5大波動の成立構造で述べた、5つの仮説を検証しています。
最初は基層言語の変化。このブログでは、5万年前ころの深層言語の浸透、1万年前あたりの象徴言語の登場、5千年前ころから自然言語の普及、ほぼ3千年前からの思考言語の拡大、600~700年前あたりからの観念言語の普及…とおおまかに推定しています。
この仮説は検証できるものなのでしょうか。
言語の進化過程については、解剖学、脳科学、生物学はもとより、哲学、言語学、考古学、心理学、人類学など、さまざまな分野の研究者がそれぞれの立場から発言しますが、いずれも確かなエビデンスはなく、一応の推定結果として公表されています。
それゆえ、当ブログの言語進化論もまた、さまざまな所見を参考にしつつ、あくまでも推定行動として検証していきましょう。
最初の検討事項は、言語そのものの発生・発達過程です。
イスラエルの歴史学者、Y.N.ハラリ(Yuval Noah Harari:1976~ )は、その著『サピエンス全史』の中で、「約7万年前から約3万年前にかけて、人類は舟やランプ、弓矢、針を発明した。(…)ほとんどの研究者は、これらの前例のない偉業は、サピエンスの認知的能力に起こった革命の産物だと考えている」とし、「7万年前から3万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法の登場のことを、『認知革命』という」(上巻:P34〜35)と名づけたうえで、この革命の意味について「私たちの言語が持つ真に比類ない特徴は(…)まったく存在しないものについての情報を伝達する能力だ」と述べています(P39)。
またアメリカの言語学者、J.ニコルス(Johanna Nichols:1945~)は、世界の近代言語の共通の祖先が少なくとも10万年前に発生したという証拠を提示し、前近代型の音声コミュニケーションの古代のルーツを示唆しています(FindArticles:1994年6月11日)。
これらの主張に従えば、「言語」という認識手段は、10~3万年前の間に人類が生み出したもの、と考えられます。だが、その進化過程については明らかではありません。参考になるのは、次のような発想でしょう。
アメリカの言語学者、D.J. エヴェレット(Daniel Leonard Everett:1951~
)は言語起源の記号進展理論(sign progression theory)として、10~5万年前に起きた突然変異を否定したうえで、「言語は指インデックス標記号(足跡が動物を指すように、物理的につながりのあるものを表す事項)、類アイコン像記号(実在の人物の肖像画のように、表そうとする事物と物理的に似ている事物)、それから最後に象シンボル徴記号(ほとんど恣意的な、慣習的な意味の表し方)の創造へと、徐々に現れてきた」とし、「シンボルはいずれ他のシンボルと組み合わされて文法を生み出し、単純なシンボルから複雑なシンボルが構築されていく」と述べています(『言語の起源』序文)。
エヴェレットの進展論は発話形態次元に留まっており、本質的な進化論とはいえないと思いますが、重要な視点として参考にしつつ、時代識知の創造源としての立場から、言語の変化過程を確かめていきたいと思います。