多死化の背景では、「生物的抑制」に加えて「人為的抑制」の面でも、さまざまな抑制装置がすでに作動しています。
人為的抑制装置には、直接的抑制、間接的抑制、政策的抑制の3面が考えられますが、それぞれにおいて次のような抑制が始まっています。
①直接的抑制・・・一例として、直接的抑制装置も作動している!(2015年4月10日)で述べたように、自殺数の増加があげられます。
自殺数は1960年代から漸増し、80年代中期に2万5000人台に達した後、1990年に向けてやや減りましたが、1998年ころから再び急増し、その後10年間はほぼ3万人ラインを続けました。しかし、2010年以降は減少し始め、2015年には2万3971人と、90年代前半の水準に戻りつつあります。
背景には経済動向が関わっているようにも思えますが、80年代中期はバブル経済の絶頂、また98年の急増はバブル経済崩壊から8年も経過しており、直接的な関与は薄いと思われます。
むしろ、1980年代から2000年代前半にかけて、人口容量の制約の強まっていく圧力が抑制装置を作動させたものと推定できます。
2008年に人口減少が始まって、人口容量に幾分ゆとりが出てくると、抑制装置もまた少しずつ緩み始めている、と推定できます。
②間接的抑制・・・加工貿易文明、つまり工業文明の負の側面として、自然環境の悪化やそれに伴う健康水準の低下が指摘できます。
これについても、もう一つの間接的抑制:減少促進装置も作動!(2015年4月24日)ですでに述べたとおり、1990年代から急増した温室効果ガスの量が、2008~11年に産業活動の停滞により一時的に減少したものの、2012年以降再び増え始めています。
これらの影響が温暖化や気候不順、あるいはさまざまな生活環境の悪化となって、日本列島に住む人々の生命力を蝕み始めており、悪性新生物、心疾患、肺炎などの疾病を増加させているようです。
③政策的抑制・・・減少促進策はすでに実施されている!(2015年5月14日)でも述べた通り、人口を減らす政策もまた幾つかの分野で進められています。
代表的な事例として、後期高齢者医療制度の負担増、介護保険料の負担増、介護保険・特別養護老人ホーム費用の負担増など、長寿者向けの社会保障制度の縮減があげられます。
財政健全化には避けて通れない課題ではありますが、人口維持という視点から見ると、長寿者の生活を圧迫することで、結果的には死亡者を増やし、人口減少につながっていきますから、減少促進策の典型といえるでしょう。
以上のように、1990年代から人口容量の制約が強まった結果、人為的な人口抑制装置もすでに作動しているのです。
2016年10月28日金曜日
2016年10月19日水曜日
〈多死化〉はなぜ進むのか?
人口減少の第一の要因は死亡者の増加、つまり「多死化」です。
この豊かな時代になぜ多死化が進むのでしょうか?
その要因については、すでに以下のタイトルなどで述べてきました。
◆生存能力も低下し始めた!(2015年4月4日)
◆直接的抑制装置も作動している!(2015年4月10日)
◆もう一つの間接的抑制:減少促進装置も作動!(2015年4月24日)
◆減少促進策はすでに実施されている!(2015年5月14日)
これらを参照しつつ、人口抑制装置という視点から、改めて多死化の要因を整理してみましょう。
まず「生物的抑制」という視点では、「死亡数の増加」と「死亡率の上昇」があげられ、その背景として「死亡対象年齢層の増加」と「平均寿命延び率の低下」があげられます。それぞれの動向は以下のとおりです。
①死亡数の増加・・・死亡数は、1950年代後半から70年代までは70 万人前後で推移していましたが、1980 年代から増加傾向に転じ、1990年以降は80 万人台、1995年以降はほぼ90 万人台となり、2003 年に100 万人を超え、2007 年に110 万人、2011 年以降は120 万人台となっています。
②死亡率の上昇・・・総人口に対する死亡率も、1950年の10.9‰から1979年に6.0‰で最低を記録した後、上昇に転じ、2003年に8‰を超え、2013年にはすでに10.1‰に達しています。毎年100人に1人が亡くなっているのです。
③死亡対象年齢層の増加・・・75歳以上の人口は、2000年の800万人(7.1%)、2010年の1407万人(11.1%)、2015年の1646万人(13.0%)と急増してきましたが、今後は2020年に1879万人(15.1%)から2030年に2278万人(19.5%)と、さらに比率を上げていく見込です(予測は前掲データ)。
④平均寿命延び率の低下・・・日本人の平均寿命は、1950年の男59.57歳、女62.97歳から、2010年の男79.55歳、女86.30歳を経て、2015年には男80.79歳、女87.05歳と、男女ともに80歳を超えています。
