2025年5月23日金曜日

言語はどのように進化してきたのか?

言語の発生時点や進化過程などについては、解剖学、脳科学、生物学はもとより、哲学、言語学、考古学、心理学、人類学など、さまざまな分野から推定結果や研究論文が発表されています。

しかし、当ブログの視点に直接的に応用できるものはほとんどありません。

そこで今回はまず、当ブログで考えている言語の進展過程を、一つの仮説としておおまかに説明しておきましょう。

およそ10~6万年前に出現したと推定される「言語」は、人類特有の識知・交信手段として、深層言語➔象徴言語➔自然言語➔思考言語➔観念言語という、5つのプロセスで進化してきた、と思われます。5つの言語とは、【言語6階層説:深層言語とは・・・】から【言語6階層説:思考言語とは・・・】で述べた定義の中から選び直せば、次のようなものです。

深層言語は、「身分け」が把握したものの、「識分け」に至る前の無意識(深層意識)の事象を、言葉になる前のイメージや偶像などで表した記号です。感覚が捉えた対象を、意識が把握する前の、体感的・心像的な動作やイメージであり、自然的な言葉が生まれる前に、胎内的な言葉が湧き上がる次元、とも言えるでしょう。

具体例としては、音声言語(無意識のため息、喘ぎ、息づかい)、動作言語(無意識の手振り、身振り、しぐさ)などが考えられます。

象徴言語は、「身分け」が把握し、「識分け」が動物的、衝動的に捉えた事象を、擬声語や擬態文字、イメージや偶像などで表した言葉です。意識が把握したものの、自然言語が形成される前の未言語は、いわば始原的な言葉となって、「識分け」と「言分け」の間を浮遊しているのです。

具体例としては、音声言語(オノマトペ:onomatopée)、文字言語(象形文字:ヒエログリフ、楔形文字など)、表象記号(古墳壁画、銅鐸絵画など)です。

自然言語は、「言分け」によって生まれる言語、つまり人類が「身分け」し、「識分け」した対象を、音声やシンボル(絵や形)に明確に置き換えた言葉です。「識分け」が捉えた事象をとりあえず始原語で記号化する「象徴言語」に対し、より精密な「言分け」によって明確に言語化するのが「自然言語」だ、ともいえるでしょう。

この言語は、人間集団という共同体内の交流を通じて個人の中に育まれ、音声や記号によって他者との会話にも使用されるようになります。

思考言語は、共同体との交流を通じて個人の中に育まれた「自然言語」を、特定の音声や記号に変えて、自らの思考用に使用する言語です。この言葉によって、人類は「言分け」による「コト界(言知界)」から、「網分け」による「アミ界(理知界)」への移行を促され、集団的な思考を行うようになります。

網分け」とは、【言語6階層論へ進展する!】で述べたように、「言分け」による「分節」によって生み出された自然言語や自然記号に対し、さらに特定の意図による「網」をかけ、抽象化された言葉や記号を創り出すことです。

観念言語は、「身分け」「識分け」「言分け」が捉えた事象を、「網分け」の「理知」によってより精細に捉え直し、音声や記号などの創作言語で表現した言葉です。

この言葉は、専門的知識人や特定社会集団などの“理”縁共同体が、高度な思考するための記号として使われています。

以上のような進化過程を、「」を事例に考えてみると、次のようになります。


このような仮説がどこまで検証できるのか、さらに考えていきましょう。

2025年5月12日月曜日

言葉はいつから生まれてきたのか?

5大波動の成立構造で述べた、5つの仮説を検証しています。

最初は基層言語の変化。このブログでは、5万年前ころの深層言語の浸透、1万年前あたりの象徴言語の登場、5千年前ころから自然言語の普及、ほぼ3千年前からの思考言語の拡大、600700年前あたりからの観念言語の普及…とおおまかに推定しています。

この仮説は検証できるものなのでしょうか。

言語の進化過程については、解剖学、脳科学、生物学はもとより、哲学、言語学、考古学、心理学、人類学など、さまざまな分野の研究者がそれぞれの立場から発言しますが、いずれも確かなエビデンスはなく、一応の推定結果として公表されています。

それゆえ、当ブログの言語進化論もまた、さまざまな所見を参考にしつつ、あくまでも推定行動として検証していきましょう。

最初の検討事項は、言語そのものの発生・発達過程です。

イスラエルの歴史学者、Y.N.ハラリYuval Noah Harari1976~ )は、その著『サピエンス全史』の中で、「約7万年前から約3万年前にかけて、人類は舟やランプ、弓矢、針を発明した。(…)ほとんどの研究者は、これらの前例のない偉業は、サピエンスの認知的能力に起こった革命の産物だと考えている」とし、7万年前から3万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法の登場のことを、『認知革命』という」(上巻:P3435)と名づけたうえで、この革命の意味について「私たちの言語が持つ真に比類ない特徴は(…)まったく存在しないものについての情報を伝達する能力だ」と述べています(P39)。

またアメリカの言語学者、J.ニコルスJohanna Nichols1945~)は、世界の近代言語の共通の祖先が少なくとも10万年前に発生したという証拠を提示し、前近代型の音声コミュニケーションの古代のルーツを示唆しています(FindArticles1994611日)。

これらの主張に従えば、「言語」という認識手段は、10~3万年前の間に人類が生み出したもの、と考えられます。だが、その進化過程については明らかではありません。参考になるのは、次のような発想でしょう。

アメリカの言語学者、D.J. エヴェレットDaniel Leonard Everett1951~ )は言語起源の記号進展理論sign progression theory)として、10~5万年前に起きた突然変異を否定したうえで、「言語はインデックス:指標記号(足跡が動物を指すように、物理的につながりのあるものを表す事項)、アイコン:像記号(実在の人物の肖像画のように、表そうとする事物と物理的に似ている事物)、それから最後にシンボル:徴記号(ほとんど恣意的な、慣習的な意味の表し方)の創造へと、徐々に現れてきた」とし、「シンボルはいずれ他のシンボルと組み合わされて文法を生み出し、単純なシンボルから複雑なシンボルが構築されていく」と述べています(『言語の起源』序文)。

エヴェレットの進展論は発話形態次元に留まっており、本質的な進化論とはいえないと思いますが、重要な視点として参考にしつつ、時代識知の創造源としての立場から、言語の変化過程を確かめていきたいと思います。