生産・分配制度の変化を顧みると、今後の社会目標の方向が見えてきます。
人口波動における工業現波が、前半の工業前波と後半の工業後波に分かれ、前波から後波に移行していくとすれば、後波における生産・分配制度は、前波の福祉国家と市場経済制度の過度の比重を緩和して、4つの制度がバランスを回復する方向へ向かうことが期待されます。
その時、最も回復が期待されるのが互酬制の再建です。工業前波、つまり近代社会においては、福祉国家と市場経済制度が、私たちの生活のほとんどの部分をサポートする制度として定着化し、そえがゆえにさまざまな矛盾もまた増加させています。例えば福祉財政の破綻や国際資本市場の横暴な介入などです。
こうした矛盾を緩和する手段の1つとして、最近とみに期待が集まっているのが「互酬制」の再建です。近代社会ではいつの間にか片隅に追いやられた家族共同体や地域共同体など地縁・血縁に、もう一度本来の役割を果たしてもらおうというもので、社会学者はもとより経済学者や政治学者、さらには文芸評論家の間にまで広がっています。
いうまでもなく、それぞれの意見において互酬の内容や範囲には違いがありますが、家族、親族、地縁などの共同体に、構成員相互間の生活扶助や生活支援を、一定の規模で委ねようとする方向はほぼ一致しているようです。これらの意見の背景にある、主な論拠を探ってみると、次の3つに整理できます。
第1は国家制度の欠陥を補う視点。近代国家に特有の、社会保障制度の拡大やそれに伴う財政への過剰な負担を避けるため、さまざまな共同体による互酬性を再建し、負担の一部を分担してもらおうという意見です。生活に関わる諸費用や必要サービスのほとんどを国家に頼る、北欧型の福祉国家モデルを見直し、個人を包み込む共同体との連携強化をめざしています。
第2は市場経済システムの欠陥を補う視点。市場経済の拡大が引き起こす格差拡大や貧困層の増加を救済するため、セーフティーネット(安全網)として、共同体を再構築するという意見です。アメリカ型市場経済の利点は認めつつも、過剰な競争と加重する自己責任が、結果としてもたらすマイナス効果に対処していくには、互酬制による最終的保護が求められる、というものです。
第3は社会構造の欠陥を補う視点。現代社会の中に構造的に潜んでいる個人化・モナド(孤立)化に対処するため、さまざまな共同体による保護体制が必要とする主張です。具体的には、伝統的な共同体の復活や新たな共同体の構築によって、多様な互酬性を拡大し、老齢者や幼少年の保護、弱小家庭への支援などをめざしています。
以上のように、幾つかの分野から一斉に互酬制への期待が高まっているのは、人口減少や経済停滞などに伴って、現代社会が成熟した結果ともいえるでしょう。人口が増加し、経済も伸びていた時代には、成長・拡大型社会の背後に密かに隠れていた、さまざまな欠陥が、次第に露見してきたというわけです。
とすれば、工業後波へと向かう、これからの日本にとって、このような要請に応えうる互酬システムの構築が課題になりますが、その方向は大きく分けて、次の2つでしょう。
1つは破壊された共同体の再建。市場経済や福祉国家がなしくずしに壊してきた伝統的共同体、つまり家族や親族、村落や町内会などの共同体を改めて支援し、保護・育成する政策が求められます。
もう1つは新しい共同体の構築。都市化や産業化の進んだ現代社会に対応するには、伝統的な共同体の再興だけではもはや不可能です。そこで、ハウスシェアリングやルームシェアリングなどのシェアリング家族、老齢者や単身世帯などが相互支援を前提に一緒に居住するコレクティブ家族、緊急時の共同対応や生活財の共同購入などを行なうマンション共同体、共同で農業を営む新農業共同体など、すでに進みつつある、新たな共同体の萌芽を活かして、未来型の互酬制の主体に積極的に育成していく対応が必要です。
もしも新旧の共同体の増加によって、新たな互酬制を拡大することができれば、社会全体は徐々に安定感を増していくことになるでしょう。
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