奢な暮らしぶりを誇る札差が台頭しました。


享保9年(1724)に株仲間が認許され、安永7年(1778)に江戸市中で109軒に限定されたころから急速に増加しました。札差の貸付利子率は年18%程度で、市中の質屋等より安かったのですが、さまざまな不正利殖によって利潤を増やしたからです

安永・天明期(1772~89)になると、札差たちは江戸豪商の典型となって、18人の大通人、つまり「十八大通」と称される、蔵前風の豪勢な消費風俗まで生み出します。

その札差仲間に対しても、幕府は安永8年(1779)6月、1万両を貸付けていますが、同時に、認可した株仲間などから運上金や冥加金を税として徴収し、幕府財政の改善に成功しています。

困窮町人・無宿人救済対策・・・天明期に飢饉が続発すると、米価も一転して上昇し、江戸や大坂などの大都市では困窮する町人や無宿人が増加しました。これに対して、田沼政権は、治安の維持とともに窮民の救済を実施しています。

天明4年(1784)4月には米の売り惜しみを禁じる一方で、「徒党・打ち壊し禁止令」を出し、天明6年(1786)には、江戸の困窮者に対して、救米6万俵と救金5万両を出しています。



また安永7年(1778)4月から、江戸府内の無宿者を捕らえて、佐渡鉱山へ送っていましたが、天明4年(1784)になると、米価高騰で流民が急増したため、深川に6万坪の無宿小屋に作って収容しました。


以上で見てきたように、田沼政権の諸政策は大胆な発想転換の下に展開されていますが、それゆえに必ずしも成功している訳ではなく、失敗もまた重なっています。

にもかかわらず、明和~天明期(1764~88)の20数年間は、延享~宝暦期の不機嫌な時代と比べると、庶民が中心となって、文化や芸術が充実する社会となりました。

その意味では、人口減少に柔軟に対応して、縮みながらも濃くなる、いわゆる「濃密社会」の典型といえるでしょう。

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