これまで見てきたように、ヨーロッパ主要国の人口動向は、合計特殊出生率の高低によって、2つのグループに明確に分かれています。
その背景を推定してみますと、次のような事情が浮かんできます。
①2つのグループが生まれるのは、人口容量のピークを経験しているか否かの違いです。容量のピークを超えたドイツ、スペイン、イタリアは低出生率国となり、ピークをまだ超えていないスウェーデン、フランス、イギリスは高出生率国となっています。
②いいかえれば、低グループでは出生率が低いがゆえに、人口ピークの到来、つまり、人口容量の上限が早く現れ、逆に高グループでは、未だ人口容量の上限が見えていないから出生率が高い、ともいえるでしょう。
③人口容量の高低が生まれるのは、【国土×加工貿易文明】で生み出される上限が、低出生率国ではグローバル化の限界化で早く現れ、高出生率国では未だ現れていないためです。
④迫り来る人口容量の上限に対して、低出生率国がいち早く対応したのは、過去の歴史上、人口波動(修正ロジスティック曲線)の中間あたりの変曲点に対して、ナショナリズムや覇権主義で対応したことへのトラウマの故、と推定されます。この対応が引き起こした悲惨な結末が、各国民の潜在的な無意識となって、人口抑制装置を速やかに作動させたものと思われます。
⑤高出生率国においても、まもなく人口容量の上限に達することが予想されますが、対応未経験の国では、やはりナショナリズムや覇権主義などに陥る危険性が高い、と予想されます。昨今のアメリカやヨーロッパ諸国における「右傾化」の動向は、もしかしたら、その前兆とも考えられます。
⑥このように考えると、高出生率国であるスウェーデンやフランスなどの出産支援策を、ドイツやイタリアなどの低出生率国へ、単純に導入したとしても、さほどの効果は期待できないでしょう。まして自然環境も国際環境も異なる、アジア地域の日本へ導入するのはほとんど無意味といえるでしょう。
下図を見れば一目でわかりますが、日本という国は、国土面積の比較からみても、人口増減の推移からみても、まったく特異なトレンドを辿っている国家です。
肯定的に言えば、近代工業文明を受容し、急速に工業化と人口増加を達成したものの、その限界を真っ先に味わって、人口減少・飽和濃密型の社会へ向かおうとしている先例、ともいえるでしょう。
以上に述べたことは、いうまでもなく、一つの仮説にすぎません。今後、より詳細に検証していくことが必要だと思います。
しかし、「あらゆる理論は仮説にすぎません。絶対の真理など存在しないのです。もし一つの仮説で行き詰まったとしたら、別の仮説を求めればいい。仮説と仮説の論争の中から、より望ましい方向を求めていけばいい。仮説は仮説を産み、その連鎖がパラダイムを変えていくことになるでしょう」(拙著『日本人はどこまで減るか』P.248)。
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