順調に伸びているように見えますが、伸び率をみると、すでに低下に移っています。年間伸び率は、1950年代前半の男1.32%、女1.47%から、1970年代前半の男0.69%、女1.59%、1990年代前半の男1.12%、女1.23%を経て、2010年代前半に男は1.28%とやや回復しましたものの、女は1.12%と徐々に低下しています。
女性がリードしてきた平均寿命にも、今や翳りが見えてきたのです。過去50年間、平均して3年に1歳ずつ伸びてきた平均寿命は、今後は1歳延びるのに5年、その後は9年もかかる、という段階に入っています(予測は国立社会保障・人口問題研究所、2012年推計)。
以上の動向をまとめると、日本列島に住む人口集団では、「死亡対象年齢層の増加」と「平均寿命延び率の低下」によって「死亡数の増加」が起こり、総人口減少に伴って、集団全体で「死亡率の上昇」を招いているということになります。
このうち、最も影響が大きいのは「平均寿命延び率の低下」であり、さらにその背景には「生理的抑制装置の作動」が考えられます。
いいかえれば、日本列島人の生存能力は、すでに低下し始めているのです。
つまり、加工貿易文明の創り出した人口容量、1億8000万人の壁に突き当たったため、修正ロジスティック曲線に沿って、増加から減少へのプロセスを辿り始めているということでしょう。
この豊かな時代になぜ多死化が進むのでしょうか?
◆生存能力も低下し始めた!(2015年4月4日)
◆直接的抑制装置も作動している!(2015年4月10日)
◆もう一つの間接的抑制:減少促進装置も作動!(2015年4月24日)
◆減少促進策はすでに実施されている!(2015年5月14日)
これらを参照しつつ、人口抑制装置という視点から、改めて多死化の要因を整理してみましょう。
まず「生物的抑制」という視点では、「死亡数の増加」と「死亡率の上昇」があげられ、その背景として「死亡対象年齢層の増加」と「平均寿命延び率の低下」があげられます。それぞれの動向は以下のとおりです。
①死亡数の増加・・・死亡数は、1950年代後半から70年代までは70 万人前後で推移していましたが、1980 年代から増加傾向に転じ、1990年以降は80 万人台、1995年以降はほぼ90 万人台となり、2003 年に100 万人を超え、2007 年に110 万人、2011 年以降は120 万人台となっています。
②死亡率の上昇・・・総人口に対する死亡率も、1950年の10.9‰から1979年に6.0‰で最低を記録した後、上昇に転じ、2003年に8‰を超え、2013年にはすでに10.1‰に達しています。毎年100人に1人が亡くなっているのです。
③死亡対象年齢層の増加・・・75歳以上の人口は、2000年の800万人(7.1%)、2010年の1407万人(11.1%)、2015年の1646万人(13.0%)と急増してきましたが、今後は2020年に1879万人(15.1%)から2030年に2278万人(19.5%)と、さらに比率を上げていく見込です(予測は前掲データ)。
④平均寿命延び率の低下・・・日本人の平均寿命は、1950年の男59.57歳、女62.97歳から、2010年の男79.55歳、女86.30歳を経て、2015年には男80.79歳、女87.05歳と、男女ともに80歳を超えています。
順調に伸びているように見えますが、伸び率をみると、すでに低下に移っています。年間伸び率は、1950年代前半の男1.32%、女1.47%から、1970年代前半の男0.69%、女1.59%、1990年代前半の男1.12%、女1.23%を経て、2010年代前半に男は1.28%とやや回復しましたものの、女は1.12%と徐々に低下しています。
女性がリードしてきた平均寿命にも、今や翳りが見えてきたのです。過去50年間、平均して3年に1歳ずつ伸びてきた平均寿命は、今後は1歳延びるのに5年、その後は9年もかかる、という段階に入っています(予測は国立社会保障・人口問題研究所、2012年推計)。
以上の動向をまとめると、日本列島に住む人口集団では、「死亡対象年齢層の増加」と「平均寿命延び率の低下」によって「死亡数の増加」が起こり、総人口減少に伴って、集団全体で「死亡率の上昇」を招いているということになります。
このうち、最も影響が大きいのは「平均寿命延び率の低下」であり、さらにその背景には「生理的抑制装置の作動」が考えられます。
いいかえれば、日本列島人の生存能力は、すでに低下し始めているのです。
つまり、加工貿易文明の創り出した人口容量、1億8000万人の壁に突き当たったため、修正ロジスティック曲線に沿って、増加から減少へのプロセスを辿り始めているということでしょう。
2016年10月5日水曜日
人口回復には出産増加より死亡減少の方が有効!
