2024年11月19日火曜日

グローバル・レシプロシティーの条件を考える!

互酬制の形態を歴史的に振り返りつつ、今後の展望として、地域や国家を超えた互酬制度の方向を考えています。

下図に示したような推移を基に将来を展望すると、地球レベルの「グローバル・レシプロシティー」はいかなる方向へ向かうべきなのか、幾つかの条件が浮上してきます。

上図から浮上してくるのは、以下のような変化です。

➀制度次元・・・互酬を運営する仕組み、つまり互酬制度は、血縁、地縁、職縁などを基盤とする相互集団から、国民全体の相互扶助(年金、ベーシックインカム)を仲介する国家へと移行してきました。

これとともに、慣習的あるいは伝統的な仕組みであった「互酬」制度は、国政・行政的な「再配分」制度の要素を深めてきました。

➁互助行動者次元・・・互助を行う人間の単位もまた、家族、血族、地縁者、同業者などの「地縁人」から、国民や公民という「観念人」に移行してきました。

これによって、互助という仕組み自体も、相互扶助という協力関係から、国家による制度的援助へと変化しました。

③互助内容次元・・・互助行動の中味は、食糧・衣料など生活資源の提供、作業や介護など労働の提供、儀礼や交際など接遇の提供に始まり、生活資金や保険対応などの金銭提供を経て、生涯資金や最低生活費などの資金提供に至っています。

互酬基盤が地縁から国家へと移行するにつれて、互助の内容もまた、多様な互助関係から金銭的な支援関係へと変わってきています。

以上のような変化によって、互酬制度の基盤である「相互扶助」という精神性もまた、大きく変わりました。

互酬組織が家族・親族・同族集団から、村落や地域の居住集団、組合員や同業者などの就業集団を経て、国民という集団や政府という国家組織に代替された結果、「知縁」的な協力関係、つまり「助け合い」度は急速に薄れてしまったのです。

とすれば、今後の互助制度として、グローバル・レシプロシティーを構想する場合にも、次のような課題が浮かび上がってきます。

❶知縁関係の復活・・・地球単位の扶助関係を構築する前提として、何らかの方法で個々人の間の知縁を確保し、濃密化することが求められる(例:グローバル・ネットワークの応用)。

❷互助精神の復活・・・互酬制の本質である「互いに助け合う」という精神性を復活するため、世界各地の生活環境や生活水準などを周知させ、相互の理解を深めることが求められる。

❸互助内容の集中化・・・物質的な扶助やサービス的な扶助は国家など任せ、ベーシックインカムとして生活資金の互助に集中する。

このような基本条件を前提に、グローバル・レシプロシティーの構想を考えてみると、世界的な組織の創り方、財源、配布方法などの方向が朧気ながらも浮かんできます。

2024年11月9日土曜日

互酬制の歴史を振り返る!

互酬制や相互扶助に関する見解を、F.エンゲルスP.A.クロポトキンK.ポランニーなど、19~20世紀の著名思想家の立場から、ざっと眺めてきました。

さらに、アメリカの文化人類学者、M.サーリンズの互酬関係の3分類(一般的互酬性・均衡互酬性・否定的互酬性・・・『石器時代の経済学』)なども参考にしつつ、互酬制の定義と形態を歴史的な視点から、改めて考えてみました。

まずは当ブログで思考している「Global Reciprocity:地球的互助制」で、最も基本となるのは互酬制」の定義です。

ここで検討する「互酬制」とは、「地球上に生まれてきた人間一人が、生涯を生き抜くための、基本的な生活資源を、他人との間で補い合う仕組み」と規定します。

そのうえで、これまでの人類史に現れた「互酬制」の先例を、集団的な次元で整理してみると、下表のようになります。

血縁集団

最も基本的な互酬団体として、世界各地でさまざまな制度が行われてきました。
日本では農山漁村でイッケ、カブウチ、マキ、クルワなどの同族集団、商人社会ではノーレンといった血縁集団において、互酬性が行われてきました。中国大陸でも宋代以後、「義荘」という名称で続けられてきたようです(平凡社・世界大百科事典旧版)。
この次元では、家族・親族・同族など血縁関係が扶助担当となっています。

●地域共同体

多くの学者によって、さまざまな実例が紹介されています。

クラ交易(パプアニューギニア、トロブリアンド諸島・・・B.マリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』1922

ポトラッチ(北米・北西沿岸インディアン諸族・・・M.モースの『贈与論』1925)

クラールランド制度(アフガニスタン・ヒンドゥークシュ山脈民族カフィール族・・・L.P.メア,An African Ponte in the Twentieth Century1904)

このほか、日本ではユイ・頼母子・無尽講などが、朝鮮半島では「」が、台湾本島原住民アミ族でも「頼母子」などが行われてきました(小学館・日本大百科全書)。

この次元では、村落居住者や地域居住者など、特定地域の住民同士が扶助担当となっています。

●社会共同体

中世ヨーロッパ都市におけるギルド(職業別組合)や、近代以降の世界各地で生まれた友愛組合・共済組合・労働組合・協同組合などが挙げられます(平凡社・改訂新版 世界大百科事典)。

この次元では、同業者組合員などが扶助担当となっています。

●国家

国家がそれ自体として互酬制に関わるのは、年金制度ベーシックインカムです。

1889年にドイツ帝国が始めた、民間人の強制加入による年金制度は、20世紀には各国に広がり、国家主導の互酬制として定着しています(世界史の窓)。

また近年では、租税を財源とするベーシックインカム制が、ヨーロッパ諸国で試行され始めています。

この次元では、一人一人の個人を越えて、その集団を意味する国家という団体が扶助担当となっています。

国民集団政府そのものが、扶助を保証しているといってもいいでしょう。

以上のような推移を歴史的に振り返ると、今後の展望として、地域や国家を超えた互助制度の方向が浮かんでくるようです。

いかなるものなのか、さらに考察していきましょう。