言語の起源として「動物起源論➔連続性理論」を振り返ってきましたが、この理論の最先端はどうなっているのでしょうか。2023~24年の状況を確かめておきましょう。
●スイスの比較言語学者、M.ルルー(Maël Leroux)らは「チンパンジーは驚く時には“アラームヒュー”を発し、攻撃や狩猟をよびかける時には“ワーバー”を鳴らす。・・・アラームヒューとワーバーは、通話の組み合わせの意味がその部分の意味から導かれる、構成的な構文のような構造を表していると推定できる。・・・このような構成構造が人間の系統で新たに進化したものではなく、チンパンジーという共通祖先に存在していた可能性があることを示唆している」と述べています。 (Call combinations and compositional processing in wild chimpanzees:Nature Communications,2023.5) |
●同じくスイスの動物行動学者、S.エンゲッサー(Sabrina Engesser)らの研究チームは「意味のない音の組み合わせを並べ替えることで新たな意味を生み出す能力は、言語の基本的な要素である。動物の発声はしばしば無意味な音響要素の組み合わせから成り立っているが、オーストラリアの鳥であるバブラーの鳴き声を分析したところ、意味のない音を並べ替えて新たな信号を作り出す能力は、人間の外部で発生していることが明らかになった。音素の対比は、音素構造の初歩的な形式を表しており、人間の言語の生成的な音素システムへの潜在的な初期ステップであることを示唆している」と述べています。 (The power of sound: unravelling how acoustic communication shapes group dynamics:THE ROYAL SOCIETY,2024.10) |
●アメリカの行動生態学者、M.パルド(Mickey Pardo)らは、約100頭のゾウが親子や兄弟などに発した鳴き声の音量や周波数などを人工知能(AI)で分析した結果、「ゾウにはそれぞれの名前があり、それを使ってお互いに呼び合うという証拠が見つかった。ゾウという動物は互いに話し合うことが知られているごく少数の種の1つであり、動物の知能と言語の進化的起源に関する科学者の理解に重要な意味を持つ」と主張しています。 (Every Elephant Has Its Own Name:Nature Ecology and Evolution:2024.6) |
●日本の動物学者でも、「動物言語学」を提唱している鈴木俊貴らは「鳥類の言葉には人間の言語と同様に文法がある」と主張しています。「言語は私たちの祖先の単一の突然変異を通じて進化したという伝統的な信念にもかかわらず、蓄積された証拠は、人間の言語の根底にある多くの認知能力が人間以外の動物でも進化したことを示唆しています。例えば、鳥類や人間以外の霊長類のいくつかの種は、特定の発声を通じて概念的な意味を伝えたり、構文規則を使用して複数の意味を持つ呼び出しをシーケンスに組み合わせたりします」とも述べています。 (The ‘after you’ gesture in a bird:Current Biology:2024.3) |
以上で挙げたように、「鳥類や哺乳類などの交信行動に、人類の言語活動の基盤が潜んでいる」という視点は、現在でも濃厚に主張されているようです。