人口回復が最大の政策課題とする論調が、マスメディアなどでは広がっています。
人口抑制装置という視点から見た場合、今回の人口減少の最大要因は出生数の減少よりも死亡数の増加です。
すでに「人口減少の原因は“少子化”である?」(2015年1月6日)で述べていますが、その後の状況を、2010年から2015年までの5年間で調べてみると、次のようになります。
総人口は2010 年の12805万人から2015年の12690万人へと115万人、約1%減っていますが、減少の要因は次のように推定できます(総務庁・人口推計による)。
①自然減(出生者数-死亡者数)は-114万人、社会減(入国者数―出国者数)は-1万人で、減少への影響は99:1の比重です。
②自然減のうち、増減総数に対する比重は、出生者減少は45%、死亡者増加は55%です。
③両者を勘案すると、減少要因の比重(総数100)は、出生数減で44% 、死亡数増で55%、社会減は1%となります。
以上のように、人口減少の最大の要因は死亡者の増加、つまり「多死化」です。
とすれば、人口増加対策としてまず行わなければならないのは、死亡者の減少、つまり「多死化」の低下対策であるはずです。
ところが、実際の政策では、後期高齢者医療制度の負担増、介護保険料の負担増、介護保険・特別養護老人ホーム等費用の負担増など、長寿者の生活を圧迫することで、結果的には死亡者を増やす方向が採用されています。
これでは死亡数もまた増えるばかりで、多少、出生数が回復したとしても、人口が増加することはまずありえません。
以上の背景には、「若年層が長寿層の生活を助ける」という、人口増加=成長・拡大型の社会にできあがった、ヨーロッパ型の社会保障制度を絶対無二の大前提として、「長寿者の増加による人口増加は好ましくない」というドクサ(臆見)があるからだと思います。
今、人口減少社会で求められているのは、自立した長寿者の増加を前提とする、新たな社会制度の確立なのではないでしょうか。
人口抑制装置という視点から見た場合、今回の人口減少の最大要因は出生数の減少よりも死亡数の増加です。
すでに「人口減少の原因は“少子化”である?」(2015年1月6日)で述べていますが、その後の状況を、2010年から2015年までの5年間で調べてみると、次のようになります。
総人口は2010 年の12805万人から2015年の12690万人へと115万人、約1%減っていますが、減少の要因は次のように推定できます(総務庁・人口推計による)。
①自然減(出生者数-死亡者数)は-114万人、社会減(入国者数―出国者数)は-1万人で、減少への影響は99:1の比重です。
②自然減のうち、増減総数に対する比重は、出生者減少は45%、死亡者増加は55%です。
③両者を勘案すると、減少要因の比重(総数100)は、出生数減で44% 、死亡数増で55%、社会減は1%となります。
以上のように、人口減少の最大の要因は死亡者の増加、つまり「多死化」です。
とすれば、人口増加対策としてまず行わなければならないのは、死亡者の減少、つまり「多死化」の低下対策であるはずです。
ところが、実際の政策では、後期高齢者医療制度の負担増、介護保険料の負担増、介護保険・特別養護老人ホーム等費用の負担増など、長寿者の生活を圧迫することで、結果的には死亡者を増やす方向が採用されています。
これでは死亡数もまた増えるばかりで、多少、出生数が回復したとしても、人口が増加することはまずありえません。
以上の背景には、「若年層が長寿層の生活を助ける」という、人口増加=成長・拡大型の社会にできあがった、ヨーロッパ型の社会保障制度を絶対無二の大前提として、「長寿者の増加による人口増加は好ましくない」というドクサ(臆見)があるからだと思います。
今、人口減少社会で求められているのは、自立した長寿者の増加を前提とする、新たな社会制度の確立なのではないでしょうか。
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